【手を出した場合は】
「な、な、なんでリリさんが!? しかも合鍵まで作って……どういうこと??」
驚く僕のことなど、彼女は気にしないのか、慣れた様子へ部屋の中に奥へ進む。
「セレッソ様もお帰りなさいませ」
テレビの前で寝転んでいるセレッソにも丁寧に頭を下げる。セレッソの方は、少し驚いたようだが「うむ」と呟き、テレビの方に視線を戻した。
「誠さま」
「は、はい??」
「すぐに食事の用意しますので、座ってお待ちください」
「ちょ、ちょちょちょ!!」
混乱のあまり自分でも何を聞けばいいのか分からない。
「えっと、部屋の掃除もリリさんがやってくれたってこと?」
「はい」
「でも、リリさんだって同じタイミングでオクトに帰ってきたよね?」
「はい。誠さまが検査や資料にサインをしている間に、先回りしてお部屋の片付けだけは済ませておきました」
ま、マジで??
「いやいや、短時間でこれだけ綺麗にできるなんて、プロとかそういうレベルじゃないよ!」
もう異常だろ。しかし、リリさんは平然とした顔で言う。
「もっと広いお屋敷を姉さまと二人で管理していましたので、これくらいは……」
これくらいって、スーパーメイドじゃないか、この人。
「で、でも何でリリさんがこんなことを?」
「聞いていないのですか? フィオナ様のご指示です。この鍵もフィオナ様が手配してくださいました」
えええ??
フィオナさんったら、王女の権力使って、いつの間にか僕の部屋を鍵を複製したってこと?
職権乱用してない?
大丈夫??
そんな僕の心配をよそに、リリさんは幸せを噛みしめるように、手を組んでフィオナに感謝する。
「本来ならば終身刑もおかしくない罪を犯した私ですが、誠さまの監視……ではなく、護衛とお世話役として、フィオナ様に使っていただいているのです」
監視……?
監視って言ったよね?
「さらに、このマンション内に、私の部屋まで用意いただきました。なので、何かあればこのボタンを押してください。すぐに駆け付けます」
そう言って耳さんが差し出したのは、ファミレスの店員さんを呼ぶときのボタンだった。
「ほう、良かったじゃないか。お前の大好きなメイドがお世話してくれるぞ」
テレビを見なたら、カラカラと笑うセレッソ。
「だ、誰がメイド好きだ。勝手に僕の趣味を決めるな」
「お前の趣味なんて何だっていいだろ。しかし、私も掃除洗濯を任せられる使用人がほしいところだなぁ。フィオナに頼んでみるか」
気軽に王女の権力を使おうとするセレッソだが、リリさんはそんな不良女神に深々と頭を下げる。
「もちろん、誠さまとフィオナ様のご友人である、セレッソ様のお世話も仰せつかっています。既にお部屋も掃除済みです」
「ほほう。優秀ではないか。今度、チップを用意しておくから、フィオナに会ったら受け取っておけ」
リリさんの立場からしてみたら、そんなこと言い出せるわけないだろ。マイペースなセレッソは、さらにこんなことを言う。
「それにしても、嫉妬と独占欲の塊みたいなフィオナが、よく誠の世話を他の女に任せたなぁ。メイドと誠がおかしな関係になったらどうするんだ?」
「それは大丈夫です」
とリリさんは言う。
「私が誠さまに手を出した場合、手の指を全部切り落とすという約束なので」
「こ、怖いよ!」
「誠さまが恐れることはありません」
リリさんがなぜか僕の手を取り、両手で優しく包み込む。
「誠さまから手を出した場合、その罰は言及されていなかったので、たぶんセーフです」
いやいやいや!
フィオナはそんな言い訳で許してくれるやつじゃないだろ!
そもそも、僕は手を出したりしないからな!
……いや、そんなのリリさんに言っても、説得力ないよなぁ。
「ちなみに、なんですけど……」
僕はセレッソに聞こえないよう、リリさんに小声で質問する。
「この部屋、散らかっていたと思うんですけど、僕の趣味に関する本とか……見ちゃいました?」
恐る恐ると聞く僕に、リリさんは優し気な笑顔を見せ、小声で答えてくれた。
「ブツは一番下の引き出しに入れてありますので、ご安心ください」
「……中身は見ていない、ですよね?」
リリさんは固定されたような笑顔で言う。
「誠さま、私もメイドですので、ご注意を。できれば、私も指を失いたくないので」
……見られたかぁぁぁーーー!!
「なーんだ、やっぱりメイドが趣味なんじゃないか」
セレッソのやつ、テレビに夢中だと思っていたら、聞こえていたのか……!!
「おい、メイド。余った衣装があれば私にも寄越せ。こいつの機嫌を取るときに使うから」
「つ、使うってなんだよ!?」
「そう、期待するな。鼻息がうるさいぞ。でも、私のメイド姿、見たいだろ? 何なら綿谷華やフィオナにも着せてみよう。メイドパーティだ」
あああぁぁぁ!!
もう!
そんなパーティあるなら、絶対に出席してやるさ!!
「メイドパーティに期待!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




