【八つ当たり】
迫る二体のダリアを迎え撃つため、腰を落とす僕だったが……。
「た、倒すぞ。僕だって役に立つんだから……!」
と意識すればするほど、体が硬くなり、どっちから倒すべきなのか、究極の二択でパニック状態になってしまう。
「ど、どっちを……!!」
「お兄ちゃん、頑張れーーー!」
アオイちゃんの応援。嬉しいけど……余計にプレッシャーが。
でも、迷ってられないぞ!
まずは左のダリアから倒してやる!
やっと決意したわけだが、もう一人のダリアが、僕の横手をすり抜けるように、アオイちゃんの方へ。
「し、しまった!」
僕は狙いを定めたはずのダリアに背を向け、もう一人のダリアに飛びかかる。アオイちゃんに襲い掛かる前に、何とかその腰に組み付いたのだが……。
「ぐえっ!」
背中が痛みが。
最初に戦うはずだったダリアが、僕の背中を蹴り付けたに違いない。
反撃したいところだが、アオイちゃんに襲い掛かろうとするダリアが暴れるため、そうもいかなかった。
「い、痛い! やめ、やめてぇぇぇ!」
後ろにいるダリアが僕の背中を何度も蹴り付けてくるせいで、情けない声が出てしまった。だって、何か恨みでもあるのか、と思ってしまうくらいダリアはしつこく蹴ってくるものだから……。
まるで、好きだった相手が少し会わないうちに、別の女と結婚していて、その想いをぶつけられなかったから、仕方なく僕に八つ当たりしているみたいだ。
ただ、もちろん僕にはそんなことをされる心当たりはない。
もしかして、前世で会っているのか?
それとも、何かの縁が巡りに巡ってこの状況なのか?
そうでもない限り、この気持ちが入った感じはあり得ないぞ!
「か、勘弁してくれーーー!」
「神崎さん、もう大丈夫ですよ?」
ダリアの恨みを受けながら、何とかアオイちゃんを襲おうとするダリアに組み付いていたが……既に攻撃が止んでいることをエックスさんがやんわりと教えてくれた。
「こなくそーーー!」
恥ずかしさを紛らわすため、組み付いたダリアの足を払って倒し、意識を奪う一撃を落とした。
「ふぅ、危なかった」
「なかなか鋭い足払いでしたわね。綿谷さんに組み付かれたときのこと、少しだけ思い出してしまいました」
「え、綿谷さんって……ハナちゃんのこと? エックスさん、やっぱりハナちゃんと仲良しなの?」
「……そんなことより、ずいぶん蹴り付けられていましたが、痛みはないですか?」
「あ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございました」
エックスさんに頭を下げるが、彼女は首を横に振った。
「助けたのは私ではなく、皇さんです」
「え?」
どうやら、皇は瞬時に三人のダリアを倒し、僕の背中を蹴り付けるダリアもやっつけていたようだ。なんだよ、僕はまた皇が活躍する機会を与えてしまったのか!
くそ、こいつに助けられるのは不本意ではあるが、ここで礼を言えないような人間にはなりたくない。
「……助かったよ」
気持ちを抑えて、何とか礼を口にする僕に、皇は冷ややかな目を向けた。
「大した敵じゃないのに、苦戦しないでほしいな」
「な、なんだって……?」
「君は強さにムラがあり過ぎる。どんなときも集中して戦うべきだ」
「……」
く、くっそーーー!
ぐうの音も出ないようなこと言ってくれるじゃないか!
一人奥歯を噛んでいると、背中をちょんちょんと突っつかれた。振り返るとアオイちゃんが。
「私は分かっているよ。お兄ちゃんは私を助けようとして上手く戦えなかったんだよね。ありがとう!」
「あ、アオイちゃん……」
弱っているときに優しい言葉を聞くと、涙が出そうになるぜ。
「何泣きそうになっているのよ」
と今度はフィオナが。
「貴方は器用じゃないだけで立派にやっているんだから、自信持ちなさいよ」
「ふぃ、フィオナ……」
「ちょ、泣かないでよね。……あ、待って。ニア、聞こえる?」
フィオナが耳に装着した通信機を触れる。
「そう、ヴァジュラで攻撃されて、あと少しで死ぬところだった。で、こっちの位置は分かる?」
どうやら、ニアと連絡が付いたらしい。
「本当に? 助かった。じゃあ、誘導をお願い」
フィオナが小さく溜め息を吐いた後、僕たちに言った。
「まずは全員無事で安心しました。エックスさん、ヴァジュラは無事ですか?」
「もちろん。死ぬ気で守りましたわ」
「よろしい。では脱出しましょう。ニアが我々の位置を特定し、外に出る通路も把握しつつあるようです」
少しだけ皆の緊張がほぐれたような空気が流れた。
「ただ、ここを出てもワクソーム城の攻略が待っています。気を抜かないように」
全員が頷くとフィオナが歩き出した。
「こっちです。早く脱出して、この戦争を終わらせましょう」
どうやら、長かったアッシアとの戦争も終わりが近付いているようだ……。




