【六割】
土曜と日曜、誠と会わなかった。
誠はいつもスクール帰り、
アボナダタークのクラムへ寄って一緒に練習し、
七時前にはアスーカサへ向かってしまうのだが、土日は直接アスーカサで練習するようだ。
気付くと、自分の体がマットに叩き付けられていた。
「うわ、久しぶりにハナちゃんのこと投げちゃった」
練習相手がびっくりしている。
華は立ち上がって言った。
「もう一回、お願いします」
集中して戦えば何ということはない。しっかりと華が一本取ったわけだが、
これでは駄目だ。
練習中は一分一秒、集中しなくては。
しかし、月曜日。
いつもより早く起きて、いつもより早くスクールへ……
いや、誠が住むマンションへ向かってしまう。
何を浮かれているんだ、と自分の感情に混乱していると、彼女の行く先を遮るものがあった。
「華先輩」
静かな声が華を呼び止める。
「……颯斗」
それは、男子暫定勇者の皇颯斗だった。
「なんだよ、朝っぱらから」
皇は辺りを見回す。
たぶん、自分たちと同じ制服を着た人間がいないか確認しているのだろう。
「ちょっと、こっちに」
言われるがままついて行くと、人気のない公園で皇は足を止めた。
「こんなところで、何をするつもりだ?」
皇が足を止めて振り返ったかと思うと――。
突然の右ストレートが飛んできた。
それは、ここ最近では見たことがないような、凄まじいハンドスピードだった。
反射的に避けてみせたが、ほぼ偶然だ。
それでも自分を褒めてやりたい。それくらい、皇のパンチは速かった。
「お前、何のつもりだ?」
華の質問に答えず、
皇は手にしていたスクールバッグを放り投げた。
どうやらやる気らしい。
華も仕方なくスクールバックを手離したが、皇が瞬時に間合いを詰めてきた。
目では捉えられないほど速い左の拳。
華はバックステップでやり過ごすが、今度は皇のハイキックが華の頭部を狙ってくる。
身を屈めてそれを避け、すぐにタックルを仕掛けようとしたが、皇の反応は速い。
タックルは簡単に受け止められ、組み合う状態になった。
だが、華は得意なジュウド―技がある。このまま足を払って倒してやる……はずが、皇は凄まじい足さばきでそれを封じると、華の体を押して距離を作った。
一呼吸置く暇もなく、強烈な右ストレートが。
華は素早く身を屈めて避けると、再度タックルを仕掛けようと地を蹴ったが、皇の膝が跳ね上がるように迎える。
ドンッと衝撃を受けて、華は数歩後退りした。
何とか両腕でガードはしたものの、かなり危ない一撃だ……。
華は構え直すが、皇は両手を降ろして、砂場に放り投げられていたスクールバッグを拾い上げた。どうやら、終わったらしい。立ち去ろうとする皇に華は言った。
「おい、どういうつもりだよ。少しくらい説明しろって」
感情のない皇の視線が華に向けられる。
「説明する必要、ある?」
「あるだろ、ここまでやったんだから」
と呆れる華だが、皇は言い放つ。
「もっと集中して練習しないと、負けるよ。六割の僕に押され気味なんだから、本気のジュリア先輩のパンチは避けられない」
「別にお前なんかに押されてねぇ」
「それ、嘘じゃないって本気で言えるの?」
「……」
「今の華先輩は弱い。神崎誠を構っている暇、ないでしょ」
今度こそ立ち去ろうとする皇に、華は何も言えなかった。
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