【物理的に守ります】
セレーナ様の体を銀色の光が包んだ。それは、今まで勇者たちが見せたブレイブチェンジの光とは違い、どこか神々しさが含まれている。何と言っても、銀色の光はあまりに美しく、女神が残した白い羽が舞うような幻覚が見えたほどだ。
「神意執行」
そして、銀のブレイブアーマーに身を包んだセレーナ様は呟くと、地を蹴った。最初は、ふわっと宙を舞うような一歩だったが、地を離れた瞬間に一気に加速し、前方に立つ黒い男たちへ接近する。彼らからしてみれば、銀色の天使が突然目の前に現れたように思えただろう。
「悔い改めなさい!」
彼らが反応するより早く、セレーナ様は一人目の腹部に肘を突き刺し、振り向きざまにもう一人の顎へ裏拳を叩き込んだ。さらに、二人が崩れるよりも早く、もう一人へ後ろ回し蹴りを放ち、意識を刈り取る。
「次!」
そして、すぐに次の標的へ。腰を落とし、敵の接近に備えた男にタックルを仕掛けたかと思うと、強引に持ち上げてから、綿人形を振り回すみたいに、近くにいた仲間に向かって叩き付けた。武器にされた男も、仲間を叩きつけられた男も、同時にノックダウン。とんでもないぞ……!!
「逃がしはしません!」
圧倒的な力の差を感じたのか、残った五名は逃げ出すが、セレーナ様はそれを許さない。銀の軌道を残しつつ、逃げる一人に詰め寄ると、襟首をつかんでから引っ張って、地面に叩き付ける。
「ば、化け物!!」
一瞬で失神する仲間を見た、たぶん普段はクールな始末屋のような襲撃者も、思わず恐れの言葉を口にするが……。
「し、失礼な! これでも清楚な王道タイプの聖女で通っているのですよ!」
聖女様は気に食わなかったらしく、その男を掴むと、ぶんぶん振り回してから、ハンマー投げの要領で吹っ飛ばした。ジャイアントスイング、というプロレス技だったと思うが、ただ投げただけではなく、その先には別の敵がいて、見事にヒットさせるのだから驚きである。
「な、なちゅーパワフルな戦い方……」
僕も思わず言葉を漏らしてしまったが、そこからは語るに値しないほどの短時間で、セレーナ様は襲撃者たちを全滅させてしまうのだった。
「この程度なら、ブレイブアーマーに頼る必要もありませんでしたね」
変身を解除しつつ、僕の傍らに立つセレーナ様。軽い運動を済ませてきたような、爽やかかつたおやかな笑顔を見せているが、僕は色々と理解が追いつかず、ただただ驚きの表情で迎えるのだった。
「ど、どうしたのですか? まるで目の前でゴリラが喋ったとでも言いたげな顔ですが……」
首を傾げるセレーナ様だが……いや、意識したわけではないのだけろうけど、今の僕の気分はまさに彼女が口にした通りだ。とんでもないパワーのゴリラが一暴れした後、何事もなく話しかけてこられたような気分なのである。
「いやいやいや! どうして、聖女のセレーナ様がそんなに強いんですか? っていうか、ブレイブアーマーは勇者の特権って聞いてたんですけど、なぜ聖職者のセレーナ様が持っているんですか?? しかも、なんですかあのむちゃくちゃな戦い方は!!」
「ご、ごめんなさい。少しやり過ぎてしまいました。さっきの失敗を取り戻そうと、力の加減を間違えたのかもしれません!」
そ、そういうことを聞いているんじゃないんだけど……!!
「知らないのかい、神崎くん」
そこで、説明してくれたのは、藤原さんだった。
「大聖女、セレーナ・アルマは唯一ブレイブアーマーの装着を許された、勇者と同等以上の力を持つ聖職者なんだよ。実際、彼女はアミレーンスクールに編入していた時代に、勇者の資格も獲得しているんだから」
「ま、マジかよ……」
言葉が出てこない。だって、アッシアで戦争しているときに見たセレーナ様は、防壁魔法を展開したり、ハナちゃんの傷を治したり、どっちかと言うとサポートキャラ的な立ち位置だったじゃないか。と言うより、聖女様というポジションが、そういう立ち位置なのが普通じゃないの??
「あ、あの……セレーナ様って大聖女と呼ばれるくらい、魔法も得意なんですよね? なぜ勇者の資格も取ろうと思ったのですか?」
僕はどうしても理解しがたく、そんな質問を投げかけたのだが、彼女は意図が分からないと言わんばかりに首を傾げた。
「どうして、ですか?」
うーん、と小さく唸った後、彼女は答えるのだった。
「だって、私は前線で戦う勇者たちを守る役目を任されているのですよ? だったら、勇者たちより強くあるべきと考えるのは、当たり前ではありませんか??」
……ち、違うよね?
この人、守るの意味を間違えてない??
誰も聖女様から物理的に守られることは望んでいないような気がするけど……。そんな僕の驚きを知らず、聖女様は言うのだった。
「なので神崎くん、安心してください。この任務は私がしっかりと終わらせてみせますので。邪魔する奴は拳一つでダウンさせるのみです!」
ゆ、指先一つじゃないのは良かったけど……マジでとんでもねぇ聖女様なんだな、この人。
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