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綿谷華の場合 / 恋バナに華が咲き

皇の葬式が行われる直前のこと。

オクトの戦士たちは巨大移動要塞でアッシアの首都ワクソームへ向かっていた。


そんな中、綿谷華は自分の想いをつい厄介な相手に打ち明けてしまう。


「つまり、カレシに浮気されている……ということですか??」


華の話を聞き終えた、皐月(こうげつ)ジュリアは目を丸くした。驚いたようだが、すぐに呆れたように溜め息を吐く。


「最近、妙に落ち込んでいるように見えていましたが、まさかカレシに浮気されていたとは。綿谷華とあろうものが。わたくし、情けないです」


「う、浮気とかじゃない! それに、まだカレシじゃない!!」


反射的に否定するが、ジュリアは敵の弱点を見つけたかのような、嫌な笑みを浮かべる。


「まだカレシじゃない……。まだ、ということは予定がある、と?」


「ち、ちが……そういう意味じゃなくて!!」


「綿谷さんったら、見かけによらず本当に乙女ですよね。サバサバ系のクールビューティを気取っているだけで、可愛い可愛い女の子でしかなんだから」


そう言って、ジュリアは華を抱きしめると、頬を寄せてきた。


「まぁ、そんな姿を親友のわたくしにしか見せない、というところもまた可愛い。良いでしょう。彼に対する想いをどんどん打ち明けなさい! 親友のわたくしが聞いてあげます!」


「誰が親友だ! 別にそんなんじゃない!」


「カレシじゃない。親友じゃない。そんな風に綿谷さんが否定するときは、だいたい照れ隠し。親友のわたくしは見抜いているので安心してください」


「ちがうってば……!!」


思わずジュリアを付き飛ばそうとするが、彼女も暫定勇者決定戦まで上り詰めたランカー。少しも体を離さない。ジュリアが見せる「突き放せるものならやってみなさい」という得意気な顔を見て、華もムキになってしまった。


「離れろ!!」


ジュウドー技で足をかけ、投げ飛ばすつもりが、ジュリアは巧みにそれを捌く。


「おほほほほっ! 男のことで頭がいっぱいの綿谷さんは、本当に技が軽い! 今やりあったら、絶対にわたくしが勝つ自信があります! 第二体育館でやったときみたいに、けちょんけちょんにしてあげましょうか?」


「なめるなよぉぉぉ!!」


「ぎゃんっ!!」


本気になった華の投げにジュリアはひっくり返る。しばらくは天井を見つめるジュリアだったが、おもむろに体を起こしたかと思うと、今度は膝を立て座って首を垂れた。


「ひどい。ひどいですわ。いくら何でも、そんなに強く否定しなくていいのに……。親友だと思っていたのは、わたくしだけということですね。悲しいです。ええ、シンプルに悲しいです」


「そ、それは……そうじゃなくて!!」


「そうじゃなくて?」


「否定とかではなく……」


「ではなく?」


何も言えず、綿谷華は俯くと、顔が火にかけたやかんのように熱くなってしまう。その場にいることも耐えられず、部屋を出て行こうとしたが……。


「逃げるな!」


ジュリアの引き止める声はあまりに大きく、隣室から壁を叩かれてしまう。ジュリアはやや声を潜めたかと想うと、ドアノブに手をかけた華を脅し始める。


「逃げたら、さっきの話し……。皐月家がオクト国営放送に圧力をかけて、全国民に知らしめますよ?」


「ぐっ……!!」


ジュリアはオクトで最も巨大な企業、皐月グループの令嬢だ。本気になれば、今の脅しを実行することも可能だろう。躊躇う華にジュリアは言う。


「ほら、こっちへおいでなさい。ここ最近、アッシア兵との戦いばかりで、心も体も疲れていたはず。ここは親友と膝を合わせて、恋の話に花を咲かせましょう。せっかく、お部屋も一緒なのですから」


そう、ここは二人の自室。

移動要塞の中、戦士たちはプライベートな時間を過ごす部屋を与えられている。


ただ、何の因果が華は勇者決定戦を争った、皐月ジュリアと同室になったのだ。


「だから、親友って言うな……」


先程より弱めな否定する華に対し、ジュリアは諦めるように肩を落とす。


「はいはい。そうですね、口にするのは野暮ったい。お互いが心の中で親友だと想っていれば、それでよし。とにかく、座りなさいな」


そして、目の前の床をポンポンと叩く。

華は数秒間とどまったが、結局は大人しく彼女の目の前に腰を降ろした。


「それで? あの冴えないカレシ……ではなかったですね。カレシ予定の神崎誠が、浮気とはどういうことですか? 相手は誰なんです? というか、誰も相手しないでしょう、あんな冴えない男なんだから」


二度も冴えないって言うな、

と口にしかけるが、これ以上はからかわれたくない。華は何とか耐えた。


しかし、誠が自分以外の誰かに強い好意を持っているのでは、と疑う相手は、なかなか口に出せる人物ではない。それでも、想いが溢れてしまい、零れ落ちるようにその名を口にした。


「フィオナ様……」


「……え?」


さすがのジュリアも顔を歪め、表情を曇らせる。


「それはそれは……」


数秒の沈黙の後、ジュリアは手を伸ばしてお茶を一口飲むと、三つ指を付いて、小さく頭を下げた。


「ご愁傷様です」


「……もっとマシな言葉、ないのかよ」

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