【少しは素直に】
目を覚ますと、病室みたいな部屋で横になっていた。たぶん、移動要塞の中にある、個室の治療室なのだろう。微妙な振動があるから、たぶん移動している。ワクソームを離れ、オクトへ帰るところなのだろうか。
「あ、起きた?」
僕の顔を覗き込んできたのは、雨宮くんだ。
「えっと……何があったんだっけ?」
「戦争、終わったんだよ。君が終わらせた」
「……」
ぼんやりとした頭によって、これまであったことが、少しずつ思い出されていく。そうだ、セレッソから女神の力を借りて、イワンと魔王を、僕が倒したんだった。
「他の皆は?」
「うーん……誰のことから話せばいいのかなぁ。まず、ニアさんからの伝言。落ち着いたらブレイブシフトを持ってきてほしいって」
……ごめん、ニア。
それは無理だ。ぶっ壊れた状態でならいいけど……。
「岩豪くんは綿谷先輩を助けるために大怪我したから、隣の部屋で寝ているよ。けっこう大きい怪我だから……しばらくは動けないかもね」
「そんなに酷いの?」
「うん。命には別状はないけど、治っても後遺症で戦えることはないだろうって」
ま、マジかよ。だけど、僕たちは戦争に出たんだ。そういうことも、あるんだろうなぁ。
「皇も……生きてたってことは、ない、よね?」
雨宮くんは苦々しい表情で、僕の希望を否定する。
「彼の遺体は、狭田くんが回収してくれた。今は棺桶で眠っているけど、国に帰ったらご両親のもとに返すって」
偽の葬式なんて上げたのに、まさか本当になっちゃうなんてな……。
「綿谷先輩も傷は塞がっているけど、まだ動けないみたい。向かいの部屋にいるよ」
「……そっか」
生きていたんだ。本当に。
でも、青白い顔で担架で横になっているところを見たら、誰だって勘違いしちゃうよな。
あ、って言うか……!
「そういえば、あのとき、なんで雨宮くんとニアは泣いてたの?? あれのせいで、本当にハナちゃんが死んじゃったと思ったんだから!」
「いやいや、僕たちは綿谷先輩が血塗れで運ばれてきたところを見てたからさ。神崎くんがくる五分前くらいまでは、僕たちだって死んじゃうと思ってたんだから」
ああ、そういうことか。
本当にギリギリだったんだなぁ。
話しが途切れると、雨宮くんが手を叩いた。
「そうだ! 神崎くんが起きたらすぐに報告するよう、フィオナ様に言われてたんだ。でも、あんなに忙しそうなのに来れるのかな?」
「そんなに忙しそうなの?」
「うん。戦後処理って言うの? よく分からないけど、色々とやることがあるらしく、三日は寝てないんじゃない?」
「……マジか」
そこから、雨宮くんは部屋を出て、フィオナを呼びに行ったみたいだけど、一時間経っても現れなかったので、僕は起きることにした。鏡を覗くと、普通の僕の姿が。髪の色がピンクのままだったらどうしよう、と不安だったが、すべてが元通りらしい。
「ハナちゃん、大丈夫?」
さっそく、ハナちゃんの部屋を訪れたが、彼女は窓の外を眺めるばかりで、こちらに振り向いてくれることはなかった。
「皇のこと、聞いたんだね」
「……聞いたよ。だけど、別に気にしてない。私たちは、勇者だ。戦いに出れば、そういうことだってあるだろ」
「……そう」
たぶん、そんなことないだろう。
一緒に暮らしてなかったとしても、血のつながった弟なんだから。
「とにかく、ハナちゃんが無事でよかった」
「……私も、誠が生きててよかった」
何を話せば良いのか分からなくて、沈黙の時間が流れた。が、しばらくしてハナちゃんが窓の外を眺めながら口を開く。
「あのさ」
「な、なに??」
なんでもいい。話してくれるのが、嬉しかった。
「戦争は終わったけど、人っていつ死ぬのか、分かったもんじゃないよな」
「……そうかもしれないね」
「……だから、私はもう少し素直になろうかな、って思った」
「素直に?」
どういう意味だろう??
彼女の表情が見えないので、何も分からない。けど、彼女は布団の中ら手を出すと、顔を背けたままで、僕の方へ伸ばした。
「少しだけ、握っててほしい」
「う、うん」
ドキドキしながら、僕は彼女の手を握りしめた。すると、彼女のすすり泣きの音が少しずつ聞こえてくる。
「ハナちゃん……」
「別に泣いてないからな。他のやつに、絶対言うなよ!」
「わ、分かっているよ」
「あと、それから……」
まだ何か言いたいことがあるらしい。素直になる、って言ってたから、ずっと黙っていたことがあるのかな?
しかし、彼女はしばらく「だから」とか「その」と言うだけで、何も教えてくれなかった。結局は……。
「何でもない。お前も疲れているだろうから休め」
と言われてしまうのだった。すると、誰かが見舞いに来たらしく、個室のドアが開く。
「綿谷さーん! あっ!!」
ドアの方へ振り向くと、誰かが素早く顔を引っ込めるところが見えた。同時に、ハナちゃんが僕に握られていた手を素早く引っ込める。……人に見られたくないのは分かるけど、なんかショックだなぁ。
「……誰だろう?」
首を傾げると、ハナちゃんが溜め息を吐いた。
「友達だよ。私の……親友」
最後の方は声があまりに小さくて聞こえなかったけど、友達がきたのなら仕方ない。長居はできない、と僕はハナちゃんの部屋を後にした。
しかし、友達らしき人の姿は見えず、どうなっているのだろう、と混乱していると、なぜか立ち去ったはずのハナちゃんの部屋から声が。
「綿谷さん、本当にごめんなさい。邪魔をするつもりはなかったのです。ただ、わたくしも貴方のことが心配で、様子を見に来ただけなんです。まさか、フィオナ様に負けじと猛アプローチの最中とは思わず――」
「ば、馬鹿!! 聞こえたらどうするんだ!!」
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