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◆君の面影を追って②

アッシアの中にいる強硬派は、魔王の存在をいいことに、独立した国に対し、次々と攻撃を仕掛けた。気付けばアッシアの領土は一回り大きくなっている。


「クララが帰ってくるかもしれない……」


戦争に勝てば、アッシアが大きなる。そんな簡単なことに、気付いてしまったイワンは、強硬派の提案を指示し始めた。


ただ、戦争に勝ち続けることは難しい。


「魔王様のご協力を!」


そんな要請が何度もあったが、イワンは拒否を続ける。魔王に叶えてもらえる願いはあと三回だけなのだから。


「では、どうやって戦争に勝つのですか?」

「アッシアの威厳を知らしめましょう!」

「正義を理解できない小国に分からせてやらねば!」


強硬派たちの言葉を聞き、イワンはふと思い出した。父の言葉を。


「ワクソーム城の近くに地下研究所はないかね?」


イワンの質問に、ほとんどの人間は首を傾げたが、調査するよう指示を出すとそれはすぐに見付かった。


「確かに、それらしい施設がありますが、特別な鍵で閉ざされています。そこに何があると言うのですか?」


「アッシアの正義を証明するための力があるはずだ。そして、その鍵はここにある」


イワン立ち合いのものと、研究所の扉が開かれると、そこには強化兵の研究資料、クローンやビーム兵器といった禁断技術が封印されていた。アッシアは封印されていた技術の研究を再開。次々と実践に投入し、魔王に頼ることない圧倒的な軍事力を養うこととなった。


燃える。世界が燃える。

火はアッシアを中心にどこまでも広がろうとしていた。


イワンは普通の男である。戦争が好きなわけでもない。虐殺が好きと言うわけでもない。


ただ、少し記憶力と集中力のある、普通の男。しかし、そんな彼の長所はクララという一人の女を求めるためだけに使われ、手段を選ばなかった。


「それでも、ときどき思うんだ」


アニアルークの旧政府軍が、セルゲイ・アルバロノドフという英雄を先頭にワクソームに攻め入った際、その殲滅を女神に願った日の夜、イワンは唯一の友人に告白した。


「これが正しいのだろうか、と。死者の数はどんどん増えるばかり。最初は実感がなかったが、理解していなかったが、今は分かる。彼らを殺したのは私だ。きっと、彼らにも家族があった。親切にしてくれる友人がいた。愛する人がいたはずだ。それを奪って……奪い続けて、その先にクララが本当に現れるのだろうか?」


「……だったら、もうやめる? 逃げたいと願えば、誰もイワンのことを知らない世界の果てまで、私が連れて行ってあげるよ」


魔王の提案に、イワンはしばらく遠くを見つめた。視線の先には白い壁があるばかりだが、瞳の中には一人の女性の姿が浮かぶ。


「できない。彼女を諦めるなんて、私にはできない。あと一回戦えば……きっと会えるはず。そんな希望が私の胸にこびりついて、剥がれることがないんだ。しかし……タンソールよ、私はどうするべきなのだ?」


「だったら、私が最期まで付き合ってあげる。世界を敵に回しても、私がイワンの味方になるから。イワンはイワンの願いのために、ただ進めばいいじゃないか」


アッシアから独立した国々を再び統合し、イワンは戦う相手を見失った。既に強硬派のメンバーも処刑されたため、新しい火種を探す人物もいなかったが、イワンが案を出すよう指示を出すと、こんな答えが返ってきた。


「オクトを攻めるのはいかがでしょうか? 彼らはアキレムとアニアルークを支持していました。さらに、寒いアッシアと違い、海洋資源が豊富な港もある。我が国の領土にしてしまえば、大きなメリットも得られます」


こうしてアッシアとオクトの戦争が始まる。ただ、オクトは他の国と違い、強かった。何よりも、魔王をもってしても攻めきれないという想定外の事態もあり、戦争な長引いてしまう。


そんな想定外は、少しずつ膨れ上がり、今目の前に形となって現れた。


「お前……なんなんだよ。おかしいだろ、何でそんな普通の顔で、これだけのことできるんだ? 頭おかしいよ! 何があれば、お前みたいなやつがこの世に生まれてくるだよ!!」


白いブレイブアーマーをまとった若い勇者が、イワンを責める。既にイワンは彼の疑問に対し、正確な答えを返せる精神状態ではなかった。


「……さぁ、なぜだったのかな」


自らの過去を振り返ろうとしたそのとき、目の前にある黒電話が音を立てた。なんの報告だろうか、とイワンは慣れた手つきで受話器を取る。


「イワンだ」


「イワン様。極秘調査対象の優先度Aの行方が分かりました」


それは、何年も前から調査を続けていた、クララに関する報告だった。

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