【第二体育館、秘密の決戦】
ジュリアはストライカーだ。
とにかく打撃での戦いを好む。
それに対し、華はジュウドーがベースのグラップラー。
故に戦いの構図はシンプル。
離れた距離で打撃で戦えばジュリアが有利。接近した状態で組んでしまえば華の有利、というわけだ。
ただ、戦いと言うものは必ず離れた距離で始まるもの。
「行きますわよ！」
ジュリアのキックが飛んでくる。
脇腹を強襲するような、高速のミドルキック。
腕でそれを防いだ華だが、その重たさに体が流れる。
鋭くて重い。
これが直撃していたらと考えると、ぞっとした。
だが、立て直す間もなく、ジュリアの攻撃が。
次は左のジャブを二回からの右ストレート。二発のジャブは距離を取って避けられたが、踏み込みながらの右ストレートが顎をかすめる。
かすっただけなのに、脳が揺れて足がぐらつく感覚が。
「相変わらず、打撃に隙がありますわね」
距離を取って打撃の間合いから逃げる華に対し、ジュリアはそのゴージャスな金髪をかき上げてみせる。
「なめるなよ……」
華の中でスイッチが一つ入る。
腰を落として、しっかりと顔を守りながら、ゆっくりと距離を詰める。
ジュリアも空気の変わりようを察知したのか、やや真剣な表情に変化した。
ジュリアが左のジャブを出した途端、華が高速のタックルを見せる。
が、ジュリアはそれを受け止めると、凄まじい力で華の体を引き剥がした。
さらに、離れ際でジュリアのコンパクトな左フックが。
華はしっかりと腕で顎を守ったが、同じ左フックが間を置くことなく右の脇腹を襲った。
「ぐっ」と思わず呻き声を漏らす。
それでもあきらめずに、ジュリアの太ももに向かってタックルを仕掛けた。
両腕でジュリアの太ももを捉え、そのまま倒してやろうと思ったが、ジュリアの足は床に根を下ろしているのでは、と思うほど重たい。
さらに両手で華の頭を押し込み、足を引っこ抜かれてしまった。
「ぜんぜん切れがありませんね。貴方の言う通り、二分で決着が付いてしまいそうです」
「金持ちのお嬢様のくせに、せっかちだな」
「タイムイズマネーを徹底しているから皐月家は莫大な財を築いたのです。貴方もその辺り、シビアに考えた方がいいですわよ」
「あっそ。じゃあ、早めに終わらせてやる」
華はタックル、
と見せかけて右の拳を振り回す。
しかし、ジュリアは最低限に身を反らして避けてみせると、膝を突き上げた。それは華の腹部に突き刺さるが、痛みを無視することで足を掴むことに成功する。
ドンッと床を蹴り、そのままの勢いで押し倒そうとするが、ジュリアは器用に片足で飛びながらバランスを取った。
最終的には倒しきることはできず、ジュリアの体は壁に押し付けられ、支えを得ることに。
ならば、と足を払って倒そうとするが、ジュリアはそれすら耐え、華の顔面を手の平で押し込むと、体を離そうとした。その怪力に思わずジュリアを掴む手が離れてしまう。
まずい、と距離を取ったが、そこに追撃のキックが。
華は何度も腹部に攻撃をもらっていたため、反射的に下の方を守ったが――。
ガツンッと強烈なハイキックが華の頭にヒットする。
ふらふらと後退しつつ、
何とか耐えようとしたが、足に力が入らず、華はその場に座り込んでしまった。
そんな華を見下ろすジュリアは、もはや続ける必要を感じていない。彼女は床に落ちたスマホを拾い上げると、一度だけ画面にタッチした。そして、その表示を華に見せる。
二分十九秒。
華にとって屈辱的な数字となってしまった。
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