【スクールライフ再び】
夕食はセレッソとアオイちゃんが訪ねてきて、四人で食べた。朝ご飯も同じで、これから食事の時間は賑やかになるのだろう、と何だか複雑だった。しかし、朝は美人メイドに起こしてもらえるのだから、悪くない生活である。
「いってらしゃいませ、誠さま」
リリさんが丁寧にお辞儀をして、僕を見送ってくれた。女神たちはテレビを眺めながら、談笑しているように見えたが、本当に何度も殺し合った仲なのだろうか。
通学路を一人で歩いていると、さっきまで賑やかだったせいか、少々寂しさがあった。今までは、ハナちゃんが迎えにきてくれて、一緒に登校していたから、余計にそう感じるのだろう。
放課後、ハナちゃんのお見舞いに行ったら、今まで一緒に登校してくれたこと、ちゃんとお礼を言わないと。
「せ、先輩……!?」
できるだけ心を無にして歩いていると、背後から声が。しかし、先輩と言うワードに馴染みがなく、ただの環境音だと思っていると……。
「あの、先輩……!」
後ろから、制服の裾を引っ張られ、のけ反ってしまった。
「せ、芹奈ちゃん!」
何事かと振り返ると、ツヤツヤとした黒髪ボブが特徴的な小柄な女の子……芹奈ちゃんが立っていた。
「久しぶりだね。復学した初日に会えるなんて、凄い偶然だ!」
改めて帰ってきたのだ、という実感が湧き、僕はテンションが上がってしまったのだが、芹奈ちゃんは顔を伏せてしまう。
「そ、その……待ち伏せしていたわけじゃないんです。戦争が終わって、学生戦士たちも帰還したというニュースを見たので、もしかしたら先輩も今日から登校するかな、って。だから、別に朝早く起きて先輩を見かけたことがある道をうろうろしていたわけでもなく……」
何だが聞き取れないくらいの小声で言っているが、それよりも僕は溢れる感謝の気持ちを伝えたかった。
「芹奈ちゃんのおかげで戦争から帰ってこれたよ。これ、本当にありがとう!」
僕は芹奈ちゃんからもらった護符を取り出し、彼女に見せる。少しぼろぼろになってしまったが、ずっと大事に持っていたのだ。これを見たら、芹奈ちゃんも喜んでくれるかな、と思ったのだが……。
「そ、そうですか……」
どこか気まずそうに目を逸らされる。なんで??
「あの、綿谷先輩は……?」
芹奈ちゃんはどこか怯えたように、左右を確認するが、もちろんハナちゃんは一緒じゃない。
「ハナちゃんは怪我をしたから、当分は入院生活になるみたい」
「……大変だったんですね」
そこから、僕たちは二人でスクールへ向かった。大きな怪我はなかったか。怖い敵と遭遇しなかったか。そんな質問が続いたが、僕はありのままに話すと、彼女は涙目になってしまった。
「よかったです。先輩が帰ってきてくれて、本当に……」
「せ、芹奈ちゃん??」
うるうるとした瞳からは、今にも涙がこぼれてしまいそうだ。でも、この状況って傍から見たら僕が泣かせたみたいに見えない??
「ご、ごめんなさい。大丈夫です」
芹奈ちゃんは目をごしごしとこすって、何とか涙を拭う。泣き止んでくれたものの、気まずい雰囲気が残ってしまったので、僕は話題を変えようとした。
「芹奈ちゃんはどう? 僕たちが戦争に出ている間、何か変わったことはなかった?」
世間話の感覚だったのだが、芹奈ちゃんの反応は鈍い。何と言うか、あからさまに視線を逸らし、戸惑うように口元を隠すのだった。
「何か、あったの……?」
もしかしたら、問題を抱えているのかもしれない。慎重に話を聞こうと思ったのだが……。
「あ、神崎くんだ!!」
誰かが僕の名を呼んだ。いや、呼んだというよりも珍しい動物の名前を叫んだ、という方が近いのかもしれない。とは言え、自分の名前が聞こえたら反射的に振り向いてしまうもの。
「ほんとだ、神崎くんだ」
「マジで!? 神崎帰ってきたの??」
「私、一回だけ話したことある!」
な、なんだ?
気付けばもう校門の前で、多くの生徒が歩いていたのだが、そのほとんどが僕の方を見て、色めき立っているように見えた。何かの勘違いかと思われたが……。
「神崎くーーーん!!」
「帰還おめでとう!!」
「俺たちの英雄だぁぁぁ!!」
あっという間に、生徒たちに囲まれてしまった。
「ちょ、危ない! せ、芹奈ちゃん!!」
芹奈ちゃんに助けを求めるが、何十人という生徒から神輿のように担がれる僕を、彼女が助けられるわけがない。
「先輩!」
それでも、彼女は手を伸ばしてくれたのだが、僕はもみくちゃにされながら、瞬く間に教室まで運ばれてしまうのだった。
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