【スクールライフ!④】
この世界に関するさまざまな情報はさておき、僕が最も恐れる時間が迫っていた。
後五分でチャイムがなる。
向こうの世界と変わらない、キンコンカンコンという、あのチャイム。
そう、昼休みの時間だ。
学校の昼休みと言えば、誰もが示し合わせたわけでもなく、仲のいいやつらがリーダ各の席を囲って、談笑しながら食事を取り始める。
その流れは不自然なほど自然に発生し、孤独に食事をとる人間は奇人変人確定と言う空気が流れる、あの時間だ。
ガタガタと人々の席移動が始まる。
あああああ、
トラウマが、
トラウマが刺激される!
だけど、僕には
「良かったら隣いいかい?」とか
「僕も混ぜてよ!」とか
気軽に言えるスキルも勇気もゼロなんだ。
どうしようどうしよう。
パニックに陥りながら、横目で隣の皇を確認する。
きっと、彼ならクラスの人気者で、自然と人が集まるのではないか。そしたら、隣の席に座る僕も、何となくそのグループの一員みたいな空気にならないかな。
そんな期待を余所に、皇は教室を出て行ってしまった。
あ、岩豪も教室を出た。
観察対象もいなくなったら、僕がこの場にいる必要ってないんじゃないか。でも、どこに行けば良いんだろう。
トイレか。
トイレしかないよな。
でも、なんだろう、
僕に視線が集まっている気がする。
さぁ、お前はどうするんだ、
と試されているような……そんな感じがある。
でも、どうにもできないんだよ。
だから、ここはもう脱出あるのみ!
と、席を立とうと決意した瞬間だった。
「ねぇねぇ、神崎くん」
「へ?」
声をかけられた。
しかも、女子。
明るくてお喋りが好きそうなショートカットの子を先頭に、三人の女の子が僕を囲んでいる。
「前はどこのスクールだったの? 都内? それとも地方だったの? 前のスクールでも勇者科だったの? あ、色々質問しても良い?」
なんだ?
めちゃくちゃ興味を持たれているぞ。
あ、そうか。
転校生補正ってやつだ。
転校生って何か特別感あるもんな。
いや、待てよ。
逆に言えば、ここで彼女らの期待を裏切るような振る舞いを見せたら、その補正を一瞬で失い、かつての学校生活と同じことになってしまうのでは?
「え、えっと……。けっこう田舎の方で、実は勇者を目指し始めたのも、最近のことなんだ」
できるだけ、無難に。
どもったり、キョドったり、
不自然な感じがなければ、気持ち悪がられることはないはずだ。
「え、本当? じゃあ、中等部のころから格闘戦の大会に出てたとか、そういうことじゃないの?」
「……うん」
これ、どう答えるのが一番なんだ?
分かんないけど、下手な嘘は裏目に出るよな?
しかし、僕の発言に周りがざわめき始めた。さっきまで、談笑していた人たちまで、静かになって僕の発言に何かしらの興味を持っているような雰囲気だ。
「でも、この時期から転校してまで勇者を目指すなんて、大変じゃない? ここからランカーを目指すのも難しいだろうし。あ、スクール卒業してからの活躍も視野に入れている感じ?」
「あ、それなら推薦をもらったから、何とかなりそうで……」
なるべく正直に、
と答えたつもりが、その発言が何やら異変を起こしてしまった。
教室中の人間が、僕に注目したのである。
「ええええええぇ、本当? 本当に推薦? 推薦ってことは、女子暫定勇者の綿谷先輩から、ってことだよね?」
「噂は本当だったんだ!」
「嘘だろ! どうやって綿谷先輩と知り合ったんだよ!」
「本当だったら、とんでもないことになるぞ!」
いつの間にか、教室にいる全員が僕を囲っていた。
教室内で、汚物を見るような視線以外を集めたことがなかった僕は、軽いパニック状態である。そして、全員が僕の回答を期待しているみたいだった。
「そ、そうだけど」
教室が揺れた。
「えええええええーーー!」
悲鳴なのか、
歓声なのか、
よく分からないが、色々な感情が入り交じり、誰もが興奮している。
「ねぇ、神崎くん。一応言っておくけど」
最初に声をかけてきた、ショートカットの女の子が言った。
「たぶん、岩豪くんと戦うことになるだろうから、殺されないように頑張ってね!」
……どういうことですか?
その後、僕の質問が掻き消されてしまうくらい、誰もが興奮気味に話し始めたので、何が何だか分からないまま、昼休みの時間は終わってしまった。
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