【男で失敗する女】
誠の様子がおかしい。
どこか気持ちが沈んでいるようだった。
対戦が決まったからだろうか。
相手は岩豪鉄次。
今の誠では勝ち目はないだろう。
何とかして勝たせてやれないか……と考えながら教室へ向かっていると、
待ち伏せるようにジュリアが廊下に立っていた。
「おはようございます、綿谷さん。浮かない顔をしてしますが、何か心配事でも?」
「別に。あんたに気に掛けてもらうほどのことはない」
「そうでしょうか? 私と貴方の決戦まで、残り一ヵ月程度。そんな気の抜けた状態では困るんですよねぇ」
「抜けてなんかないよ」
と言ったものの、
先日交わした皇との会話を思い出す。
「抜けてますよ。上の空です。虚ろもいいとこ。たるたるにたるんでいます」
あからさまに溜め息を吐くジュリア。
「もう見ているだけでそれが分かるので、こっちも集中できないのです。いい加減にしてもらえませんか?」
無視して立ち去ろうとしたが、ジュリアが呼び止めた。
「分かりました。これは言うまいと思っていましたが、仕方がありません。貴方がそこまで腑抜けているなら、言ってあげましょう。はっきりと言って差し上げます。だから、耳をかっぽじってよくお聞きなさいな」
ジュリアは一呼吸置いてから、言い放った。
「やっぱり、貴方はご自身のお母様と一緒。男で失敗して、何もかも台無しにしてしまうのです」
華は足を止め、ジュリアの方へ振り返る。
「誰が男で失敗するって?」
「自覚がないって、相当やばいと思いますよ? 落ちぶれつつある自分に気付かないなんて最悪も最悪。まさに滑稽の一言に尽きます。きっと、貴方のお母様もこんな感じだったのでしょうね」
華はジュリアに詰め寄る。
それは今にも掴みかかりそうな距離だ。
「誰も落ちぶれてなんかない。私はいつでも、あんたを絞め上げてやれるんだからな」
「あらあらあら。本当ですか? 今の貴方なら私、三分もあればフルボッコにできますよ?」
「なら、私は二分で絞めてやる」
ジュリアが不敵な笑みを浮かべる。
「なるほどなるほど。では今の貴方は、腑抜けてもいなければ、落ちぶれつつあるわけでもにない、と本気で言っているのですね?」
「もちろんだ」
「よろしい。それでは、証明してもらいましょう」
授業開始の時間だが、
二人は第二体育館にいた。
ここは校舎から少し離れたところにあるため、人気は全くと言っていいほどない。
「ここなら、貴方が恥を晒しても誰にも見られることはありません。安心してください」
「ご心配ありがとう。でも、恥を晒すのはあんただ」
「いいでしょう、いいでしょう。少しだけですが、貴方らしさを取り戻しましたね」
ジュリアはスマホを操作すると、
その画面を華に見せた。どうやらタイマーを設定したらしい。
「では三分です。三分以内に貴方を制圧してあげます」
スマホを床に置くジュリアへ華は吐き捨てるように言った。
「後で泣いて謝っても知らないからな」
社長令嬢らしく上品な振る舞いを見せるジュリアではあるが、このときばかりは違った。
戦いに身を投じる者だけが見せる、殺気に満ち満ちた顔を見せるのだった。
「それでは、地獄の三分間を味合わせてあげましょう。目を覚まさせてあげます」
スカートの裾をつまみながら、貴婦人のようにお辞儀するジュリア。
そして、床に置かれたスマホの画面に触れる。タイマーがカウントダウンを開始し、彼女はスマホを置いたかと思うと、
床を蹴るようにして華の方へ向かってきた。
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