【最後の願い】
「イワンは、普通の男なんだ、よ。お兄ちゃんと、変わらない、普通の……男なんだ」
少しずつ修復が進み、魔王は……アオイちゃんは訴える。
「ただ、恋をして、一人の女のために、走り続けただけで、悪気もないんだ。ただ、周りの人間に応えようとして、振り回されて……」
アオイちゃんは修復された両腕で、僕の足にしがみつく。
「私にさえ会わなければ、善人として今も畑を耕す日々を送っているような男なんだ。だから、殺すことはないよ。殺すことはないでしょ??」
(ソール……)
必死なアオイちゃんの姿を見て、何を思ったのだろうか。セレッソが僕の頭の中で呟いた。珍しく、同情しているらしい。
でも、僕には分からなかった。
だって、許していいわけがない。そんなの……。
「そんなの、誰だって同じじゃないか」
彼女は、意外なことを耳にしたように、目を丸めた。セレッソすら、どこか不意を打たれたような、思考の乱れがあった。
「皆誰かのことが好きで、周りの人に応えたくて、必死に生きているんだよ。それを自分だけの都合で、踏み躙ったらダメだろ? あいつだけが特別じゃないんだ。報われない想いを、他人まで巻き込んで、力尽くでどうにかするなんて、自分勝手にも程があるよ!」
「神崎誠の言う通りだ」
以外にも、同意したのはイワンだった。全員の視線がイワンに集まり、次の言葉を待ったが、彼は口を結んだまま。
「何が言う通りだよ。お前が言うべきことは、そんなことじゃないはずだ」
再び僕はやつに歩みを進めようとしたが……。一瞬、城が揺れた。パラパラッ、と天井から破片が落ちて、僕は天を仰ぐ。そのときだった。
「イワン!!」
アオイちゃんが叫ぶ。
何があったのか、とイワンの方を見たとき、凄まじい衝撃音と鈍い音が重なった。
「ま、まさか」
土煙が舞い、状況を把握できはしないが、何が起こったのか、僕を見ていた。一瞬だけど、確かに見たのだ。上から崩れ落ちた天井の一部に、イワンが押しつぶされる瞬間を。
「イワン……」
アオイちゃんは両腕で這いながらイワンの方へ。次第に、下半身が修復され、彼に駆け寄った。
「イワン! イワン! 死んじゃダメだよ。もう少しで、クララに会えるんでしょ? こんなところで、死んじゃだめだよ」
土煙が晴れて行く。僕が見たものは、間違っていなかった。天井に押し潰されたイワンを、アオイちゃんは救出しようとしている。
「……タンソール」
一枚一枚、天井の破片を除去するアオイちゃんに、イワンは言った。
「もう、いいんだ。助けなくて、いい」
「何を言うのさ! オクトが滅びれば、アッシアはもっと大きくなる。今度こそ、今度こそ……」
イワンの口から、どろりと血が溢れ出す。
「オクトを滅ぼしたところで、アキレムがある。NU連合もニーチも巨大な国家だ。所詮、叶わぬ夢だったんだ。いや、彼女はそれを分かっていたのだろう」
「そんなことない。クララは、イワンを愛していた。ちょっと、自分の環境に違和感があっただけで、確かに君を愛していたんだ。だから、戻ってくるよ」
アオイちゃんは何とかイワンに希望を持たせようとしているみたいだった。しかし、イワン本人は首を横に振る。
「違う。違うんだ、タンソール。彼女は、他の地で結婚したそうだ。結婚して、幸せに暮らし、死んだ」
「……幸せに?」
「そう。彼女は、幸せの中で生きられなかったわけじゃない。私から与えられる幸せに、納得できなかっただけなんだ」
二人が何を話しているのか、よく分からなかった。だけど、二人にとって大きな約束が、果たされることなく、消えゆこうとしているのだと分かった。
「私は最初から知っていたはずなのに。ふふっ、やはり皆が言うように、私は馬鹿だったんだ。何も知らない、馬鹿だったんだ」
イワンが瓦礫の中から手を伸ばし、アオイちゃんはそれを取った。
「我が愛しの友よ。願いがあと一つ、残っていたな」
「うん。聞いてあげる……何でも聞いてあげるよ! 叶えてあげる!!」
イワンの目から、少しずつ生気が失われていく。一人の男の人生が、終わろうとしている。そんな中。彼は言った。女神に願った。
「君は、幸せに生きて欲しい。人として、幸せに……。どうか、私の願いを、叶えて、くれ」
そして、ゆっくりとイワンの瞳が閉じられるのだった。
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