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【新しいカレシ】

さらに時間はさかのぼる。神崎誠がアミレーンのスクールに入学した日まで。


「あんた、新しいカレシできたって本当?」


まだ登校してから一時間も経っていないはずなのに、同じ質問を何度受けたのだろうか。どいつもこいつも下らない。他人の恋愛事情がそんなに気になるか?


いや、そもそも私のあれは恋愛ですらないのだから。


「しかも、また年下なんでしょ? イケメン? やっぱりイケメンなの?」


しつこく質問を重ねる、黒髪の女子生徒は日野川火凛。


華にとってはスクール内で最も親しい人間と言えるわけだが、まさか彼女までこの下らない話題に興味を示してくるとは……。


いや、彼女だからこそ、この話題はしつこく追及してくるかもしれない。


「流石、モテるよねぇ。いいなぁ、私も優しくて従順な年下のカレシ、ほしいなぁ。あ、やっぱりいらない。私は年上がいいなぁ。包容力があってさ、何しても可愛いって言ってくれるような、優しい人」


火凛は華の無反応っぷりなど気にすることなく、自分の理想を語るが、やはり話は戻ってしまった。


「で、どんな人なの?」


綿谷華は既に怒りを通り越して、無の境地に至っていたつもりだが……。


「あいつはカレシなんかじゃねぇ」


と、つい反論してしまった。

しかし、それは火凛の目を輝かせることになってしまう。


「じゃあ、その『あいつ』って……誰? その『あいつ』について詳しく教えて」


まんまと罠にはまった。

そんな気がして、華は何も言えず、ただ顔をしかめる。


火凛から顔を背け、淡々とスクールバッグから教科書を取り出し、机の中へしまう華。そんな彼女を見て火凛は首をすくめた。


「ま、あんたが黙っていても、どーせどっからともなく情報は入ってくるからいいんだけどねぇ」


あいつが転校してまだ初日。

しかも、あいつは自分の教室に足を踏み入れてすらいないはず。


それなのに、どれだけ噂が出回っていると言うのだ。それは、いつものことながら、華の肩に煩わしさという重荷を乗せるのだった。


「失礼します!」


高い声が教室内に響いた。

そして、教室内の人間が一斉にそちらへ向く気配。


騒がしいやつがきた、と華は心の中で呟いた。


教室に入ってきた何者かは、机を避けながらも殆ど一直線に華の方へ進み、彼女の前で腕組みポーズで立った。


「綿谷さん、おはようございます。ご機嫌はいかが? いえいえ、聞かなくとも知っています。どうやら絶好調らしいですね、新しい男を連れて登校とは」


華は横目で、その人物を睨み付ける。ゴージャスな金髪を縦巻きにした、碧眼の美女。


彼女は皐月(こうげつ)ジュリア。

女子のランキング二位のランカーであり、次期暫定勇者決定戦の挑戦者……つまりは華の次の対戦相手だ。


この尊大な態度。

ジュリアは皐月グループというオクト国内有数の大企業、その社長令嬢であるため、そういった雰囲気が染み付いている。本人も周りの人間もそれを良しとしてしまうほど、型にはまったキャラクターであり、ある意味、愛されている存在だ。


「絶好調なんかじゃない」


そんなジュリアに対し、華は目も合わせることもなく言う。


「朝から変な噂が出回っているし、今も面倒なやつにも絡まれて、最悪な気分だ」


すると、ジュリアは「面倒なやつ」を探して辺りを見回したが、それらしい人物は見つけられなかったらしく、子供のように首を傾げた。しかし、すぐに取り繕うような咳払いをしてから、鋭い目線と同時に華の方へ人差し指を突き出した。


「どっちにしても、余裕たっぷりでよろしい。心の余裕があるということは、日々の鍛錬も充実している、ということ。でも、だからこそ、先に言っておきます。私に負けたとき。男と遊んでいて気が抜けていた、なんて言い訳はなしにしてくださいね」


「言い訳する必要なんてないよ。それに遊んでもない」


「それは結構。事実がどうであれ、言質を取れたのであれば問題ありません。ここにいる皆様が証人ですからね。おかげで、一カ月後がより楽しみになりました。心配事もなくなったので、これから勉学に集中できるというものです。嗚呼、よかったよかった」


といってジュリアは踵を返す。そのまま、大人しく教室を出て行くかと思われたが……。


「日野川さん」と華の友人の名を呼ぶ。

「は、はい!」


同い年ではあるが、尊大かつ気品に溢れたジュリアの態度に、思わず丁寧に返事をする火凛。そんな彼女に、まるで召使に命じるような口調でジュリアは言った。


「それでは、綿谷さんの新しい男を見に行きましょう」

「お供させていただきます、お嬢様」

「おい馬鹿どもやめろ」


これまで、冷めた態度を見せ続けた華だったが、このときばかりは高速で二人の前に回り込んだ。


「あら、そこまで大事な彼なんですか? 過保護はよくありませんよ」とジュリア。


「お嬢様、華は明らかに動揺しています」と火凛も悪い笑みを見せた。


二人の表情を見て、ついに華の感情が爆発した。


「ジュリア……お前は! ここで! 殺す!」




もう少しで一カ月後に行われるはずだった暫定勇者決定戦が始まるところだった。が、それは華たちの教室に担任教師が入ってきたため、騒ぎは大事にならなかった。


ただ、それは必ず行われる。

一カ月後、綿谷華と皐月ジュリアのどっちが強いのか、誰もがわかる形で示されるのだ。

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