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【聖女様は悪癖を我慢できない】

僕が先頭になって、建物の様子を窺う。一階は練習スペースだったのだろう。何もない空間が広がっているだけで、隠れる場所もないようだ。


「誰もいないですね」


僕が振り返ると、藤原さんが言った。


「二階が事務所になっていて、お金のない練習生が寝泊まりすることもあったから……彼が隠れているとしたら、上だと思うよ」


だとしたら、僕が二階に突入するか。でも、二人の護衛もあるから、離れるわけにもいかないか。


「どうします?」


セレーナ様に意見を求めると、彼女はまたもスマホをチェックしていた。


「あの、セレーナ様?」


「えっ? あ、すみません。なんでした?」


「だから、佐山さんが隠れているとしたら二階だから、どう対応するべきかって……」


「そうですね……」


真面目に考える、と思われたが、やはりスマホが気になって仕方がないらしい。


……なんだ?

カレシからの連絡でも気にしているのか?


だとしたら、さすがの僕もちょっと嫌な気分なんだけど……。


「セレーナ様、気になることがあるなら、先にそれを片付けた方がいいんじゃないですか?」


刺々しさが出ないよう、気持ちを抑えながら指摘すると、セレーナ様は首を横に振る。


「いえ、今は仕事中なので……こっちに集中しなければ!」


そう言いながらもスマホを何度もチェックするセレーナ様。……こうなったら、スマホを取り上げてやろうか?? と僕が思った、そのときだった。


「ごめんなさい! やっぱり、少しだけ時間をください!」


突然、セレーナ様は凄まじい速さでスマホを操作したかと思うと、その画面を自分に向けるのだった。


「はい、皆さん! こんばんわ。ちょっと遅れちゃいましたが、セレーナちゃんねる毎日配信の時間です!」


「はぁ?」


なんだ?

どういつもりだ?

わけが分からないが、セレーナ様は満面の笑顔で、スマホに向かって何やら語り掛け始めたのだ。


「なんですか、これ?」


説明を求めたが、セレーナ様は手の平をこちらに向け、僕を制止する。黙ってろ、ってことか?


「え? 男の人の声が入りましたか? いま用があって外にいるので、通行人の声が入っちゃうかもしれません。今日は雑音が入るかもしれませんが、気にしないでくださいね」


い、いないことにされた!?

完全に僕を無視して、セレーナ様は続ける。


「今日はですね、教会のお仕事で王都にきてます。なので、五分だけの配信になりますが、楽しんでくださいね。あ、モモミチさん。いつもありがとうございます。『また爆食実況してほしい』ですか? うーん、そうですねぇ。やってみたいのですが、大盛のメニューを出すお店が減ってしまいましたからねぇ。おすすめのお店があったらぜひ教えてください。地方でも行きますよ! えっと、プロロさん。ありがとうございます。『初コメです。大聖女がタバコのポイ捨て注意してみた、からきました』。本当ですか? あの動画、たくさんの人に再生されていて、本当に嬉しいです!」


……分かった。

何が起こっているのか、分かったぞ。


そういうのに疎い僕でも理解できた。これは、


ライブ配信ってやつだ!!


「次は、ノッコノッコさん。えーっと。『いつもセレーナ様の笑顔に癒されています。あれだけたくさん食べるのにスタイル抜群で、運動神経も現役勇者並みとか本当に憧れです。これからも頑張ってください』。ありがとうございます! 私もリスナーの皆さんのおかげで頑張れてます。ノッコノッコさんは、この前のリアルイベントにも来てくれましたよね。また、イベントやったらきてくださいね」


そんなやり取りを見せつけられ続けたが、五分も経過すると、終わりが見えた。


「そうですね、またアニメの感想動画を上げると思うので、ぜひ見てください。『生配信がいい』ですか? うーん……頑張ってお仕事終わらせられたら、そうしますね。まだまだ続けたいのですが、ちょっと用事があるので、今日はこの辺で。皆さんに女神セレッソのご加護がありますように。それじゃ、また見てくださいね!」


笑顔でスマホの画面をタップするセレーナ様。そして、そのままの表情で固まったまま、僕の方を見た。今さら、気まずさを感じたのだろう。心なしか、顔が青ざめている。


「ご、ごめんなさい。この時間は必ず配信する、って約束だったもので」


「……それ、教会の偉い人に怒られないんですか?」


「広報の効果があるとして、認めてもらってはいます……」


僕の視線が痛いのか、セレーナ様は居心地悪そうに顔を伏せるが、僕の怒りは止まらなかった。


「だったとしても、このタイミングはおかしいですよ! ねぇ、藤原さん?」


同意を求めると藤原さんは……。


「いえ! 僕はセレーナ様の生配信を間近で見れて感動してます! 凄いですよ、いつもこんな感じでやっているんだな、って思うと感動すら覚えました!!」


「本当ですか? ありがとうございます!」


……これって、僕の方が正しいよな?

この世界にきてから、何かと非常識なやつだと注意されることはあったけど、今回に関しては僕が正しいはずだ。自らの正しさを主張しようとした、そのときだった。


ドサッ、と何かが落下するような男が聞こえたかと思うと、藤原さんが叫んだ。


「修斗!」


そして、立ち去って行く男の背中。どうやら、僕たちに気付いた佐山さんが、二階から飛び降りて、逃げ出したようだった。

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