【病院内へ】
「みんな、気を付けて! 敵は空間を捩じ曲げる能力を持っている! 何もないはずなのに、渦巻みたいな歪みが見えたら、危険だから!」
僕は咄嗟に危険を促すと、セレーナ様はもちろん、千冬もリザも素直に言うことを聞いてくれた。が、既に僕らの周りは、サッカーボールくらいはある空間の歪みに包囲されていた。
「簡単には逃がしませんよ」
どういう原理なのか、空中に浮かぶナターシャ。あのときは声だけだったが、軽いウェーブがかかった黒髪を揺らし、グレーの瞳が特徴的な大人っぽい女性の姿だった。
「千冬、あの者を禁断技術に指定します」
「わかりましたぁぁぁ!!」
明らかに異様な攻撃を前にしても、執行官の二人は冷静だ。きっと、こういう不可解な技術を使ってくるやつらを、日ごろから相手にしていて慣れているのだろう。
「執行官、ここは貴方たちに任せます。私たちは私たちの仕事があるので」
セレーナ様が宣言に、リザは少しだけ彼女を睨み付けたようだったが、すぐに視線をナターシャの方へ向けた。
「この状況では仕方ありません。ご勝手に。ただ、貴方たちを手伝うようなことは一切ありませんので」
「もちろんです。では、よろしくお願いします」
セレーナ様が病院の方へ向かおうとするが、彼女だって歪みに囲まれている。
「なぜ、ここから離れられることを前提に話を進めているのですか?」
笑うように問いかけるのは、浮遊するナターシャだ。
「大聖女となると、この程度の窮地とは言えないとでも?」
「はい。仰る通りです」
ナターシャにしていると挑発だったのだろうが、セレーナ様は少しも動じた様子なく、整然とした態度で答える。
「どのような技をお使いか、分かりませんが、私は女神セレッソの加護を受ける者です。この程度の障害、軽く跳ね除けてみせましょう!」
そう言って、セレーナ様はロッドを地面に立てると、祈りを捧げるがごとく、両目を閉じた。
「女神セレッソよ、私に皆を守る力を! 防壁魔法、展開!」
銀色の光が、セレッソ様を中心にドーム状に広がると、ナターシャによる歪みの攻撃が押し退けられていく。
「す、凄い!!」
驚きに動きを止める僕だったが、歪みは完全に消し去られたわけではなかった。気付けば、僕のすぐ横に!
「うわぁ!!」
何とか躱すが、次々と歪みが発生する。ただ――。
「防壁魔法の中だと、彼女の攻撃も鈍るようです。今のうちに病院の方へ!」
セレーナ様が、いくつかの歪みを避けながら、僕の方へ走ってきた。
「はい、行きましょう!」
セレーナ様は先に病院の方へ駆けて行ったが、僕は少し千冬のことが気になっていた。
「千冬、こんなところで死ぬなよ!!」
僕の声に、彼はこちらを向いてから、鼻を鳴らしたようだった。
「お前をボコボコにするまで、俺は誰にも負けない!」
……うーん。いいじゃないか、このライバル同士みたいな会話!
僕は大きく頷いてから、セレーナ様の後を追うと、彼女は病院の入り口前で立ち止まり、真っ直ぐと中の様子を見ていた。
「どうしたんですか?」
「……嫌に静かです。目標の気配もない」
確かに、ノームドが病院に入り込んだのだから、大騒ぎになってもおかしくない。しかし、既に消灯時間がやってきたかのように、中は静まり返っていた。
「カレンと言う人物の病室は……分かりますか?」
「はい。僕が先に進むので、何かあったらお願いします……!!」
かっこつけて、そうは言ったものの……薄暗い病院を進むの、凄い怖いんですけど!!
これ、何かのホラーゲームであったシチュエーションじゃない?
急に、グロテスクな生き物に飛び出されたら、僕は情けない声をあげる自身あるからな??
それでも、人気のない廊下を進むと……奥の角から、ザッ、ザッ、ザッ、と足音が。
人だよな?
普通の人だよな?
最悪、ノームド化した佐山さんでもいいんだ。お化けじゃなければ!!
「うわぁぁぁ!!」
「ぎゃあああーーー!」
角から飛び出した人影が絶叫しながら襲い掛かってきた。あまりの衝撃に僕も悲鳴を上げた……が、それはお化けでもなく、ノームドでもなかった。
「あれ、藤原さん??」
「神崎くんじゃないか」
昨日、仕事を手伝ってくれた爽やかな元勇者、藤原さんだったのだ。
「どうして、ここに??」
「あ、そうだ。佐山さんがノームド化して、この病院に駆けこんだんです。カレンさんの病室はどこですか!?」
「カレンの病室なら、ついさっきまで僕が……!!」
その瞬間、病院の廊下に誰かの悲鳴が響いた。
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