【皇颯斗と岩豪鉄次】
「どうだ、お前の新しい家は。けっこう良い感じだろう」
練習が終わり、
三枝木さんへの挨拶が終わった後、セレッソに連れられ、新居へ向かった。
間取りは1LDK。
トイレと風呂は別。
駅は近いし、コンビニも徒歩三分以内という好条件。
しかも、一通りの家具と電化製品が揃っていた。
「す、凄いな。いつの間に、これだけのものを揃えていたんだ? っていうか、お金は? 家賃だって払えないぞ、僕は」
「安心しろ。私はこの国の守護女神だぞ。この国に私の銅像がどれだけあると思っているんだ。金くらい、どうにでもなる」
セレッソは無表情だが、やや得意気な顔をしている。
「さらに言えば、この国にとってお前は未来の英雄だぞ? これくらいの投資、当然だ。ちなみに、私は隣の部屋を借りているから、何かあったらすぐに報告しに来い」
二部屋も借りている、ということか。
本当にどこから金が出ているんだ?
どう見ても生意気な女にしか見えないセレッソだが、彼女は本当に女神なのだと思わせられる瞬間が時々ある。
金のことはもちろん気になったが、先に確認すべきことを思い出してしまった。
「そう言えば、さっきハナちゃんの前でセレッソって名前を出しちゃったけど、大丈夫だったか? まぁ、ハナちゃんも驚いている様子はなかったけど」
「ああ、問題ない。セレッソという名前はこの国では珍しくないからな」
「そうなのか?」
「私が守護女神の国だから、多いのは当たり前だ。他にもセレーナ、セレイン、セレス、セレスティン……私にあやかった名前は少なくない。特に魔法使いや聖職者の子どもは、そういう名前が付けられる傾向になるな」
「凄いな。何か神様みたいだな」
「だから、女神なんだって」
そうか。
ついつい忘れてしまうが、
思い出しても一秒くらいで忘れてしまうが、
セレッソは本当に女神なんだった。
「それより、次の目標について話し合っておこうじゃないか」とセレッソ。
「あ、うん。そうだな」
異世界で家を手に入れて、そこがゴールではなかった。
「次、僕は何をすればいいんだ?」
「もちろん、アミレーンの暫定勇者決定戦を目指すことだが、いきなり現暫定勇者と戦うのは無理だ」
「確か、自分より上位のランカーを倒せば、評価が上がるんだよな? ハナちゃんの推薦で、僕は何位に入るんだ?」
「あくまで推薦枠だ。次、ランカーと戦って、改めて順位が決まる。恐らくは三週間後に対戦が組まれるだろう」
「さ、三週間後?」
早過ぎやしないか?
手加減と油断してくれているハナちゃんに一発入れるだけで、一ヵ月もかかったのに。
「だって、次は蹴りもタックルもある、ガチンコ勝負だろ? そんな短い期間で準備できるのか?」
「準備できなければ困るな」
「ひ、ひとごとのように」
「ひとごとではない。お前が勇者にならなければ、世界が滅びるんだ。真面目な話、急がなければ間に合わないんだよ」
表情の少ないセレッソだが、真剣に言っていることが分かる。
「間に合わないって、何に?」
「近々、現暫定勇者の防衛戦がある。そこで暫定勇者が勝てば、二度の防衛に成功したことになってしまう」
確か勇者になるためは、
暫定勇者として三回の防衛戦をクリアする必要があるって話だ。
「つまり、そのあとすぐに挑戦者が決まったら、僕にチャンスがなくなってしまう、ってことか」
「そういうことだ。挑戦者が勝てば、防衛回数はリセット。お前にチャンスが巡ってくる可能性もあるが、それは考えるべきではない」
「どうして?」
「暫定勇者、皇颯斗が強すぎるからな」
「皇颯斗……」
なんだか、
名前からして強そうじゃないか。格闘漫画の主人公っぽいし。
「さらに言うとだな」
セレッソはどこからかスマホを取り出し、何やら操作して画面を僕に見せた。
そこには、一人の男の顔面が映し出されていた。
「い、い、イケメン……じゃねぇか」
何て言うか、
完全にアイドルグループでも真ん中に立つようなタイプの顔立ちだ。
「そういうことだ。通常、三度の防衛戦を勝ち抜いても、ランカー内に暫定勇者と互角と思われる人間がいれば、四回目が行われることもある。しかし、皇颯斗に関しては四回目がない、と私は踏んでいる」
「イケメンだから……か?」
「うむ。しかも、こいつの両親は第一次オクト・アッシア戦争で活躍した勇者と魔法使い。つまりは、英雄と英雄の間に生まれた子供ってわけだ。そんなストーリーもあって、顔も良いから、この国の誰もが皇の勇者決定を望んでいる、ってわけだ」
そういうことか。
この世界もやっぱり顔か。
顔がいいやつが優遇されるってわけだな。
これは許せねぇ。
「だからこそ」
セレッソは密かに闘志を燃やす僕に人差し指を向けた。
「お前は次、上位のランカーにインパクトある倒し方で勝って、皇颯斗に対戦要求しなければならない」
「インパクトのある勝ち方……ってなんだ?」
「派手なパンチでばっこーん!って感じだろ」
「ばっこーん……って、わかんねーよ」
表現がアバウト過ぎる。
「なら、その辺は宗次に聞け。それよりも、皇に対戦要求するために、ちょうどいい相手を調査しておいた。こいつだ」
セレッソは再びスマホを操作してから、僕に画面を見せた。
「な、なんだこのおっさん……。めちゃくちゃ強そうじゃないか」
そこに映っていたのは、
三十代くらいのごっつくて体毛が濃そうな男だった。
「おっさんではない。お前と同い年だ」
「え、嘘だろ! この貫禄、下手すれば三枝木さんより年上に見えるぞ!」
セレッソは一度スマホの画面を確認し、僕の発言に共感したのか、笑った…ように見えた。
何とも珍しい表情だ。
が、そんなことはなかったように、セレッソはスマホの画面に映るおっさんについて説明を始めた。
「こいつは岩豪鉄次。現在、ランキング三位のランカーだ」
名前もそのまんまだな。
「しかも、都合のいいことに、こいつは唯一皇に黒星を付けた男だ」
「そりゃ、こいつの方が強そうだから、驚かねぇよ」
「まぁ、聞け。無敗で勇者の座を獲得しつつあった皇を、こいつが倒してくれたおかげで、現在もアミレーンの勇者が決まっていない状態なんだ。その後、すぐに皇のリベンジを許したものの、当時は奇跡の番狂わせとまで言われたんだぞ。少しは感謝してやれ。いや、感謝を込めて倒してやれ」
「こんなやばそうなやつに、僕が勝てるのか……?」
「勝ってもらわないと困る」
「またそれか……」
「ただし、こいつがお前の挑戦を受けてくれるとは限らない」
セレッソの補足に少しだけ安堵する。
そして、もう少し弱そうなやつと戦う選択肢があるのではないか、と期待したのだが……。
「限らないのだが、お前は本当に運が良いぞ、誠」
「……何か嫌な予感しかないが、一応どういう意味か聞いておこう」
「岩豪鉄次はお前と同じクラスだ。あと、皇颯斗もな」
ま、まじかよ……。
こんな怖そうなやつが同じクラス絶対にいじめられるじゃねぇか。
「つまり、次のお前のミッションは……岩豪鉄次がお前の挑戦を受けたくなるよう、スクールにいる間は四六時中、こいつのことを挑発することだ」
……既に分かり切っていることではあるが、
この女神様は本当に無理難題ばかりを仰るのであった。
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