【劣化版コピー VS 完全コピー】
「な、なんでフィリポが……」
僕は思わず後退りする。すると、イワンが冷えた笑みを浮かべたまま言った。
「オクト人はこの世代のランキング戦に出ていた戦士を崇拝しているからね。逆に敵として出てきたら、絶望するだろうと思って、クローンを作っておいたんだ。もちろん、オリジナルの戦闘データをインプットしてあるから、君たちが知るフィリポと同じ強さを持っているよ。どうだい、アッシアの技術は凄いだろう?」
正直、イワンの作戦は狙い通りだ。僕はフィリポを前にして、体全身で動揺しているのだから。そうだ、ピエトルのクローンが出てきた時点で覚悟すべきだったんだ……!!
「神崎くん、早くブレイブチェンジしたまえ。ランキング戦のフィリポは、ゴングが鳴って数分間だけ戦う戦士だが、そこの彼は目の前の敵が死ぬまで戦い続けるモンスターだぞ」
イワンに煽られるようにして、フィリポが動き出す。僕に向かって、真っ直ぐと。その途中、彼の体から真っ白な煙が吐き出されたかと思うと、肉体は全身灰色に染まっていた。
「ちくしょう、フィリポもピエトロも勇者なのに、強化兵に変えちまうなんて……!!」
まるで、オクトの勇者と言うアイデンティティまで、アッシアに塗りつぶされてしまったかのようだ。
「許さないぞ、勇者の尊厳まで踏みにじろうとするお前のやり方を……。変身!」
ブレイブチェンジすると同時に、フィリポとの間合いはゼロになっていた。そして、唐突に何の前触れもなく、視界の外から現れるフィリポの左足。
「うわぁっ!!」
何人もの勇者候補を破った左のハイキックだ。予想ができていたから躱せたけど……
一発でもまともに食らったら終わりだぞ??
気持ちを整える間もなく、鋭い右のジャブが僕の額を叩き、思わずのけ反った。だが、痛みを感じている暇はない。次にくるのは……。
弾丸みたいな左ストレート!!
両腕をクロスして、それを受け止めるが、その威力にブレイブアーマーが火花を散らす。まだ止まっていられないはず。なぜなら、次は足を刈り取るようなローキックがくるからだ。
すぐさま僕は後ろに飛ぶと、やはりフィリポは左足で風を切っていた。
……攻撃パターンまで全盛期と一緒。
だからこそ、反応できるけど、まったく反撃できない!!
だって、威力もスピードも強化されているし、僕の手の内は全部フィリポの真似なんだから!!
つまりは、劣化版のコピー品とノイズなしの完全コピー品みたいなものだ。劣化版の僕が勝てるわけないだろ……!?
「ま、マジで死ぬかも」
嗚呼、この世界にきてから、何度同じ言葉を呟いただろうか。でも、だって……相手はフィリポなんだから。
「神崎くん、休んでいる暇はないはずだよ」
それなのに、イワンのやつはチャチャを入れてくる。イライラするなぁ、本当に!!
凄く腹が立つけど、やるしかない。皇のやつにも言われたじゃないか。僕の強さはムラがある、って。動揺せず、ちゃんと集中して戦えば、フィリポが相手でも……。
僕は息を整え、フィリポの接近を待つ。フィリポがじりじりと距離を詰め、お互いの攻撃が当たる位置に。小刻みなパンチのフェイントが僕をかく乱する。だが、次に繰り出されるのは、キックかもしれない。
「これなら、どうだぁぁぁーーー!!」
僕は思い切ってタックルを仕掛ける。打撃のスペシャリストであるフィリポと同じ土俵で戦う必要はないはず。しかし……。
「う、うぉっ!!」
渾身のタックルは一瞬で潰され、突き放される。
そうだ、あのガチガチのレスリングファイターである、マックス・コールドのタックルさえ潰し切ったフィリポだ。僕のへぼいタックルで倒せるわけがない!
で、マックスはタックルを切られた後、どうなったんだっけ??
そうだ、立ち上がり際、顔面にパンチが――。
「ぐへあっ!?」
咄嗟にガードで顔面を守ったはずが、衝撃は思いもよらぬ個所に。それは、右の脇腹あたり。フィリポはパンチではなく、左のミドルキックを放ったのだ。
内臓が口から飛び出しそうな痛みに、悶える僕だったが、ここで終わってはくれない。膝を付いた僕の顎を蹴り上げようとするフィリポ。
「ぬあぁぁぁ!?」
何とか後ろに倒れ込んで躱したけど、フィリポは僕のお腹を踏み付けようとしていた。
「た、助けてーーー!!」
ごろごろと床の上を転がり、何度目か分からない危機を乗り越えるが……。
「か、勝てねぇ……」
多少の想定外はあれど、攻撃パターンは本物のフィリポと変わりない。ただ、パワーとスピードが段違いで、逃げ回るのでやっとだ。せめて、僕のスペックが各段に上がれば……。でも、そんな都合のいい方法があるわけないし。
「いや、待てよ。あるじゃないか!」
そう、ブレイブモードが!!
でも、僕のブレイブモードはたったの三十秒。あのフィリポを、たった三十秒で倒せるのか??
「それでも、やらないと僕だけじゃなく、ハナちゃんも……フィオナだって危ないかもしれないんだ」
僕は覚悟を決める。
三十秒で……フィリポを倒し切るんだ。
「行くぞ……!! ブレイブモード!!」
ブレイブアーマーのサポートシステムが反応し、僕の耳元で機械的な音声が流れた。
『ブレイブモード、スタンバイ』
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