【大聖女の守護】
オクトの戦士たちが、一斉に走り出す。それは激しい大河の流れのようだ。僕とハナちゃんも並んで走り、ワクソーム城の正面入口へ向かっていたが……。
「ちょ、ハナちゃん! あれ見て!」
僕は空に向かって指をさす。
無数の巨大な火の玉がこちらに降りかかろうとしていたのだ。
「誠、落ち着け! 私たちはただ前へ進むだけだ!」
「えええええーーー!? 避けずに突っ込めってこと??」
「そうじゃない。忘れたのか? あの手のものを防ぐ役割がいるんだよ!」
「その通りです!」
透き通るように美しく、だけど力強い声がどこからか。
「お久しぶりですね、綿谷華」
ハナちゃんの横に、美しい金髪をなびかせる、碧眼の女性が走っていた。
「勇者になった貴方と、共に戦場を駆ける日が来ると、私は信じてましたよ」
「うるさい。私と話す暇があるなら、やるべきことをやれ」
凄く感じのいい美人なのに、ハナちゃんは突っぱねるような態度だ。しかし、その女性は気にしたような様子はなく、笑顔を浮かべる。
「そうですね。攻撃魔法の防御は私に任せて、勇者たちはただ前へ。そして、悪を討つことだけを考えてください」
女性は手にした槍……のようなものを空に向かって突き出した。
「女神セレッソの御名において、オクトの戦士たちを守りたまわん。防壁魔法、展開!」
女性が立ち止まると同時に、彼女を中心に光が広がった。そして、それは戦場を走るオクトの戦士たちを包み込むと、今にも落ちてきそうだった火の玉を防ぐ。
「す、すごい……。何が起こったの?」
「防壁魔法だ。カザモで戦った時も見ただろ?」
そういえば見たことある!
高速鉄道から降りたとき、攻撃魔法が降ってきたけど守ってもらったんだっけ。
確か、聖職者とかいうジョブの方々だったと思うけど……。
「でも、こんなに派手だった? これ、東京ドームも余裕でカバーできるくらい広がってない?」
「東京ドーム?」
「そ、そうじゃなくて。とにかく、あの人も聖職者ってことなんだよね? だとしたら、守りの要だろうし、僕たちが守らなくていいの?」
「あいつを守る必要はない。って言うより、守る意味がない」
「どういうこと??」
いつもなら、こういう質問も答えてくれるのに、なぜか黙り込んでしまうハナちゃん。
「綿谷先輩は話したくないんだよ」
今度は僕の隣から聞き覚えのある野太い声が。
「い、岩豪くん??」
巨大な盾を担ぐ岩豪は得意気な笑みを見せた。
「ランキング戦で綿谷先輩を負かせたやつがいる、って聞いたことないのか?」
え、ハナちゃんが負けたって?
そう言われてみると、クラムの人たちが言ってたな。負けてハナちゃんが大泣きしたって。あと雨宮くんも何か言ってたな……。
「セレーナ、様……って人?」
横のハナちゃんが顔を引きつらせたのが分かった。岩豪は頷く。
「そう、大聖女セレーナ・アルマ様。あの方のことだ」
「だ、大聖女??」
うわー、ラノベに高確率で出てくるやつじゃん!
でも、待てよ?
なんで聖職者の人がランキング戦に出ているんだ?
普通は勇者の適応者だけが参加するはずだけど。しかも……。
「しかも、めちゃくちゃ美人じゃんか……」
「いま何て言った?」
ハナちゃんが横目で睨んでくる。こ、怖い……。
「あいつの話しはもう良い! それより、鉄次!」
ハナちゃんは舌を鳴らした後、岩豪に確認した。
「お前こそ、自分の役目は分かっているんだろうな?」
「おう! 神崎、お前たちの道は俺が切り開く。邪魔するやつが出てきてもかまうなよ」
「……うん!」
どんなアッシア兵でも岩豪のタックルには耐えられないはず。
これだけ心強い仲間が駆け付けてくれるなんて……!
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