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【刑事ドラマのようにはいかないぜ】

ガラス窓の向こう、殺風景な部屋にリリさんは座っていた。これ、刑事ドラマで見たことある。取調室ってやつだ。たぶん、正面の窓ガラスはマジックミラーになっていて、リリさんには僕の姿は見えないのだろう。フィオナは言う。


「一時間前に、貴方の名前を出したっきり、ずっとこのまま」


虚ろな目をテーブルに向け、ずっと動かないリリさん。なんで僕の名前を出したのか、まったく想像できなかった。フィオナは説明を続ける。


「イロモアでブライアを逃がしてから、その足取りはつかめていない。恐らくだけど、私たちの邪魔をするため、どこかで機会を狙っているはずよ。もしかしたら、彼女はあいつが何をするか、知っているのかもしれないから、それを聞いてみて」


「わ、分かった」


とは言うものの、取り調べなんてしたことないし、どういうテンションで行けばいいのかな……?


「失礼しまーす……」


中に入ると、リリさんがわずかに動いた、ような気がした。


「お久しぶりです。な、何だか僕のこと、呼んでいただいたみたいで……」


リリさんの向かいに置かれた椅子に腰を下ろしながら、声をかけるが反応はない。


「その、元気でした? オクトにいると思っていたので、びっくりしました」


やはり、反応はない。

……き、気まずいじゃないか。


「それにしても、アッシアは寒いですね。リリさん、暖かい部屋で寝れてます? もし、寒かったら言ってください。暖房強くしてもらえるよう、僕から言いますので!」


「……」


「ちゃんと食べれてます? 体、どこか悪いところはありませんか? あ、高速鉄道で思いっきり殴っちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」


「……」


「えーっと……」


この無反応っぷり、どうすれば良いんだ……?


本題に入っていいの?

でも、なんか凄いがっついている感じがして嫌だなぁ。


とは言え、何を話せばいいんだ。


わっかんねー!


そうだ、リリさんとの出会いって、どんな感じだったっけ。


「そういえば、一緒に鳥を埋めましたね……」


リリさんと出会ったのは、オクト城の庭だった。彼女は死んでしまった鳥を、大事そうに両手で抱えていたのである。


「王都の方は寒いのかな。あの鳥、もう少し日の当たるところに埋めてやれば良かったかもしれないですね」


この際、リリさんの反応は気にしないことにした。


「あと、メメさんのこと、すみません……」


メメさんは、リリさんの姉だ。

リリさんと同じでブライアの侍女であり、フィオナ暗殺未遂、その実行犯の一人だったけど、僕の目の前で死んでしまったのだ。


「僕、彼女のすぐ傍にいたんです。だけど、自分で毒を飲んで。それで……」


あのときのことは、忘れられない。

僕のすぐ傍で前で血を吐き、目を見開いて……こっちを見ていた。


「最後の最後に、リリさんのこと、心配していました。たぶん、メメさんはそれをリリさんに伝えたかったんだと、思います……。よかった、伝えられて」


今思うと、あのときから戦争は始まっていたんだ。それまでは、僕は何だかんだ異世界を楽しんでいたような気がする。つらいこともあったけど、目標に向かって頑張るのは充実していたし、報われる瞬間だってあった。


だけど、今は戦って、仲間も敵も死んでばかり。勝ち進んではいるけれど、後味が悪いことばかりだ。アリーサさんだって……。そんなことを思うと、勝手に涙が溢れてきた。


「ご、ごめんなさい。よかった、とか言って……。何も、よくないですよね」


目をこすりながら顔を上げる。無反応のままだろうリリさんのことを想像すると、恥ずかしかったが、彼女は俯いたまま、静かに涙を流していた。


「リリさん……?」


すると、彼女は顔を上げ、僕を見つめていた。


「勇者様」


「え? あ、はい」


「姉を看取ってくださり、ありがとうございました」


看取るなんて、そんな……。

だって、僕はあのとき、メメさんが動けないように拘束してたのだから。


「どんな状況であれ、姉は最期に勇者様と言葉を交わせて、嬉しかったのだと思います」


「そ、そうでしょうか」


「はい」


そこから、リリさんは泣き続けた。僕ももらい泣きをしてしまい、二人でティッシュも何枚も消費してしまった。しばらくして、リリさんは言った。


「フィオナ様を呼んでいただけないでしょうか。お伝えしたいことがあります」


「わ、分かりました!」


ここの会話はマジックミラーの向こうにいるフィオナにも聞こえているが、きっとリリさんは直接話したいのだろう。


僕が取調室を出てフィオナを呼ぶと、周りは直接対面すべきではない、と反対した。当然のことだが、最終的にはフィオナが


「勇者が一人同席するのですから問題ありません」


と言って、取調室に入って、直接リリさんと話すことになったのだった。


「これまでのこと、お詫びすることもできません。お伝えできることをすべてお伝えした後、この命は如何様にも」


「前置きは結構です。本題を」


凄い嫌なピリピリした雰囲気。

命を狙った方と狙われた方が同席しているのだから、仕方のないことだけど……。


って言うか、この取り調べが終わったら、リリさんはどうなっちゃうんだ??


「ブライア様の計画の一部を聞いています。このまま、魔王のいるワクソーム城に向かえば、オクトは全滅です」


「どのような計画か?」


「ヴァジュラです」


「なんですって?」


フィオナが目を細める。

フィオナが緊張感を高めるほど、とんでもないワードらしいけど……


ばじゅら、ってなんだ?


「ブライア様はヴァジュラを持ち出し、決戦に備えています。あの方のことです。躊躇うことなく、ヴァジュラを使ってオクトを退けるつもりでしょう」


「……秘匿通信の準備を。アインス博士にヴァジュラを確認するように伝えなさい」


どうやら、フィオナはマジックミラーの向こうで取り調べの様子を見ている部下に指示を出したようだ。フィオナはリリさんに質問を続ける。


「で、ブライアはどこに?」


「場所は知っています。ヴァジュラもそこにあるはずです」


深刻な雰囲気だが、何が何だか分からない僕は、質問せずにはいられなかった。


「ばじゅら、って何なんだ……?」


フィオナは答える。


「禁断術に指定された、大量破壊兵器よ。一発で何百何千の人間だって薙ぎ払うような、とんでもないものなの。ブライアのやつ、あれを使うつもりなんて正気じゃないわ」

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