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【人を待たせちゃダメ】

スクールに入学してから、三日目のこと。


昼休みが終わって、

午後の授業が始まろうとしたとき、校内放送があった。


「近隣にノームドが発生しました。数は一体のみです。勇者科の二年三組は出動。勇者科の三年三組、魔法科の一年六組はサポートをお願いします」


ノームドって確か、

アトラ隕石の影響でモンスターになってしまった人のことだよな。


僕があたふたしている間に、

教室のみんなは素早く行動を始める。皇と岩豪に関しては、急いでいる様子はなかったが、誰よりも早く教室を出て行ってしまった。


「あ、神崎くんは初めてだったよね」

「え? あ、うん」


声をかけてきたのは、隣の隣の席に座っていた男子生徒だった。


メガネをかけていて、気弱そうな雰囲気。人のことは言えないが、学校では人気が出ないタイプだし、勇者を目指しているようには見えないが、名前は何だったっけ?


「僕は雨宮達郎。よろしく。まずは、ノームドが出たときの準備について説明するね」

「うん、ありがとう」


僕が人見知りを発動させている間に、雨宮くんは教室の後ろに設置してあるロッカーの方へ移動した。


「まずはプロテクターを装備して。ノームドは人間よりパワーがあるから、装備なしで戦うのは危険なんだ。ちゃんと、神崎くんのものも用意されてるよ」


神崎、と書かれたロッカーを開けると、映画の中に出てくる特殊部隊が装備しているような防具らしいものが入っていた。


胸部、肘と膝、そしてヘルメット。雨宮くんにやり方を教わりながら、それらを身に付けた後、みんなを追って走った。


「ノームドが発生すると、警察だけじゃなくて、近くのスクールにも連絡が入るんだ」


走りながら雨宮くんが説明してくれた。


「ノームドを制圧するために、勇者科の一年生か二年生が一クラス出動することになるだけど、これはシンプルに順番。前回は、二年二組が出動したから、今回は僕たちってこと」


「へぇ、スクールは勉強するだけじゃなく、治安活動みたいなこともやっているんだ。でも、僕たちだけで大丈夫なのかな?」


この世界にきたとき、僕はノームドを倒したけれど、あれはたまたま弱いやつだったのかもしれない。子供だけでは倒せないような、ノームドだっているのではないか。


「うちには暫定勇者の皇くんとランカーの岩豪くんがいるから、よっぽどのことがない限り、大丈夫だと思うよ。それに、数も一体だけみたいだし、三年生と魔法科の一年生もサポートで出てくれるから、どんなに強いノームドだったとしても、みんなでやっつけられるだろうね」


雨宮は何かに気付いたらしく、やや表情を明るくした。


「しかも、三年三組と言えば、綿谷先輩がいるクラスだよ! 運が良ければ、綿谷先輩が戦うところも見れるかも! もし、皇くんと共闘するようなことがあったら、とってもおもしろ……じゃなかった。安全に処理できるだろうね!」


……何となくだが、

雨宮くんはオタク気質なのかもしれない。悪い意味で。


「あ、現場に到着したみたいだ」と雨宮くん。


彼の視線の先を見てみると、僕たちと同じプロテクターをまとったクラスのみんなが人だかりを作っていた。


そこは、スクールから少し離れた住宅街。


普段は閑静な風景が広がっているのだろうが、ノームドがいるだけで、異質な空間となっていた。ノームドは灰色の大柄の体で、筋肉も以上に隆起し、野生動物のような唸り声を上げている。


「あ、ハナちゃん」


少し離れたところに、ハナちゃんが立っていた。戦うつもりはないのか、制服姿のままだ。


その周りには、同じ三年生と思われる生徒たちがしっかりとプロテクターを装備して、こちらを見守っていた。


「よーし、始めるぞ」

武田先生が皆に声をかける。

「下級ノームドのようだが、油断はするな。もし、制圧やってみたいってやつがいたら、手を挙げろ」


何だか緊急事態には思えない空気だ。


まるで、社会科見学にやってきた学生たちに、何か質問あるやつは手を挙げろ、と言っているみたいで、緊張感はない。


誰もが様子を見ていたが、すっと手を挙げた人間が一人。


……岩豪鉄次だった。


それを見た、先生は困ったように眉を寄せる。


「ん? 岩豪かぁ。お前はランカーだし、もういいだろう。他に譲ってやったらどうだ?」

「いえ、俺ではありません」


岩豪は、あらかじめ僕の位置を把握していたように、振り返ると、親の仇を見るような目で言うのだった。


「神崎にやってもらうのはどうですか? ノームド戦は初めてのようですし、良い経験になると思います」


おおお、とクラスのみんなが期待の声を漏らした。


「そうだな、良いかもしれない。おい、神崎。やれるか?」

「え、えええ……」


戸惑う僕の横で、雨宮くんが興奮気味に言う。


「やってみなよ、神崎くん! 僕も綿谷先輩が推薦した天才勇者候補の力を見てみたいなぁ」


て、天才勇者候補?

僕はそういう目で見られているのか?


「で、でも……初めてだし」


どうにか逃れられないか、

と言い訳を考えるが、岩豪が真っ直ぐ僕を見て言うのだった。


「なんだ、実力に自信がないのか? お前、本当に華から推薦をもらった戦士か?」


岩豪の声は必要以上に大きい。

少し離れたところにいるハナちゃんにも聞こえているのではないか。その証拠に、ハナちゃんの鋭い視線がこちらに向けられている気がする。


「嘘ではないなら、やはり華はお前程度の弱者に負けたってことだ。これは、次の防衛戦も負け決定だな。情けない。あいつが、暫定勇者になれたのも、何か忖度があったのではないか?」


その発言はもちろん、その顔も、声も、心の底からハナちゃんを蔑むような含みがあった。


「おい、筋肉馬鹿」と僕は言った。


岩豪の目付きが変化する。


それは殺気に近いものが含まれていたが、関係なかった。僕はハナちゃんが毎日必死に練習しているのを知っている。それを馬鹿にする岩豪が、単純に許せなかったのだ。


「ハナちゃんは、お前の百倍は強いぞ。勘違いするなよ」


言ってしまった後、火に油を注いでしまったのでは、と後悔する。下手したら、岩豪は僕に襲い掛かってくるのでは……と思ったが、やつは満面の笑みを浮かべた。


「だったら、それを証明してみろ。あのノームドを倒して、お前の実力をみんなに証明するんだな」


そ、そういうことか。

僕は、安い挑発にまんまと乗ってしまったんだ!


「じゃあ、神崎で決まりだ」と武田先生。

「うわー、頑張ってね!」と雨宮くん。

「やれやれー!」とクラスのみんな。


これは……確かに、もう退けないぞ。


押し出されるように最前列に出ると、ノームドと目が合ってしまった。すると、ノームドは敵意を察知したように、叫び声を上げる。


「オオオオオオオォォォーーー!」


その咆哮は『どれだけ待たせるんだ!』というノームドの心の声が含まれていた。気のせいかもしれないが……。

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