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◆私の完璧な世界⑥

何かの冗談ではないか。そう思いたかったが、芳樹は本気だった。


「やめて……」


震えた声で懇願するが、彼の目はそれを受け入れてくれる気配はない。


「一回だけだ。そしたら忘れるから。お前の嘘も、俺の気持ちも」


芳樹は私の腕を掴むと、強引に唇を押し当ててきた。もはや抵抗はしない。修斗に私の嘘が伝わるのが怖かったから。


いや、それだけではない。抵抗はできた。芳樹だって、それほど強い力で私を組み伏せようとしたわけではないのだから。ただ、芳樹に強く求められるのも、さほど嫌ではなかったのだ。しかし……。


「二人とも、何しているの……」


突然の声に振り返ると、そこには修斗がいた。


「違う。違うの、これは」


説明の前に、修斗は私たちに背を向け、立ち去ってしまった。追おうとする私だったが、芳樹が先程よりも強い力で腕を掴んできた。


「俺の方が先だ」


「でも、それだと……」


しかし、芳樹は有無を言わさず、私を引き寄せると、再び求めてきた。……全部、私のせいだ。私がセアラちゃんの前で余計なことを言ったから。つまらないプライドで、彼女より優位に立とうとしたから。そして、ちょっとした気のゆるみで、芳樹を許してしまったから……。



そんなことがあっても、戦いは続く。アッシアの首都ワクソームに到着する直前、守りの堅い拠点がオクトの前に立ちはだかった。この拠点を破壊するため、私たちのチームが前線に立つ。あんなことがあったばかりで、三人とも会話もなく、チームワークもバラバラだったせいで、私たちはすぐ窮地に立たされた。拠点の中に突入したものの、敵に囲まれてしまったのである。


「聞いてくれ」


そんな中、修斗が口を開いた。


「俺が制御室に飛び込んで、どうにか扉を開くから、二人はそこから逃げろ」


堅く閉ざされた扉の向こうには、オクトの仲間たちがいる。しかし、それを開くには少し離れた場所にある制御室からコントロールしなければならなかった。多くの敵を突破し、制御室の扉を開くなんて……。


「できるわけがない」


芳樹は否定したが、修斗はブレイブアーマーの下で微笑んだようだった。


「大丈夫。二人の幸せは、俺が絶対に守るから。ブレイブモード!」


修斗は敵の中へ一人で飛び出す。多くの敵は修斗を追い、芳樹と私は守りを固めるだけで凌げるように思われた。


「芳樹、お願い。修斗を助けて!」


私は必死にお願いするが、芳樹は黙ったまま、動こうとしない。ただ、一人で戦う修斗を睨み付けるように眺めるだけで、一歩たりとも動こうとしないのだ。その間に、修斗は敵に囲まれ、少しずつ追い詰められて行く。


「貴方を選びます」


これ以外に方法はなかった。


「修斗を助けてくれたら、貴方を選びます。だから、助けてあげて……!!」


「……自分の守りだけに集中していろ。いいな、ここから動くなよ」


芳樹は修斗を囲う敵を蹴散らしていく。しかし、敵の一人が振り上げた剣が、芳樹の右腕を叩き斬った。芳樹にとって自慢の右腕を。


「芳樹!」


私と修斗は同時に叫ぶ。私は自分の守りを忘れて駆け出した。今なら間に合う。回復魔法で治療すれば。魔力を使い切ってでも治療すれば……彼の腕はくっ付くはずだ。


「カレン、くるな!!」


それが、どちらの言葉だったのかは分からない。でも、私の視界は瞬時にブラックアウトした。




次に目が覚めたときは、病室だった。目は覚めたけれど、手も足も動かない。意識も混濁して、何がどうなっているのか分からなかった。けど……芳樹がいる。誰かと喋っているみたいだ。


「ナターシャさんとやら、それで何をすればカレンが目を覚ますんだ?」


「簡単です。佐山修斗がアヤメの心臓という禁断技術を持ってここに現れるはずなので、それを奪い取ってください。恐らくは、彼の肩口辺りに埋め込まれているはずですから」


「でも、その禁断技術は触れるのも危険なんだろう?」


「大丈夫。この義手を使ってください。数分程度なら、アヤメの心臓から発せられる呪いにも耐えられるはずです」


芳樹は誰かから何かを受け取ったみたいだ。彼はそれを手に取り、じっと見つめる。


「……分かった」


「良いのですか? 親友の命を奪うことになるかもしれませんよ?」


「構わない。あいつには……分からせてやらないと」


「分からせる? 何をですか」


「……あんたには関係ないだろ」


芳樹が何か良からぬことを考えているように思えた。


止めないと。止めないと。だけど、意識が重たい。目が覚めたはずなのに、瞼が閉じて行ってしまう。


助けないと、修斗を。

助けないと、芳樹を。


瞼が閉じられると、私は見た。幸せだったころの日々。修斗がいて、芳樹がいて、二人とも笑っている。よかった。


ここは、三人だけの完璧な世界だ。二人とも、私に優しくて、私だけを見ていてくれる。そのはずなのに……。


「ねぇ、カレンちゃんはどっちが好きなの?」


なぜか、いないはずのセアラちゃんの声が聞こえてきた。

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