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【対戦直前、控室にて】

対戦当日。

僕は控室で、三枝木さんに拳を保護するバンテージを巻いてもらっていた。


「練習と違って、実際の対戦は想定外のことばかり起こります。しかし、作戦を遂行する気持ちを強く持って戦ってください」


「は、はい」


「緊張してますか?」


「は、はい」


控室にはモニターがあり、ランキング戦の様子が中継されていた。


全部で十の対戦が行われるが、どういうわけか、僕と岩豪がトリをつとめることになっている。第六対戦がノックアウト決着だったらしく、モニターから会場の歓声が聞こえてきた。


「こんなにお客さんが入っているとか思わなかったので、めちゃくちゃ緊張しています」


「ランキング戦は、学生部門も庶民の娯楽として公開されていますからね。それに、次の勇者候補たちがしのぎを削っているわけですから、王室関係者の方も視察でこられているはずですよ」


「学校の合唱コンクールですら、本番は震えて歌えなくなるタイプなのに、本当に大丈夫かな」


「合唱コンクール?」


「あ、いえ……とにかく緊張して、戦えるか心配です」


「集中すれば周りは見えなくなりますよ」


三枝木さんは簡単に言ってくれるが、あの状況で集中なんてできるだろうか。


「集中しなければ、殺されると思え」


そう言ったのはセレッソ。


普段、スクールには部外者は入れないが、三枝木さんと同じく僕のサポーターとして、ここにいる。


「そうですね。まぁ、相手と向き合えば、そういう気持ちになるかもしれません」


「そういうものですか?」


三枝木さんは何かを含んだような笑顔を見せる。実際に、その状況になればわかる、と言いたげだ。


「ルールを再確認しましょう」


バンテージを巻き終えた三枝木さんが説明する。


「三分三ラウンド。後頭部、金的、目つぶし、噛み付きなど危険な攻撃はなし。魔法も駄目です。決着はノックアウトか関節技による一本、ギブアップ、レフェリーが危険と判断したとき。時間内に決着がつかなかったら、五人の審査員による判定、つまりはどっちが勝ったか、多数決で決めるようなものです。判定の基準は積極性やダメージを与えた回数、対戦を支配したかどうか、という点が重要になります」


「支配、というのは?」


「対戦のペースやポジションですかね。どんなに積極的に攻撃していても、すべてを抑え込まれていたら不利になる。対戦の空気をコントロールしている、と言い換えても良いでしょう」


「やりたいことを明確にやっている方が有利、ということですかね」


「その認識で問題ありません」


ルール確認が終わったタイミングで、控室の扉がノックされた。三枝木さんが返事をすると、武田先生が顔を出す。


「お、ジェノさん。久しぶりっす」


「ジェノはやめて」


二人は知り合いらしく、冗談を言い合っていたが、三枝木さんのことをジェノサイダー呼びする人の方が多いことに驚きである。


二人の会話が終わると、武田先生が僕の方を見た。


「神崎。一年の子がお前に会いたいそうだ。対戦前だが大丈夫か?」


「は、はい」


取り敢えず返事してから、誰だろうかと頭の中で首をひねる。


「先輩、こんなときにすみません」


控室に入ってきたのは、芹奈ちゃんだった。


「どうしたの?」


「あの、対戦の前にどうしても応援の言葉を……と思いまして。その、迷惑でしたよね?」


「いやいや、嬉しいよ!」


芹奈ちゃんは体調の話や僕なら絶対に勝てると励ましの言葉をかけたあと、口をもごもごさせて黙り込んでしまう。僕から何か話題を振った方がいいだろうか、


と口を開きかけたとき「あの!」と芹奈ちゃんは言った。


「こ、こここここれ、よかったら受け取ってください」


彼女が取り出したのは、お守りらしいものだった。僕の知っているお守りとは少し違った形ではあるが、たぶんそうだ。


「え、わざわざ買ってくれたの?」


「い、いえ! 私、魔法使いなので簡単な護符なら作れたりするんです!」


「え、手作り? 凄い!」


僕が芹奈ちゃんが持つお守りに手を伸ばそうとした瞬間、控室の扉が再び開いた。


「いるかー?」


「ハナちゃん!」


赤い髪を揺らしながら、ハナちゃんが控室に入ってきた。


最近、お互い自分の練習に集中していたから、会うのは久しぶりで、僕も思わず顔がほころぶ。こういうとき、知っている人がいるってだけで安心するものなんだな。


「調子良さそうじゃん」とハナちゃんは笑顔を見せる。


「うん。絶対に負けられないから。勝って、約束も守ってもらわないといけないしね」


「ば、馬鹿。それは、私も勝たないとダメなんだからな」


「ハナちゃんは勝つよ。だから、僕が絶対に勝たないと」


「……ま、そうだな。私は最前列で応援してやるから、ダサいところ見せんなよ」


ハナちゃんが僕の頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。


「邪魔しても悪いから、観戦席に戻るわ。じゃあな」


ハナちゃんこそ調子が良さそうだ。これは、まずます負けられない。


「少しリラックスできたみたいですね」と三枝木さん。


「そうですね」


とは言ったものの、手は小刻みに震えている。三枝木さんもそれに気付いたのか、大丈夫と繰り返しながら僕の肩を叩いた後、セレッソの方を見た。


「セレッソ様は、神崎くんにアドバイスとかないんですか?」


「ん?」


セレッソは腕を組んで空中を眺めながら、暫く考えた後、僕を見る。


「誠、お前は無敵の勇者になって世界を救う男だ。勝って当然。負けたら世界滅亡。……頼んだぞ」


なんでプレッシャーを与えるようなこと言うんだよ。


いや、世界滅亡とか言われてもイメージ湧かないし、これくらいのプレッシャーがちょうどいいのかも。


「神崎くん、そろそろ準備お願いしまーす」


控室に顔を出した、女の先生が僕を呼んだ。


三枝木さんが僕の背中を「パシンッ」と叩く。


「よし、行きましょう」


「はい!」


立ち上がり、控室を出たところで気付く。


あれ、芹奈ちゃんはどこに行ったんだ?

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