綿谷華の場合 / 深夜号泣
「やっぱり、あの二人は何かあるんだ……!!」
時間は深夜二時。
ジュリアは、二段ベッドの上から聞こえた華の声で目を覚ました。
「……綿谷さん? 寝言、ではないようですね。もしかして、ずっと起きていたのですか?」
返答がない……
と思ったら、華が上から降りてきて、ベッドで横になっているジュリアにしがみついてきた。
「え? あの、綿谷さん? 想定外の出来事にわたくしもパニックになりそうですよ? 寝起きなので色々と気持ちの整理がつかないのですが、もしかして、そっち路線に変更ですか? だったら、わたくしも……おや?」
「う、う、うぇえ……」
どうやら華は泣いているらしい。
ジュリアは戸惑いつつも、そういえば華は泣き虫だったのだ、と思い出す。
「つらかったのですね。よしよし。今夜は一緒のベッドで眠りましょう。寂しさで凍えそうな貴方の心を、わたくしの体温で――」
「それは嫌だ!」
「……あらあら」
はねのけられ、地味にショックを受けるジュリアだが、それは心の中に止めておく。
「では、何があったのでしょうか。それを教えてもらわなければ、わたくしとしても何をしていいものやら」
しかし、それから三十分以上、華は泣き続けるだけで、ジュリアは彼女の背中を撫でつつ、何度か眠気に負けそうになった。
「なるほど。それは宣戦布告のようなものですね。さすがはフィオナ様、勝負所を分かっている、というか」
やっと落ち着いた華の話を聞き、納得するジュリア。あくびを噛み殺しつつ華の表情を見てみると、再び泣き出しそうになるのを耐えているのか、下唇を噛んでいた。
「ま、まぁ……気持ちは分からなくないですよ」
慌てつつ、華の背中を撫でて、何とか気持ちを宥めようとするが、それが余計な刺激となったのか、結局は泣き出してしまう。しかも、頭をジュリアの胸にうずめ、子どものようにわんわんと泣くのだから、どうしようもなかった。
「これはもう、神崎誠に聞きましょう! 本人にはっきりさせるのです」
「ど、どうやって……?」
いつも大人びた雰囲気の華だが、今はまるで五歳児のような表情で期待の目を向けてくる。
(わ、綿谷さん……。なんて可愛いのでしょう! わたくしを信じて頼り切っている目。もう親友としての座は誰にも渡しませんわ!!)
ジュリアは思わず頬が緩んだが、ここで笑ってしまったら、絶対喧嘩になる。強靭な精神力で感情をコントロールした。
「フィオナ様とどういう関係なのか、そして綿谷さんのことをどう思っているのか。正面から聞いてみましょう」
「嫌だ! できない! 無理!」
「無理無理言ってられないでしょう。駄々をこねている間に、フィオナ様に取られちゃいますよ!」
「それも嫌だ……!!」
「もう、子どもじゃないんですから……」
「だって、そんなことしても、私の知らないうちに、こそこそ二人で会って、仲良くなっているんだから! 次の作戦も、どうせ私のいないところで……」
「次の作戦とは?」
何も知らないジュリア。
華は口を滑らした、と顔を引きつらすが、今さら誤魔化すことは不可能だと観念したようだった。
「なるほどなるほど。確かにそれは怪しいですね。しかも、敵地となれば自然と絆も深まり、助け合えば信頼関係も密になるもの。決定的ですね」
あからさまにショックを受ける華。
「フィオナ様、戦争に勝って恋の争奪戦も征する。やり手ですわねぇ」
感心するジュリアだったが、突然華がが顔を上げる。何か良からぬことを思い付いたのでは、とジュリアが嫌な予感を抱くと、華が顔を近付けてきた。
「わ、綿谷さん。近いです。とても近いです。もしかして、あっさり負けを認めて路線変更ですか? でしたら、わたくしも心の準備が必要なのでお待ちください。そうですね、三秒もあれば十分ですので……」
「ジュリア」
「は、はい?」
おや? はっきりと名前を呼ばれることは珍しい。しかも、距離が距離なので、ジュリアの心臓は妙に速い音を立てた。
そして、目の前で華の唇が動く。
「次の作戦、お前があの二人を見張っていてくれないか?」
「……はぁ?」
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