表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/347

皇颯斗の場合 / その男、最強につき

イワンは言った。


「これは困った。あの方を迎えに上がるつもりが、勇者と遭遇してしまうとは。しかも、よりによって皇颯斗とは……。本当に、困った」


困った、と繰り返すイワンだが、その表情に動揺した様子はわずかにもない。まるで、部屋で独り言を漏らすかのように、感情らしいものは見られなかった。


「お、お前……イワンだな!」


その両極端と言えるのが、皇の隣で声を上げる神崎誠だ。


「う、動くなよ。お前は……絶対に捕まえて、罪を償わせてやる。だから、動くなよ!!」


イワンは神崎誠の方へ瞳を向けると、やはり無表情で言う。


「私は動いていないよ。怒りと憎しみで心が乱れ、動揺しているのは君の方ではないかね、名もなき勇者くん」


顔を引きつらせる神崎誠を見て、皇は察する。たぶん、神崎誠は再び冷静さを失ってしまった。ここは自分が冷静に対処しなければ、と。


イワンの護衛はただ一人。

ロングマントを身にまとい、深々とフードをかぶって顔を隠している男だ。


ならば、自分が護衛を瞬時に排除して、神崎誠にイワンを捕えさせる。これが最も無駄のない判断だ……


と、神崎誠に伝えようとしたが、イワンは一歩だけ後ろに下がった。逃げるつもりは、ないらしい。ただ、一歩だけ下がると妙な提案を口にするのだった。


「面白い。せっかくだから、この実験体のテストに付き合ってもらおう」


「テストだって?」


神崎誠は既にファイティングポーズを取って警戒心をむき出しにしているが、イワンはゆっくりと頷く。


「これは最新技術をつぎ込んだ実験体でね。最強と言われる勇者、皇颯斗を前にどれだけやれるのか、見てみたいんだ」


「ふ、ふざけるなよ……! そんな実験体、皇が一瞬でぶっ倒してやるからな! そうだろ?」


「……当然だ」


イワンはわずかに口の端を吊り上げた。笑った、らしい。


「それは助かる。では、ピエトル386、頼んだよ」


「ピエトル?」


神崎誠が眉を潜めた。

その響きは、皇も聞き覚えのあるもの。


いや、オクトの人間であれば、誰もが聞いたことがある名前だ。


イワンの護衛が、顔を隠していたフードを取り、その表情が露わになると、隣の神崎誠は動揺を隠せないようだった。


「う、ウソだろ……。ほ、本物じゃないか!!」


皇も、その姿を見て背筋が凍るような感覚を覚える。


「ああ、間違いない。エルモラーエフ・ピエトルだ」


エルモラーエフ・ピエトル。それは、オクトに勇者制度が導入され、ランキング戦が始まったころ、最強という名を欲しいがままにした、男の名だ。


スキンヘッドにブルーの瞳。

そして、どこまでも鍛え上げられた肉体は、皇たちに比べ、一回りも二回りも大きく見える。


彼が本物のピエトルならば、年齢は五十前後。これほど若々しいわけがないのだが……。


「ど、どうして……最強の勇者がイワンの護衛に??」


神崎誠もピエトルという存在に思い入れがあるのか、混乱しているようだ。


「ピエトルは第一次オクト・アッシア戦争で戦果を上げて、停戦に貢献したと言われているけど……記録としては未帰還。つまり、行方不明だった」


皇が説明すると、イワンが鼻を鳴らした。


「オリジナルは死んだよ。これはクローンという禁断術で作り出した、コピー品だ」


「く、クローンだって?」


「前の戦いでは、この男によって多くのアッシア兵が命を落とした。本当に、手が付けられなかったのを、今でも覚えている。ただ、それだけ優秀な男にアッシアの強化技術を施せば、どれだけ強くなるのか、興味があってね。ついに完成したのだよ」


ピエトルがロングコートを脱ぎ捨てると、その身体から蒸気のようなものが吹き出す。そして、それが霧散すると、灰色のボディに変化したピエトルの姿が……。


「ま、マジかよ」


神崎誠の声は震えていた。


「フィリポが勝てなかったピエトルに、勝てるわけがない!」


「落ち着け。確かにピエトルは強い。だけど、コピーが同じくらい強いとは限らない。それに、こっちは二人。圧倒的に有利だ」


恐怖を飲み込んだのか、神崎誠は喉を鳴らすと、二度頷いた。


「そ、そうだな。こっちだって現役最強クラスの勇者なんだ。それに、よくよく考えたら、ピエトルを悪の手先に改造するなんて……絶対に許せない。ここは僕たちが、絶対に倒さないと」


「ああ、行こう」


「おう!」


皇と神崎誠は同時に左腕にあるブレイブシフトを握りしめる。


「ブレイブチェンジ」


「変身!」


二人はブレイブアーマーを身にまとい、かつて最強と言われた勇者に挑む。しかし、現役最強の勇者と言われる皇すら、史上最強の勇者であるピエトルの強さは、底が知れないものであった。

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ