【もはや勝ち目なし】
ブレイブモードが解除される寸前、僕のハイキックはフィリポに届かなかった。たぶん、それよりも速くフィリポのハイキックが、僕を薙ぎ倒したのだ。
そりゃそうだ。
僕のハイキックはフィリポに憧れて覚えた技。本家本元のそれに叶うわけがない。
そして、同時にブレイブアーマーが限界を迎えて……。
「くそ、生身で強化兵になったフィリポに勝てるわけがないぞ。変身!!」
ブレイブシフトを握るが、反応がない。今となっては慣れた、プラーナを流すという行為に対し、何も反応が返ってこないのだ。
「おやおや、神崎くん。もう終わりかな」
今まで黙っていたイワンが口を開く。でも、言い返している暇はない。だって、フィリポがゆっくりと僕に近付いてきているのだから。僕は重たい体を何とか立ち上がらせて、フィリポから距離を取る。
「よ、寄るな……!!」
出てきた言葉はそれだけ。後は震えて、顎がまともに動かなかった。
死ぬ。ついに、死ぬんだ。
僕が憧れた男に殺される……。
学校の隅で、皆の笑い声を聞いているだけの生活が嫌で、勇者になれるからって、可愛い女の子にモテモテになるからって、そんな誘い文句に騙された僕が……やっぱり馬鹿だったのか??
あの生活の方がまだマシだった。そうは思わない。そうは思いたくないけど……。
「し、死にたくない……!!」
震えながら、やっと出てきた言葉はそれだった。そんな僕を無表情で見つめるイワン。
「……戦争とは悲しいものだ」
「はぁ??」
それを……お前が言うのか??
「何度も見てきたよ。君のように、恐怖に溢れ、絶望しながら死んでいく人間を。どんな願いがあっても、どんな志があっても、どんな正しさがあっても、戦争では無慈悲に、残酷に人が死んでいく。仲間が、好敵手が、絶望を抱き、もしくは最期を認識することなく、すべてが嘘だと言わんばかりに、呆気なく死ぬ……。そんな光景を目にするたびに、私は思った。戦争は悲しい、って」
「だったら……すぐにやめろよ」
お前がやめるって言えば、戦争は終わるんだぞ??
しかし、イワンは首を横に振った。
「ダメだ。私は約束した。父さんに。中尉殿に。そして、クララに。アッシアが世界最高の国だと証明する、と。そして、それを達成したとき、彼女は私の前に姿を現すんだ。ああ、クララ。君に会いたい。もう少しだ。もう少しだよ」
無表情なイワンが、そのときだけは、まるで幼い子どものようだった。だけど……。
「お前、何を言っているんだ……?」
何もかも理解できなかった。
だって、お前の言っていることは、たぶん戦争で命を落とした人たちも、似たようなことを考えていたはずだ。それなのに、お前は自分の都合だけを、他人に……
いや、世界に押し付けるつもりなのか??
「理解されなくて結構。フィリポ365、やつにとどめを」
もとのイワンに戻ったかと思うと、冷酷な指示を出す。フィリポがわずかに頷くと、左足を持ち上げた。すると、脛の辺りがせり上がり、硬質化していく。それはまるで、足の中に仕込んでいた刃が飛び出して、脛そのものが刀に変化したみたいだ。
「そうだ。得意のキックでやつの首を切断しろ」
フィリポが一歩、また一歩と僕に近付く。
背を向けて、逃げ出せ。
いや、背を向けた瞬間、やつは襲い掛かってくる。
だけど……丸腰の僕に何ができるんだ!!
後退りを続けたが、やがて背中が壁に突き当たる。フィリポはそれを確認すると、僕を追い詰め、蹴りを出す体制に入った。
「う、うわあああぁぁぁーーー!!」
フィリポが腰を落とし、左足を床から離す。あ、死ぬ……。
バキンッ!!
首が飛んだ。
嗚呼、意外にも首が飛ぶ音って金属音みたいなんだな。
……ん?
違うぞ。痛くない。
って言うか、手足が動く。首もくっ付いている!!
僕は目を開ける。
すると、そこには僕の目の前でフィリポのキックを止める背中が。
純白のブレイブアーマー。ってことは……!!
「皇!!」
「早く……距離を取れ!!」
僕は言われるがまま、床の上を這うようにしてフィリポから逃げ出す。もうダメかと思ったけど、最強の仲間が駆け付けてくれたぞ!!
ここに皇がいるってことは、あいつピエトルを倒したんだ。ランキング戦でフィリポを圧倒したピエトルを!!
「悪いけど皇、頼んだぞ!!」
しかし、僕は皇とフィリポの方に振り返った。だけど、そこには膝を付く皇の姿が。皇は肩で息をしながら、弱々しい声で言った。
「助けにきたつもりだけど……僕もプラーナが空なんだ」
「……マジ??」
最強の勇者である皇が、体力ゼロの状態ってことだよな?
……じゃあ、誰がフィリポを、イワンを倒すんだ??
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