【ドツボ】
放課後、誠と一緒にクラムへ向かう。
途中、親し気にしていた魔法科の一年との関係をそれとなく尋ねてみた。が、誠本人も心当たりがないようだ。
何を心配しているんだ。
いや、どうでもいいことなのに、何を探るようなことをしているのだ。
男で失敗してほしくない。
と言う叔母の声が聞こえた気がした。
クラムで練習を始める。
誠も積極的に大人たちから技を教わっているが、何も形になっていない。
こいつを強くしてやらないと……。そんな気持ちで練習相手になってやったが、やはり誠は弱すぎる。自分の練習相手になっていないのは確かだった。
「ぐえぇっ!」
マットに叩き付けられた誠のが情けない声を出す。
「ハナちゃん、強すぎ。絶対、ハナちゃんより強い女子なんていないでしょ」
「そ、そんなの当たり前だから」
誠は華に投げられるたびに称賛の言葉を呟く。それが華の心をくすぐり、その日にあった嫌なことを忘れさせる。
なんだろう、この居心地の良さは。
華は考える。
今まで、これだけストレートに自分を全肯定してくれる人間がいただろうか、と。
次の日も、誠と一緒に登校して何となく気付いてしまった。
こいつと一緒だと、凄い自然体でいられる。今までは、どこか世間に対して意地を張っていた。私は母を乗り越えるのだ、と。
だけど、誠だけは母と言うフィルターを通さずに自分を見てくれる。そんな気がしていた。
「ハナー、今日はお昼どうする?」
昼休み、火凛からいつもの質問を投げかけられたが、華は誤魔化すような笑顔を見せてしまった。
「わ、悪い。ちょっと今日用事あるから、一緒に食べられないわ」
「え、そうなのー? 早く言ってよ」
「ごめんごめん」
と言って教室を出て行く。
誠に学食を案内してやる、と約束していたのだ。早目に言い訳を考えて、火凛に怪しまれないよう、昼休みを抜け出すべきだったが、すっかり忘れていた。
しかし、学食から戻ると、嫌な笑みを浮かべた火凛が待っていた。
「例のカレシくんとお昼、楽しかった?」
「べべべ、別に! っていうか、何の話!?」
これでは誤魔化せていないではないか。またからかわれてしまう……と不安に思ったが、火凛が見せた表情は、想像とは違ったものだった。
「あんた、本当に大丈夫?」
「な、何が? ぜんぜん大丈夫だから」
「……そうかなぁ」
放課後、誠からメッセージが入っていた。
「今日は遅くなりそうだから先に帰ってて!」
スマホの画面を見ながら溜め息を吐き、妙な感じがあって顔を上げた。
「な、何をがっかりしているんだ、私は」
何かこれ……駄目じゃないか?
そう思わないでもなかったが、『いやいや大丈夫、何も問題ない』と自分に言い聞かせてしまうのだった。
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