【バラバラ寸前】
ワクソーム城の外から、悲鳴と爆発が何度も聞こえた。最悪の状況の中、僕とイワンの視線が交錯する。そんなとき、イワンの横手にあった古めかしい黒の固定電話が音を立てた。
緊迫した状況。イワンだって電話に出る余裕なんてないだろう、と思ったが……。
「イワンだ」
で、出るんだ。
まぁ、そうだよな。
短い時間しか話していないけど、そういうやつだよな。
「聞こう」
しかも、イワンは何やら真剣に電話相手の話に耳を傾けている。どれだけ集中しているのか、僕のことなんて忘れたみたいに、こっちの動きを警戒する様子は少しもない。
「今だったら……」
イワンを捕まえられるんじゃないか?
だって、フィリポたちも命令がないからか、動く気配がないし、魔王だって外で暴れているだけだ。きっとイワンを捕まえれば戦争を止められる。
よし、やるぞぉ……。
僕はこっそりとイワンに接近しようとしたが……。
ビュンっ!とパンチの空振りみたいな音が聞こえたかと思うと、僕の足元の矢のような形の炎が突き刺さっていた。
な、何が落ちてきたんだ?と天を仰ぐと……ほぼ真上に黄色い炎の十字架が。つまりは、アオイちゃんが僕の頭上で飛んでいたのだ。
も、もしかして……僕がイワンを捕まえようとしていたの、見てた??
「こ、これはダメだ。もう何度このセリフを言ったか忘れたけど、今度こそはマジだ。……今回ばかりは死ぬ。絶対に死ぬ!」
魔王のという脅威的な存在の前に絶望する僕だったが、急に十字架の炎が消えたかと思うと、大人の姿になったアオイちゃんが、ひゅーんと急降下し、僕の前に降り立った。
「ふぅ、ちょっと休憩かな。あ、誠お兄ちゃんったら、イワンに襲い掛かろうとしていたでしょ? ダメだよ、イワンは私が守っているんだから」
「ご、ごめん。そうだよね……」
親し気に話しかけてくるけど、僕の知っているアオイちゃんと姿が違うので、何だか緊張してしまう。
っていうか、さっきまで中学生くらいの体格だったのに、なんちゅーバディなんだ。こんなでけぇおっぱいが目の前にあったら……。
いやいや、その前にこいつは魔王なんだぞ!?
これ、やっぱり殺されちゃうんじゃない??
「安心してよ、誠お兄ちゃんは殺さない。お兄ちゃん一人殺さなくても、オクトくらい滅ぼせるからさ」
とんでもないことを明るく元気に言うアオイちゃん。でも、さっきまでと違って、意思疎通ができる女の子、という感じだ。もしかしたら、戦いをやめてもらうことだって……。
「あのさ、アオイちゃん。もう戦うのやめない? オクト滅ぼしても、いいことないよ?」
「うーん……。でも、イワンと約束しちゃったし。私、イワンに恩があるんだよね」
「いやいや、いくら恩があっても大量虐殺するような真似はよくないよ!」
「だって、私は千年も閉じ込められていたんだよ? それを助けてもらったらさ、ある程度のお願いは聞いてあげたくなるじゃん」
「せ、千年? ある程度??」
スケールが大きすぎて、イメージできないんですけど。
「誠お兄ちゃんもさ、命は助けてあげるって言っているんだから、これ以上は邪魔しないでよね? 死なずに済むと思えば、大人しくしているくらい簡単でしょ?」
「でも、僕だって仲間がいるんだ! 君に殺されたりしたら……」
「あー、確かに誠お兄ちゃんに嫌われたくないけどさぁ、イワンを裏切るのもなぁ。あいつ、可哀想なやつなんだよ。それに、オクトを滅ぼすのは十年も前に約束したことなんだよねぇ。あのときも、たくさんのオクト人殺しちゃったんだよなぁ」
「十年前も昔に?? でも、なんでそのときはオクトを滅ぼさないでいてくれたの?」
その質問に、アオイちゃんは拗ねたように唇を尖らせる。
「邪魔された」
「誰に?」
「セレッソっていう、嫌な女に!」
「……セレッソに??」
僕のリアクションが大きかったせいか、アオイちゃんは訝しがるような視線をこちらに向けてきた。
「お兄ちゃん、もしかしてセレッソの知り合い?」
「い、いや……。そういうわけじゃ。セレッソってオクトの守護女神だろ? それと同じ名前って、どういうことだろうな、って思っただけで」
なんだろう。本能が働いて、ウソをついてしまった。何となく、本当のことを言ったら殺される気がする。アオイちゃんは僕のウソを聞いて笑顔を見せた。
「そっかそっか。あの女と知り合いだったら、誠お兄ちゃんのこと十七分割にして、その肉片を段ボールに詰めてから、あいつに届けてやるところだったよ」
あ、あぶねぇぇぇーーー。
あとちょっとでバラバラ殺人の被害者になるところだった!!
しかし、アオイちゃんは何か思うところがあるのか、顎先に触れながら首を傾げる。
「うーん。でも、何かが引っかかるなぁ。セレッソと誠お兄ちゃん。なんだろう。なんだったかなぁ」
えええ??
もしかして、どこからか僕とセレッソの関係が漏れてる??
そしたら、マジで十七分割決定だぞ??
アオイちゃんが何かを思い出す前に、今度こそここから立ち去ろう、と僕は皇を担ぐのだったが……。
「み、見つけたぁぁぁ!!」
どこからか、知った声が。
もちろん、イワンでもアオイちゃんでもなく、もっと前から知った声が聞こえたのだ。その声の方に振り返ると、やはり良く知った顔が!!
「狭田!?」
狭田は僕の方へ駆けよると、頭突きされるんじゃないか、という勢いで顔を近付けてきた。
「なんや? 皇かと思ったら、神崎か。なんでお前が神崎のブレイブアーマー使っとんのや。いや、それは良い。探してたのは神崎、お前やらからな」
なぜか興奮気味に狭田は早口で僕に言う。
「神崎、お前この戦争を終わらせられるんだろ?? ほんなら、早く何とかせぇ! 外は地獄やんか」
「戦争を終わらせる? な、なんのこと??」
「なんのことって……。おい、どうなっとんのや、セレッソ!!」
狭田の後ろには、セレッソの姿が。だが、いつも涼し気な表情のセレッソが、今までにないほどの緊張で顔を強張らせている。ってことは……と、僕はその原因であろう方向に振り返ると、
めちゃくちゃ殺気立った表情のアオイちゃんが!!
も、もしかしてこれって……最悪のタイミングってやつか??
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