狭田慶次の場合 / 家族④
それから月日が流れ、勇者たちの招集があり、戦争の参加が決まった。王都へ向かう高速鉄道。そのターミナルで、狭田は弟や妹たちに見送られる。
「兄ちゃん、帰ってくるよな」
不安げな弟に狭田は頷く。
「当然や」
「やっと帰ってきたのに、戦争って……」
「心配すんな。兄ちゃん、勇者になるって言ったとき、みんな無理って馬鹿にされたけど、今はどうや?」
「勇者になった……」
「そんな兄ちゃんが帰ってくるって言ってるんやから、帰ってくる。また慶介に家を任せることになるけど、帰ったら美味いもの食べさせたる」
弟は頷く。
それを見守っていた妹が弟に言った。
「慶介、兄ちゃんと大事な話あるから、慶太と涼香のことみとって」
「うん」
弟たちが離れると、京香は言った。
「ちょっとだけだけど、不安だよ」
「なんでや。俺の給料で、生活は何となるやろ?」
「お金は大丈夫。私も慶介もバイトして何とかするから。でも……」
不安を押し殺していただろう妹の瞳から、涙がこぼれだす。
「私たち、まだ子どもだよ? 何も分からない、子どもなんだよ。これで兄ちゃん帰ってこなかったら、どうすりゃええの? どうやって生きて行けばええの?」
狭田は妹の頭に手を置く。
「お前も慶介もそんなこと心配すんなや。兄ちゃん、テキトーやけど約束だけは守ってきたつもりやぞ」
「そう、だけど……」
「俺、本当はな、母ちゃんの面倒見れなくて……後悔している」
狭田は自分の心の内を、妹に打ち明ける。
「最後くらい、親孝行したかったわ。育ててくれて、ありがとうって言いたかった」
迷惑ばかりかけた。だからこそ、勇者になって親孝行するはずだったのに……。
「だからな……だからこそ、兄ちゃんはお前らをちゃんと大人にする。それが母ちゃんに対する一番の親孝行やと思う」
後は頼んだ、と母は自分に言い残したのだ。だとしたら、それは必ずやり遂げなければならない。
「これは母ちゃんとの約束や。そう思っている。これで帰ってこなかったら、お前たちとの約束だけじゃなく、母ちゃんとの約束も破ることになるんやで? 兄ちゃん、そんなの死んでも死に切れん」
「そうやで。破ったら許さんよ」
「おう。それどころかな、ブレイブオブブレイブになって、お前らに一生贅沢させてやる。湯水のように金使わせたる。これも……約束や!」
「期待しとる。そしたら、友達にもめっちゃ自慢できるし、楽しみやわ」
「今から自慢しておけ。だから、少しだけ我慢してくれや」
こうして、狭田は王都に出て、戦争に参加した。皇颯斗に出会い、格の違いを見せつけられるが、それでも食らいつき、トップクラスの戦績を残し続けた。
だから、最後に大きな活躍さえ見せれば、ブレイブオブブレイブだって夢じゃない。それができなかったら、全部が嘘になる。だから……。
「せやから……帰らんとならんのや!!」
崩れそうな膝に力を入れ、地を踏み締める。だが、そこにクマエフが手刀を突き出す。
ダメだ、体が動かない。
後二秒あれば、意識もはっきりするのに……。
冷たい感触を覚悟する狭田。
しかし、彼の目前で甲高い音が響いた。
「狭田! 家に帰りたいなら、もう少し踏ん張ったらどうだ!?」
大きな盾が狭田を守る。
それを手にする岩豪は、凄まじい怪力で強化兵による一撃を食い止めていた。
「岩豪……。お前、やるやないか!」
狭田は思う。
これだけ気合の入った男と組めるなら、どんなに相手が強かろうとひっくり返せるはず、と。そして、その男が自分と同じように、失った親のために戦っているとは、狭田は知る由もなかった。
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