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【宿る魂②】

まず、大淵さんは何度も繰り返し、岩豪の対戦映像を再生した。


「ゴリゴリのレスラータイプだね。なんだろう、そうだなぁ。岩豪くんに勝つとしたら、あの対戦を参考にするべきじゃないかな。あの対戦、誰と誰だっけ? ほら、レスラーとストライカーの戦い」


唸る大淵さんの疑問に答えたのは雨宮くんだ。


「マックスとフィリポの試合じゃないですか?」


「そうそうそう! あれね、マックスが何回もタックル行くんだけど、フィリポが全部潰しちゃうんだよね。最後は、フィリポのパンチでマックスが崩れ落ちてさ。確かボディにヒットしたんだっけな?」


「あの頃のフィリポ、めちゃくちゃ強かったですよね。ストライカーは寝かされなければ勝つ、みたいなスタイルを確立したのは、絶対にフィリポですよね」


「そうなんだよ。ただねぇ、神崎くんは少し小柄だから、フィリポみたいにタックルを抑え込めるかどうか」


「確かに、岩豪くんの方が大きいですしね。あ、じゃあ谷川さんと後藤さんの試合はどうですか?」


「あー、谷川くんが寝かされないよう逃げ回って、重要なところだけでパンチ当てたやつでしょ? でも、後藤さんは寝業師って感じだから、岩豪くんとは少し違うんじゃないか」


二人の会話は何て言うか、口を挟む間もない。学校の教室の隅にいた、オタク同士の会話が確かこんな感じだったと思う。


何が楽しいのか、これだけ熱くなれるって凄いことじゃないか。そう感じるくらい、二人の熱量は凄かった。


「あ、武田先生が現役時代だったとき、弓織と戦った試合はどうですか? 武田先生のタックル、完封されてましたよね?」


「それだ! 見てみよう!」


そんな調子で何度も何度も、色々な対戦映像を見た。


その間、大淵さんと雨宮くんの解説を聞いて、格闘戦の奥深さと魅力を少し理解できたが、二人とも研究と言いながらも対戦映像を見て、ただ楽しんでいるだけのようにも見えた。


「このときの歓声、凄かったですよね」と雨宮くん。


「フィリポにとって、念願の暫定勇者決定戦だったからね。会場で見たけど、本当に凄かったから」


「えええー! 羨ましいです!」


いつの間にか、またフィリポの話に戻っている。


「でも、負けちゃうんですよねぇ。相手がピエトルだから仕方ないけど、フィリポ負けるか…って」


「そうそうそう、泣けるんだよ。これ見て泣かない人、いないでしょ。だって、フィリポは見ている人、みんなを熱くさせたじゃん! どんな相手だろうが恐れずに前へ出て、最後はハイキックで逆転してきた……それなのに、ピエトルには通用しなかった。完封されちゃうんだよなぁ」


最終的に、大淵さんは僕に言う。


「だから、神崎くんはね、フィリポになれ。君がフィリポの仇を取るんだ。そのためにも、岩豪くんと戦う前に、フィリポの試合を百回見た方がいいね」


「わ、わかりました!」


モニターの中でフィリポが、ハイキックで対戦相手を倒す。対戦相手は倒れたまま、寝技の勝負に持ち込むべきか迷っているようだが、フィリポは『立て』と手招きするのだった。


大淵さんから、特別な技術を教わったわけではない。特別な作戦を教えてもらったわけでもないが、僕の心のうちに燃えるような気持ちが宿ったのは確かだった。


たぶん、二人の熱に触発されたのだと思う。


帰り際、僕は雨宮くんに聞いてみた。


「雨宮くんはどうして勇者を目指しているの?」


「え? あー、目指しているってわけではないよ。僕なんかが勇者になれるわけがないし」


「じゃあ、どうして?」


「シンプルに好きだからだよ。あの世界が好きなんだ。勇者なんてトップのトップしかなれない。僕みたいに夢敗れるどころか、目指すことすら諦めているやつなんて、山のようにいっぱいいるよ。だけど、何かに憧れて好きな気持ちがあって、その道を進むのは勝手だからね。たった一度の人生だし、他人の目を気にして挑戦しないのも、トップになれないからって辞めちゃうのも、つまらないよ。それに」


雨宮くんの表情から、心の中にある一つの感情で輝いていることがわかった。


「それに、好きって気持ちは、他人が否定できるものじゃないでしょ」


雨宮くんの言葉を噛み締め、黙ってしまう僕だったが、彼のメッセージはそれで終わりではなかった。


「勝手なことを言うけどさ、神崎くんはたくさんの人から才能を認められているんだし、この道を進むべきだよ。みんなに夢を見せたんだから、その責任を取らないとね」

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