【お勧めしても見てもらえない】
「で、でも……」
やっと元気になってくれた、と思ったが、セレーナ様はまだ引っかかるところがあったらしい。
「犬神家シリーズは長いんです。メインとなる狛が主人公の話だけでも百話越え。支隊編も長いし……。あ、番外編の『不死のクリストフ』と『神魔の狩人』も見て欲しいし!!」
「分かりました分かりました。セレーナ様が集中して気持ちよく仕事してくれるなら、それくらいお安い御用ですよ」
高校生活、勉強もやらず部活も入らず、ただアニメとゲームの世界に入り浸っていた僕だ。百話越えのアニメくらい、大したことではない。しかし、セレーナ様は奇跡でも目の当たりにしたかのように、両手を組んで目を輝かせていた。
「本当ですか?? アニメをお勧めしても『その歳でアニメみているなんて』と一蹴されることがほとんどなのに。その手のものが好きな人でも『長くても2クールが限界』と突っぱねられてばかりなのに……。神崎くんは見てくれるのですね??」
「はいはい、見ます見ます。見ますから、仕事に集中しましょうね」
少し塩っぽい対応をしてしまっただろうか。笑顔だったセレーナ様の眉が八の字に曲げられ、何かを言いかけたが、僕のスマホが振動する。
「フィオナからだ。もしもし?」
『誠? 大変よ、そっちに執行官が向かっているって情報が入った。早めに目標を確保して。こっちも援軍と回収手段の準備を進めておくから。で、場所はどこ?』
廃病院の場所を伝えると、一方的に電話が切れてしまった。かなり切迫した状況のようだが……。
「こっちに執行官が向かっているみたいです。早く佐山さんを回収するように、って」
「執行官と対峙することはできるだけ避けたいところです。早めに終わらせましょう」
凛とした態度で前へ行くセレーナ様だけど……貴方がアニメがなんだって騒がなければ、もっとスムーズに進んでいるんだからね?
しかし、そんな僕の呆れた視線に気付かず、セレーナ様はぶつぶつと呟く。
「あ、爆速感想は深夜にあげるって投稿しないと。炎上しなければ良いのですが……」
今度こそ、廃病院の奥へ進む。
「ここは、僕と修斗。それからカレンの三人で、よく遊んでいた場所なんです」
廃墟の中を調べながら、藤原さんが語った。
「昔は、三人で過ごすのがただ楽しかった。それなのに、どうしてこんなことに……」
藤原さんが悔し気に目を細める。彼がどんな過去を思い起こしているのか分からないが、僕は少しだけ共感していた。僕も昔は近所の友達と三人で遊んでいて、少しずつ会う機会が減ってしまったのだ。こっちの世界に来る直前は、むしろ気まずい関係で……。あの二人、元気かなぁ。
「うわぁぁぁーーー!!」
すると、どこからか悲鳴のような……いや、苦し気な叫び声が聞こえた。僕とセレーナ様が同時に藤原さんを見ると、彼は真剣な面持ちで頷く。
「間違いありません。修斗の声です」
「よからぬ状況のようですね。行きましょう」
声は上から聞こえたようだった。上階を調べるが、結局は屋上に出てしまう。そして、屋上にこそ、彼の姿はあったのだが……。
「修斗!」
屋上の隅、横たわる人影を見て、藤原さんが駆け出した。
「おい、修斗。どうしたんだ!?」
遅れて僕とセレーナ様も近付いたのだが、佐山さんの表情は異様に青い。
「嘘だろ……」
死んでいる、みたいだ。藤原さんは確認するためか、佐山さんの体に手を伸ばすが……。
「触れてはなりません」
セレーナ様の言葉に、藤原さんの手が止まる。
「確かなことは言えませんが、争った様子はない。まだ息はありますが、恐らくアヤメの心臓による呪いに酷く蝕まれているようです」
よかった。生きているのか。でも……。
「の、呪いですか??」
僕は思わず一歩退きそうになる。が、それは格好が悪い気がして、何とか踏みとどまった。
「安心してください。私が防壁魔法を展開していますので、呪いの影響はほとんど無効化できています。ただ、直接触れるのは危険かもしれません」
「じゃあ、どうすれば……!?」
倒れる友人を何とか救いたいという気持ちか、藤原さんも声を荒げる。
「回収班が向かっているはずです。それまで待ちましょう」
それから、藤原さんは佐山さんの傍らに座り、動かなくなってしまった。重たい空気だったので、僕とセレーナ様も黙っていたのだが、十分もすると車が近付いてくる音が。三台の車が廃病院の前で停止すると、十名ほどが降りてきた。
「どうやら、援軍と回収班のようですね」
セレーナ様が言う通り、彼らは屋上までやってくると、僕たちに敬礼した。
「フィオナ様の命令で、回収にきました。目標はどちらに?」
そこから納体袋に佐山さんを入れ、このまま下まで運び出すかと思われたが、またも車の音が近付いてくる。セレーナ様もその音聞いたらしく、やや緊張感のある表情で呟いた。
「一足遅かったかもしれません」
どうやら、執行官が到着したらしい。
引き続き、世界先生ごめんなさい…。
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