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【死ぬかもしれない】

体育館の前で待機していると、中から進行役の先生の声が聞こえてきた。


「女子暫定勇者、綿谷華による推薦枠、神崎誠の入場です!」


体育館のドアが開かれると同時に、突風のような歓声が外へ押し寄せる。


たくさんの人が熱狂した目で、僕を見ていた。


おいおい、つい最近まで教室の隅で誰にも相手にされなかった――いや、生ごみ同然の扱いだった僕が、どうしてこれだけの歓声を浴びることになったんだ。


そこには、モニターから見聞きしていた物とは違う、異質な空気が広がっていて、僕の足は固まって動かなくなってしまった。


「さぁ、神崎くん。進んで!」


「ひゃ、ひゃい(はい)!」


三枝木さんに押されるように、体育館へ入場すると、さらに歓声が大きくなったような気がした。人と人に挟まれた狭い道を進むと、誰もが僕に触れようと手を伸ばす。


中には「ジェノ! ジェノがいるぞ!」と叫ぶ人も。


道の先には、八角形のマットを金網で囲んだ、巨大な檻のようなものが。


あれがケージと呼ばれる対戦の場だ。

あの中で戦うのか、と思うと目がくらみそうになる。


震える足を何とか前へ前へと進め、ついにケージの中に入った。


「リラックスですよ」


と言いながら三枝木さんが僕の両肩をほぐしてくれるが、その声はどこか遠くから聞こえるような気がして、現実味がなかった。


やばいぞ。

めちゃくちゃ緊張している。


「続いて、勇者科ランキング三位! 岩豪鉄次の入場です!」


進行役が岩豪の名を呼ぶと、僕のときと同じように体育館の扉が開かれた。


すると、さっきとは比べ物にならないような歓声が。いや、歓喜が体育館中で踊り狂った。


堂々と入ってくる岩豪の姿は、まさに勇者。誰からも、その強さを認められ、讃えられ、憧れられる勇者の姿だ。


ゆっくりとした歩調で岩豪は進み、ついにケージの中へ入ると、一斉に拍手が起こる。それは暫く続いたが、会場が静けさを取り戻すと、進行役の先生がマイクを手に、ケージの中央へ立った。


「それでは本日のラストマッチ。暫定勇者、次期挑戦者決定戦を行います!」


再び、僕を押し潰すほどの歓声。

本当に、こんな状況デ、タタカウのカ?


「ここからは一人です。落ち着いて、戦うことに集中してください」


三枝木さんがケージを出て行くと、岩豪のセコンドや進行役の先生も出て行ってしまった。


入れ替わるように、スキンヘッドの怖そうなおじさんが入ってくる。どうやらレフェリーらしい。


「お互い、中央に」


レフェリーに言われるがまま、中央へ進むと岩豪と向き合う形になった。岩豪の目は「鋭い」という表現ではあまりに足りない。覇気に満ちている、というのも違うだろう。


殺気。

そうだ、僕を殺すことしか考えていない。そういう目だ。


僕もそのつもりで戦わなければならないのだろう。だけど、岩豪のオーラに、あれだけ緊張させられた人々の声援すら忘れて、岩豪のオーラだけに呑まれてしまいそうだ。


そんな僕の気持ちなぞ歯牙にもかけず、レフェリーは淡々とした口調で言った。


「反則行為に気を付けて。魔法も駄目。危ないときは止めるから。それじゃあ、いいね?」


な、なにが「いいね?」なんだ?

もう始まるってことだよな?


これから、この八角形の空間で、

僕と岩豪が殺し合うのか?


岩豪が軽い足取りで金網際まで下がる。それに対し僕は何をすべきかわからなくなってしまい、無駄に左右を確認してしまった。


「早く後ろに!」


とレフェリーに怒鳴られ、僕は数歩後ろに下がった。


やばいぞ、はじまるぞ。

もうパニックだ。


「ファイッ!」


レフェリーが手刀を落とし、始まりの合図を告げるとゴングの音が鳴り響いた。それとほぼ同時に、岩豪が距離を詰めてくる。


やばい、はじまっているぞ

いい加減、実感しろよ!


自分に言い聞かせるが、何も動けないうちに岩豪が目の前まで迫っていた。


「神崎くん! ファーストコンタクト、しっかり!」


背後から三枝木さんの声。

そうだ、最初が大事って話だったけど、何をするんだっけ!?


岩豪が右の拳を後ろに引く。

これは、フェイントなしで力任せのパンチがくるぞ!


僕は身を屈めつつ、すぐに横へ飛んだ。

同時に「ぶぅんっ!」と頭上で音が。

岩豪のパンチが風を切る音だ。


一瞬だけ、岩豪の対戦映像で見た光景が頭に過る。対戦開始からわずか五秒で倒れた岩豪の相手。少しでも反応が遅れたら、僕もあれと同じ状態だったわけだ。


「神崎くん、距離!」と三枝木さんの声。


そうだ、びびっている場合じゃない。

岩豪はこちらに向くと同時に、両手を伸ばしてきた。掴まれる、と僕はそれを右手で払いつつ、バックステップで距離を取る。


岩豪は拳と拳を「ポンッポンッ」と合わせながら、調子を確かめるように首を傾げた。


まずいぞ、と僕は思った。

この世界にやってきてから、何度も心の中で「死ぬかもしれない」と一人呟いたことがあった。


でも、今回に関してはマジのガチだ。


今まで感じた絶体絶命の瞬間がぬるく感じるくらい。だから、あえて改めて言わせてもらおう。最大の危機感を詰め込み、改めて。


……これ、死ぬかもしれない。

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