【異世界にきたはずが思っていたのと違った】
女勇者の強烈なボディブローを受ける、二十四時間前。
僕は異世界にやってきた。
やってきたはずだ。
「目を覚ましたか?」
翡翠色の髪をした少女が、無表情に僕の顔を覗き込んでいた。
どうやら気を失っていたらしいが、
女神を名乗るこの少女に、異世界行きを誘われていたのだ、と思い出す。
横になっている僕を見下ろして、彼女は言った。
「いや、お前にとってはこっちの方が夢の世界なのかもしれないな」
女神の微笑みは、どこか悪魔的で、明らかに皮肉が入っていた。それは受け流すとして、とにかく僕は異世界に到着したらしい。
「異世界に、着いたのか?」と僕が確認すると、女神が身を退いた。
僕の視界から女神の姿が消えると、青々とした空が広がる。ここは公園のような場所なのだろうか。硬いベンチみたいなところで眠っていたらしい。
僕は身を起こして、意識をはっきりさせるため、頭を左右に振ってから顔を上げた。
「さて、異世界とはどんなものか」
霞んだ視界が回復するのを待ちながら、僕は異世界の風景に期待を膨らませた。
異世界と言えば、中世ヨーロッパ風の風景がお決まりだ。例えば、RPGでスタート地点に設定されているような平和な村。もしくは城塞都市や天空都市のように、現実の世界ではお目にかかることがない風景。
そんなものを期待しながら、僕は眼前に広がる世界を見渡したのだが……。
「……ん?」
まず目に入ったのは、右へ左へと忙しなく歩く人々。彼らは普通にスーツ姿の大人だったり、大学生風のパーカーを着た兄ちゃんだったり、僕と同世代と思われる子供たちは通学中なのか、制服姿だった。
なるほどなるほど、と僕は呟く。
「服装に関しては、僕が暮らしていた世界と、あまり変わらないらしい」
と、逸る気持ちを落ち着かせながら感想を述べつつ、改めて辺りを見回す。きっと、建物は異世界らしさに溢れているはず。例えば、石材や木材で作られた家ばかりで、道には馬車なんかが走っている。そうに違いない。
だって、ここは異世界なのだから!
「って、期待していたのに、タクシー走ってるじゃねぇか!」
僕の目の前を、黒いボディに行灯を乗せた車が走り抜けた。そして、その向こうには鉄筋コンクリートのビル群。しかも、正面に立っているビルは、大型の街灯ビジョンが設置されていて、アナウンサーらしき女性がニュースを読んでいた。
「おの、女神さん?」
混乱する俺の横で、黙っている女神を見る。彼女は何事もないような顔で「なんだ?」と首を傾げた。
「もしかして、異世界へワープするの、失敗した?」
「いや、大成功だが?」
平然と答える女神。俺の中で不信感が爆発した。
「嘘吐くな。どう見ても異世界じゃなくて現実世界だろ。っていうか、ここ新宿だろうが。田舎者だと思ってなめんなよ? テレビで見たことくらいあるんだよ」
詰め寄る僕に女神は言う。
「落ち着け、よく見ろ。確かに、お前が住んでいた世界によく似ているかもしれないが、微妙に違う。ここは、そういう世界だ」
僕は女神に言われるまま、この世界をもう一度見渡してみたが、東京なら珍しくない都会の風景だ。
「そっちじゃない。ほら、例えば…あの女はどうだ?」
女神が指をさす方向へ目をやると、そこには珍しい格好の女性がいた。魔法使いです!と主張するようなローブ姿。ほかにも勇者が持つような長剣を背負う男の人もいるではないか。
「お、おおお……」
「信じたか?」
得意気に確認してくる女神。確かに異世界っぽいが……。
「いやいや、今日はコスプレ大会なのかもしれない。人気アニメのイベントか何かがあるんだろ! 都会の人はイベントとあれば抵抗なくコスプレして街を練り歩くと聞いているぞ!」
声を荒げる僕に、女神は溜め息を吐いた。
「疑い深いな。そういう捻くれた性格だから、学校で嫌われていたんだぞ」
「嫌われていない。感覚が合わない人たちが大多数だっただけだ」
嫌な記憶を抑え込むため、僕は腕を組んで目を閉じた。女神は呆れたように、もう一度溜め息を吐く。
「じゃあ、お前の世界にはなかった、とっておきの異世界らしいものを見せてやる。それで信用しないのなら、もう元の世界に帰すしかない。説得するのも、面倒だからな」
と言って女神が歩き出したので、僕はそれに従った。
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