【スクールライフ!⑤】
午後は座学でなく、実技もあった。
そこで分かったことがあったが、やはり皇と岩豪はとにかく強かった。
皇に関しては何をやってもトップ。
とにかくトップだ。
打撃も寝技も、体力テストもトップ。
おまけに、皇が何かするたびに、女子たちの黄色い声が聞こえてくる。
やつを見ていると、本当に何をしてもナンバーワンって感じの男って実在するんだ、と思い知らされ、少しばかり気分が落ちるのだった。
ただ、そんな皇の成績に一つだけ黒星を付けるのが、あの岩豪だ。
パワーに関しては、岩豪が皇を上回る。皇と戦ったときも、きっとパワーを突破口にして勝ちをもぎ取ったのだろう。
「よーし、岩豪。お前のタックルみせてみろ!」
タックルの練習中、
武田先生が岩豪に言った。
「はぁいっ!」
岩豪の気合が入った返事。
先生は大きいクッションのようなものを盾みたいに持って、岩豪の正面に立った。岩豪は動く大岩の如くだが、武田先生もかなりガタイがいい。まるで、分厚い鉄の壁だ。
流石の岩豪も先生が受け手ならば、がっしりとタックルを止められてしまうのでは…
と思ったが――。
「うおりゃああああぁぁぁーーー!」
岩豪の突進。
二人の体がぶつかり合う!
すると、先生は体勢を崩し、たたらを踏むように何歩か後退したあと、ついに尻餅を付いていた。
恐るべし岩豪のパワー。
あんなの、僕が受けたら体が粉々になってしまうのでは……?
対する僕は、皆の前でパンチやキックなど実技を見られたが、何とも微妙な雰囲気が流れた。
「あれ、マジでやっている?」
「本当に綿谷先輩の推薦か? 嘘だろ……」
「よかったぁ。俺以下のやつっているんだぁー」
蔑むような視線と評価の声を感じてしまうと、余計に体が上手く動かず、次第には笑い声まで聞こえ始めた。半泣き状態で実技の時間は終わったが、
なぜか皇と岩豪だけは真剣な顔で僕の拙い動きを見ていたのだから、何とも複雑な気持ちで仕方がなかった。
ついに待ちに待った放課後がやってきた。
精神的にも、肉体的にもつらかったスクール生活初日。
しかし、ハナちゃんと一緒に帰れる、という一点だけで、頑張ってきた。やっと、その時間が訪れたのだ。
「起立。礼!」
異世界でも学校とは、
やはりこういう挨拶なんだな、と感心しつつ、その日の終わりを実感した。
多くの人が解放感を活力として羽を伸ばそうとしているように見える。
きっと、皆すぐに教室から出て自由を堪能するのだろう……と思われたが、
なぜか出口のところで全員が動きを止めいた。
何があるのか、
廊下の方を見て、何やら様子を窺っているらしい。
原因を探ろうと耳をそばだててみると、遠慮がちな囁き声が聞こえてくる。
「どういうこと? 何が目的?」
「そりゃ、皇に用があるんじゃないか?」
「でも、うちらの教室まで来たことないだろ」
「え、じゃあ……もしかして、例の転校生ってこと?」
なんだろう。
僕が関係しているのだろうか。
だとしたら、皆の視線がこっちに向いてもおかしくないはずだが、なぜ廊下なんだ?
すると、何か動きがあったらしく、ざわざわと囁き合う声が聞こえた。
「悪いけど、通してもらえる?」
そして、その声によって出口を塞いでいた人だかりが、一斉に退散する。
あれ、この声って……と気付いたときには、彼女が教室の中へ入ってきていた。
「あ、いたいた。何してんだよ、ずっと廊下で待ってたんだからな。ほら、帰るぞ」
「ハナちゃん、本当に来てくれたんだ」
今度は感動で涙が零れそうだったが、なぜか教室中が静まり返り、同時にガタンッと不吉な音が響いた。
あれ、この音…
今朝も聞かなかったか?
音の方を見れば、巨大な岩がそびえ……いや、岩豪が立ち上がっていた。
「どういうことだ、華」と地獄の門番のような声が響く。
あれ、華って今言ったよな。
もしかして、二人は知り合い?
とハナちゃんの方を見ると、彼女は涼し気な顔で言った。
「あれ、鉄次じゃん。こいつと同じクラスだったんだ」
質問に対し、何事もない顔で答えるハナちゃんが気に入らなかったのか、岩豪の眉間に深々と皺が寄った。
「お前、本当にそんなやつをランカーに推薦したのか?」
ざわ、っと音を立てて、
人々の緊張が教室内を突き抜ける。
「そうだけど? 何か文句あるのか?」
「あるに決まっているだろ。お前は、自分より強いと認めた男が出てこない限り、誰も推薦する気はない、と言っていたはずだ」
「あー、確かに言ったな。って言うか、推薦って、そういうもんだろ」
「あと、自分より強いと認めた男でない限り……コッ、コッ、コッ」
コッ?
どうした、ニワトリか?
何を伝えようとしているのか、
これまで怒り心頭って感じで淡々と質問を重ねていた岩豪が、言葉をつまらせる。
しかも、噴火寸前なんじゃないか、というくらいに顔が赤い。
岩豪は「コッ」を何度か繰り返してから、それを言った。
「コッ、交際相手として認めない、とも言ったはずだ」
「え?」
あまりに意外な言葉が出てきたので、僕の口から間抜けな声が出てしまった。どういうことだ、と再びハナちゃんの方を見てみると、彼女も心当たりがないのか、珍しく間の抜けた顔を見せていた。
「俺からの申し出を断ったのに、どういうことだぁぁぁぁぁーーー!」
その怒号は教室中に、
いやスクール中、
もしかしたらオクト国中に響き渡ったかもしれない。
「てっきり、俺は皇とお前が……いや、それはどうでもいい! とにかく、お前がそんな弱いやつと交際するなんて、俺は絶対に認めん! いや、許さん!」
えっと……つまり、
岩豪はハナちゃんのことが好き、ってこと?
岩豪からしてみると、
僕がどこからともなくやってきて、横からハナちゃんを掻っ攫おうとしているように見えているのか。
「お、お前……何言ってんの?」
ハナちゃんの声が聞こえていないのか、岩豪はさらに声を上げた。
「なるほど、分かったぞ! 華、お前はそんなやつに負けるほど弱くなかったのか。俺の挑戦を断るから妙だと思ったが……そうか、俺に負けるのが怖かったのか! さては、暫定勇者になったのも、実力ではないな? 真の勇者を目指すことすら忘れ、そんな軟弱者と肩を寄せ合っているとは、俺は悲しい! あのときの、強く気高い華は、どこに行ったんだ」
……駄目だ。
なんか熱苦しくて、もう付いていけない。
「てめぇ、鉄次……言わせておけば!」
「もういい! それ以上、言うな!」
岩豪はハナちゃんの言葉を遮り、さらに続ける。
「やはり、お前は俺が守ってやらねばならない女だったんだ。すまん、気付いてやれずに。おい、軟弱者」
ギロリ、と岩豪の視線がこちらへ。
「すぐに華の前から消えろ。こいつは、お前に相応しくない女だ」
「あのな、お前……何か勘違いしているみたいだけど」
ハナちゃんが再び説明を試みようとした、そのときだった。
「うるさいよ、鉄次」
今まで、僕とハナちゃん、
それから岩豪がこの空間の中心だったが、
その声によって、すべての関心が移り変わった。声の主、皇颯斗がこの空間の中心人物となったのだ。
「華先輩は華先輩で、事情があるんだろ。それなのに、見苦しいよ」
「……しかし、お前はこの軟弱者を認めるのか?」
怒号を返すと思いきや、
岩豪は案外冷静に質問を返す。
それに対し、皇は少しだけ間を置いてから、意外な提案をした。
「そんなに気に入らないなら、実力で白黒つければいいじゃないか。シンプルな話だ。その彼に、君が対戦要求すればいい」
再び教室内がどよめいた。
だが、皇が再び口を開きかけると、全員が黙って次の言葉を待つ。
その注目が何を意味しているのか、皇はすべてを理解しているように言った。
「彼は推薦枠。君はランカー。誰も対戦に反対しないし、彼だって断らないはずだ」
皇の目の色が変わる。
異様に冷たい、処刑人みたいな目の色で、彼はこうも言うのだった。
「そして、勝った方が次の僕の防衛戦の相手だ。それが、一番わかりやすいだろう?」
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