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【無理ゲー、続けるのも才能】

「下駄箱の前で待つ」


放課後になるとハナちゃんからメッセージが入っていた。呆れられたとばかり思っていたが、まだ見放されたわけではないらしい。


安心しつつも、

後ろめたい気持ちで待ち合わせの場所へ向かうと、そこには夜叉が立っていて……。


「帰るぞ」と夜叉……

いや、ハナちゃんは言った。

「は、はい」


まるで引きずられるように、僕はハナちゃんの後ろを歩く。


相変わらず、スクールの生徒たちは僕らを見て、こそこそと噂話をするものだから、今日の失態が広まっているのだとわかり、とにかく居心地が悪かった。


電車に乗ってアボナダタークの駅で降りると、ついにハナちゃんが僕の方に振り返ったのだった。


「あんな下級のノームド相手に、なにやってるんだよ、お前は」


「で、ですよね。すみません! ほんと、情けないです!」


「お前が下手すると、私の格が落ちるんだ! 分かっているのか、その辺」


「はい。もちろん、分かってます。申し訳ないです。頑張ります!」


続けて罵詈雑言が飛んでくるかと思ったが、ハナちゃんは腕を組んでから、大きく息を吐き、少しだけ表情を和らげる。


「でもよ、何であのとき、組んで倒そうとしたんだよ」


「え、武田先生がそうしろって言ったから」


ハナちゃんは信じられない、といった様子で眉を寄せ、もう一度溜め息を吐いた。


「馬鹿。先生は敵の攻撃が怖いなら組み付けって言ったんだ。確かに、対ノームドは人間が相手のときと距離感が変わるけど、あの程度なら見えてただろ。実際、ちゃんと避けていたわけだし」


「うん」


「だったら、殴れよ。お前の特技……っていうか、できることは、それだけなんだから」


「……あっ」


「あっ、じゃないんだよ。おかげで、また鉄次に絡まれちまったじゃんか」


ハナちゃんは僕の方に背中を向け、また歩き出してしまう。


「って言うかさ」


てっきり、会話は終わったのかと思ったが、ハナちゃんは別の話題を出してきた。


「途中で割って入った、魔法科の一年は誰なんだよ。お前と知り合いみたいだったけど」


「あー、芹奈ちゃんね」


ハナちゃんが一瞬だけこちらを振り返った。が、すぐに前を向いてしまう。


「それが、僕も分からないんだ。あの子は、何か僕のことを知っているみたいだけど。僕を知っている人がこの世界にいるわけがないんだけどな……」


「この世界?」


「あ、いや。僕って田舎から来たからさ、王都に知り合いなんているわけがない、って意味」


「ふーん。それにしては、必死だったよな。知らないやつのために、あそこまで必死になるか?」


「誰にでも優しくて一生懸命な子なんじゃない?」


「……そんなやつ、いるわけねーだろ」


「え?」


車が横切ったので、

聞き取れなかったのだが、ハナちゃんは「とにかく」と言い直してくれることはなかった。


「とにかく、クラムで特訓だ。お前が鉄次に負けたら、面倒になるのは私なんだからよ」


ハナちゃんとの練習は、激しさを極めた。僕はタックルで倒され、ぶん投げられ、どっちが上でどっちが下なのか分からなくなるほど、もうボロボロにされた。


それを終えると、今度は三枝木さんが待つアスーカサのクラムへ向かった。


「神崎くん。セレッソ様に言われて、次の対戦相手の試合映像を入手しておきましたよ」


「あ、ありがとうございます」


なぜか、三枝木さんとセレッソは笑顔だ。この二人、僕を戦わせることに何よりもの喜びを感じているように見えるが……気のせいだろうか。


岩豪の対戦映像は、分かっていたことではあるけど、とんでもないものばかりだった。


じりじりと距離を詰めて高速のタックル。相手を倒したら、上から鉄槌のようにひたすら拳を落とす。


これは昼間も見た光景ではあるが、タックルから逃れるようなことがあれば、何度もタックルを試み、相手を引きずり込む、泥沼スタイルだった。


「セレッソ、三枝木さん」


映像を見た後、僕はこれを言わずにいられなかった。


「僕がこいつに勝てる気がしないのですが、どうですか?」


二人とも黙って何も答えない。


「で、ですよねぇ。って言うか、皇の他にもう一人、こいつより強いやつがいるってことですよね? 有り得ないと思うんですけど」


「二位の岸枝と対戦したことはないが、実際は岩豪の方が強いと言われているな」


答えたのはセレッソ。


「ただ、皇に関しては格が違う」


これには三枝木さんも同意らしく、深々と頷いた。


「私も皇颯斗の噂は聞いています。未成年の勇者、暫定勇者の中でも彼は一つ二つ抜けている、と言われていますからね。現役の勇者の中で、最強クラスと言えるのではないでしょうか」


「……もしも、なんですが、三枝木さんが皇と戦うことになったら、勝てると思いますか?」


「うーん……」


三枝木さんは考え込むように腕を組んで低く唸ったが、最終的には誤魔化すように笑い出してしまう。皇どころか、岩豪のタックルで轢き殺される未来しか描けない僕なのだが、師匠と言える三枝木さんもこの調子では、どう転がっても勝ち筋が見えてこないのでは……。


「しかし、神崎くんなら何とかなります。たぶん」


たぶん、って……

どれいくらいのパーセンテージを含んだ「たぶん」なのだろうか。


三枝木さんは言う。


「まず、相手は神崎くんのデータは殆どない。これは、かなりのアドバンテージです。スクールでは、できるだけ実力がないように振る舞ってください」


それなら大丈夫だ。

もう何度も恥をかいたのだから。


「あと、岩豪くんの闘い方は明確です。タックルで倒して殴り付ける。これだけ。逆を言えば、そのタックルさえどうにかしてしまえば、こっちの勝ちです」


「おい、宗次。これを見ろ」


セレッソがモニターを指差す。

岩豪の対戦映像だが、開始五秒、やつのパンチ一発で相手が倒れ、失神しているのか体を痙攣させていた。


これを見て、三人とも黙ってしまったが、最初にセレッソが口を開いた。


「誠、大丈夫か?」


「大丈夫じゃねぇよ。あとお前に言われるとマジでムカつくからやめろ」


本当に泣きたくなってきた。


「まぁまぁ。これくらいのパンチなら、神崎くんなら避けられますから。とにかく、タックルの対策を考えましょう!」


三枝木さんは優しく元気にそう言ってくれるが、こんな無理ゲー、僕はいつまでトライし続けなければならないのだろうか。

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