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【すべての初めては私に】

「無理しないで、ちゃんと休むように」


「うん、フィオナも」


僕は右へ。フィオナは左へ。

それぞれの目的地へ向かうはずだったが、僕はすぐに足を止めて振り返った。


フィオナの姿が見えなくなったことを確認してから、僕は今まで呼吸を我慢してみたいに、大きな息を吐いた。


「なんだよ、どういうことだ? フィオナのやつ、なんであんなこと聞いてくるんだ?? まさか、だよな。おいおい、誠。お前みたいなやつが、そんなわけ……」


「そんなわけないだろう、この一生童貞野郎」


「う、うわ……っ!! ……ふぅ、耐えたぜ。短い間に二度も食らうか」


「やるな。さすがは私が見込んだ最強の勇者だ」


どこから現れたのか。セレッソである。


「またお前らイチャイチャしてたのか?」


「ば、馬鹿! 変なことを言うな!」


ハナちゃんがいたら、どうするんだ!

辺りを見回すが、誰もいないようだ。


「じゃあ、何をぶつぶつ言っていた? 教えないと騒ぐぞ。綿谷華を探して、その前で騒いでやる」


「女神のくせに脅迫するな」


「よし、フィオナに言って艦内放送を使わせてもらおう」


「待て! 分かったよ、言うから! 言うから艦内アナウンスはやめろ……!」


できるだけ人気のないところを探して、先程の出来事を話す。


「なるほど、恋バナってやつだな」


セレッソは何が楽しいのか薄っすら笑みを浮かべる。からかわれる、と分かっていながらも、僕は気持ちが先走ってしまい、こんなことを相談してしまうのだった。


「それでさ、今まで告白されたことはあるのか、って聞かれたんだよ。ない、って答えたらフィオナのやつ、急にソワソワしだして……どういう意味だと思う? なぁ、どういう意味だと思う??」


「興奮するな。それで、本当にお前……今まで誰にも告白されたことないのか?」


「ねぇよ。僕みたいなモブ系男子が、女子にそんな目で見られることないだろ。でも、もしだぞ? もしフィオナに告白されてみろ。僕が初めて告白された相手は、異世界の王女様だぞ? そんな経験、僕の同級生の中で誰一人することないだろ」


「なんか早口で気持ち悪いぞ」


「うるさいな。で、お前はどう思うんだ? フィオナのやつ、そういう意味で言ったと思うか? 真面目に相談しているんだから、ちゃんと答えろよ」


しかし、セレッソは口を一文字に結んだ状態で、僕をじっと見つめる。


「な、なんだよ」


思わぬ反応に動揺する僕だったが、無言の状態が数秒続いた後、セレッソは急に呆れかえったように溜め息を吐くのだった。


「そんなことよりだな、誠。重要な話がある。よく聞け」


「重要な話? 急だな」


「重要な出来事はいつだって急にやってくる。ほれ、耳を貸せ」


「わざわざヒソヒソ話しする必要、あるのか?」


と言いながら、僕は耳を傾けてみると、セレッソは口元を近付け――。


「愛しているぞ、誠。私と付き合え」


「!?」


囁きが稲妻のように、耳から脳へ駆け抜け、僕は飛び退くようにセレッソから体を離した。


「おおおおおお、おおお、お前、どういうつもりだ?」


必要以上に目をパチパチする僕を見つめるセレッソ。


なんだよ、その目。

まさか……本気なのか?


しかし、次の瞬間には吹き出すようにセレッソは笑い出す。


「どういうつもりも何も、お前が浮かれに浮かれているから、何となくムカついてな」


「へっ?」


ケラケラと笑われ、僕の顔は怒りに引きつる。


「腹いせに人の初コクられを奪うな!」


とは言え、少し気まずい。

告白された後って、どんな顔すればいいんだよ。


……って言うか、前もこんなことあったよな??


「そろそろ決戦だ。色めきだつ余裕があるなら、もっと気合を入れておけ」


「わ、分かっているよ」


どんな顔をすべきなのか、一人でどぎまぎする僕を鼻で笑うと、セレッソは立ち去ってしまった。




皇の葬式が近付いたある日、少し時間が空いたのでニアの様子を見に行くことにした。相変わらず、三つのモニターの前にキーボードを三つ並べ、それを激しく叩くニアは、まともに食事も睡眠も取っていないようだ。


「ニア、ご飯食べた?」


声をかけるとニアは振り返ったが……


目が白黒と点滅しているじゃないか!!


「ちょ、大丈夫??」


「皇さんのお葬式に使う映像、編集終わりましたぁ。でも、流石に限界です~。もうダメなので三十分後に起こしてください~」


そう言って、ニアはその場に倒れ込もうとする。


「危ないって!」


何とかその体を支えるが、既に意識を失っているようだ。


すぅすぅ、と寝息を立てるニア。

当たり前だが、かなり疲れが溜まっているらしい。


「ど、どうしよう……」


ニアの作業部屋にはベッドはない。たぶん、自室とは別なのだろう。かと言って、床に寝かせるわけにはいかないし……。


「うにゃうにゃ……」


迷っているうちに、ニアが体勢を変えて、僕の膝を枕にしてしまう。これじゃあ、動けないぞ。


「ふえー。誠さん、例のやつ完成しましたよー。褒めてくださいー」


寝言か。

何が完成したのか分からないけれど、ニアが一仕事を終えた後には、めちゃくちゃ褒めてあげないと。


僕は彼女を起こさないようにメガネを外してあげて、何とか腕を伸ばしてそれを机に置くが……それが終わるとやることがない。三十分経つまで、この姿勢をキープするしかないのだけれど……。


メガネを外したニアの寝顔は本当に安らかで、なんだが僕も気持ちが軽くなったような気がした、




そんなこともありながら、皇の葬式は開催され、オクトでは収録した映像がゴールデンタイムに流されたそうだ。

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[良い点] すごく良い、一気読みしてしまった
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