【賭け事の賞品】
時間は神崎誠が岩豪鉄次と対戦する、数週間前までさかのぼる。
「では、私が勝ったら神崎誠にちょっかいを出してやります。彼が私に惚れるように、色々と仕掛けてやるのです」
ゴージャスな金髪をかき上げ、ジュリアは言った。
「その結果、彼が自分の意志で私のことを好きになったら、問題ないでしょう。ええ、彼を私のものにしてしまいます」
「ふざけるな、意味がわかんねぇ」
ジュリアの発言に頬を引き攣らせるのは綿谷華。アミレーンスクールの女子暫定勇者だ。
いつもはクールに振る舞う彼女が、頬を赤く染める姿を見て、ジュリアは満足げである。
「でもぉ、綿谷さんは彼のこと、別に好きじゃないんでしょ? だったら、別にいいじゃないですか」
「ああ、そうだよ。好きじゃないよ。だけど、それとこれとは関係ない。っていうか、わざわざあいつを賭け事の賞品みたいに扱う必要ないだろうが」
「ありませんけどぉ……綿谷さんが嫌がりそうだから、そうしたいんです」
「お、お前は……」
顔を赤くして拳を握りしめる華だが、ジュリアは飽くまで挑発的だ。
「あら、怒っている怒っている。どうして怒っているのでしょう。怒ると言うことは、何か特別な感情があるのでしょうか? 再三否定しているので、そんなことはないはずですが、かと言って何もないのに怒るなんて不自然ですよねぇ」
口を開いてしまったら旗色が悪い。
何とか冷静に判断した華は全力で口を閉ざす。が、ジュリアはその口を閉ざしてはくれなかった。
「この際、綿谷さんの気持ちは横に置いておきましょう。横に置いておいてあげます。でも、決めました。綿谷さんの気持ちに関係なく、私が勝ったら神崎誠を誘惑する。一緒に帰ったり、お弁当作ってあげたり、テスト前は一緒に勉強したり、スクールカップルがやりたがるような、ベタこと全部やってやります」
「勝手にしろ!」
その場を立ち去ろうとする華だったが、その背にジュリアの声が。
「あら、許可をいただいた、ということでよろしいですね?」
無視して、華は歩いた。
何を苛立っているのだ、と自分に問うが、その昂りが収まらない。すれ違う人、誰もが振り返るほど、その気迫は凄まじいものだった。
さて、彼女の身に何があったのか。
さらに時間はさかのぼる。神崎誠がアミレーンのスクールに入学した日まで。
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