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◆君の面影を追って①

イワンは新政府に戻った。彼が故郷で幸せに暮らしているだろうと信じて疑わなかったマカチェフは、戻ったイワンを見て本当に驚いたようだった。


「なぜ戻った?」


その問いに、イワンは真っ直ぐな目で答える。


「中尉殿、私はアッシアを大きくしたい。どこまでも続くような広い国にして、この世界から争いをなくしたいのです」


それは、権力が集中する中、信頼できる仲間を失いつつあったマカチェフにとって、願ってもないことだった。


「分かった。アッシアのもと、世界を平和に変えよう。二人で!」


そこから、イワンとマカチェフは働きに働いた。それはあくまで、平和的な方法で独立しようとする都市を説得するというものだったが、大きな成果は得られず、アッシアは少しずつ国を小さくしてしまう。


人生とは上手くいかないものだ。どうしても、手に入れたいものがあっても、求めれば求めるほど、指と指の間から何かが零れ落ちるように、それは遠のいてしまう。




そして、上手くいかない人生を苦しみ、過去の選択を疑っている間に、時間は流れて、老いと別れがやってくる。


「イワン。後はお前に任せる。次の首相にお前が選ばれるよう、すべて準備は済んでいる」


管につながれ、ベッドの上に横たわるマカチェフを見ても、イワンは彼の死を認められなかった。なぜなら、彼はまだ五十になったばかりなのだから。自分と五つしか歳が変わらないのに、もう死んでしまうなんて、信じられなかった。


「中尉殿、これから良くなるはずです。どうか弱気にならないでください。私を……一人にしないでください」


八年前、イワンが新政府に戻ったとき、そこはかつての雰囲気とは違うものになっていた。多くのメンバーが私欲のために動く組織となり、イワンが青春時代に感じていた温かさはなかったのだ。


「大丈夫だ。お前ならやれるさ。いや、お前にしか任せられない。イワン、お前がアッシアを守ってくれ。俺たちの強いアッシアを……」


その後、すぐにマカチェフの葬儀が行われ、イワンは孤独を感じた。しかし、それでも彼は行かなければならない。


次期首相を決定する選挙が行われたが、マカチェフの最期の指示が作用して、見事にイワンが当選する。ただ、これからどうすべきなのか、イワンは見当も付かず、彼は孤独を深めるだけだった。そんなある日、彼はワクソーム城の中庭に何となく出てみると……。


「願いはある? 奇跡のような、自分だけに都合のいい、圧倒的な力が……必要なんじゃない?」


ベンチに座る一人の少女がイワンに声をかけてきた。イワンは彼女の問いかけに答える


「……必要かもしれない」


今の新政府のメンバーに、魔王の存在を信じる者はいない。アキレムの艦隊を全滅させたのは、何かの偶然で一回きり使えた禁断技術だったと考えるものが多く、それは既に抑止力としても使えないものだと認識されていたのだ。そんな彼らにイワンは告げる。


「魔王様が帰還した」


イワンにしてみれば、ただ旧友が戻ってきた喜びを伝えるものだったが、他のものは別の形に捉えてしまう。


「では、外交はもっと強気にでるべきです。独立した諸国を再びアッシアに取り戻しましょう」


もちろん、多くの人間は魔王の力など信じてはいなかった。ただ、これを口実に政府の方針を強行的なものへ変えてしまおうと考える人間が多かったのだ。


「まずはアニアルークの地を取り戻しましょう」

「しかし、口実はどうする?」

「最近、アニアルークの動きは怪しい」

「NU連合へ加入を検討しているらしいぞ」

「アッシアの同盟国なのに?」

「では、それを口実にしよう」


イワンは何が起こっているのか理解できなかったが、物事は次々と進んで、いつの間にか戦争が始まっていた。当時、新政府の人間たちは戦争に勝てばよし、負ければイワンに責任を取らせればいいと考えていたのだが……。


「NU連合がアニアルークの支援を表明しました。このままでは、連合と戦争になります」


NU連合は約三十の国による国家連合だ。一つ一つの国は小さいが、連合となるとアキレムに並ぶ力を有する。瞬く間に、アニアルークの地を中心に、アッシアとNU連合の戦争が始まった。国力が下がったアッシアはすぐに押されて始め、イワンは責任を迫られる。


「首相として失格」

「席を譲るべき」

「もはや過去の英雄」


そんな批判が並べられた新聞に目を通しながら、魔王がイワンに囁く。


「困ったことになったねぇ。このままじゃあ、イワンは首相を降ろされる。下手したらアッシアも滅んじゃうよ?」


「それは困る。父さんと中尉殿、クララに約束したんだ」


「だったら、願えばいいよ。女神に願えばいい。アニアルークの地にいる連合の兵士を殲滅しろ、ってさ」


「……」


翌日、アニアルークは火の海に包まれ、魔王という存在が再び人々の記憶に刻まれるのだった。

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