表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/347

【隕石が落ちた世界で】

ハナちゃんのキックで失神した次の日、僕は三枝木さんの指導を受けていたが、少し一息ついているとセレッソに呼び出された。



「お前に見せておきたいものがある」


「なんだよ。嫌な予感がするな……」



セレッソは僕を最初に来た街……あの新宿によく似た街へ連れ出した。



「ここには、この世界の歪みの大本とも言える存在がある」


「歪みの大本?」


「ああ。本当は初日に見せるつもりだったが、いろいろと邪魔が入ったからな」



初日と言えばサラリーマンが目の前でモンスターになったときだ。そういえば、セレッソは「この世界が異世界だと信じるとっておきを見ててやる」と言っていたような……。


大人しくセレッソについていくと、大通りの向こうに歓楽街のアーチが見えてきた。どうやら、その方面に向かっているようだが……。



「おい、セレッソ。あれ……危なくないか??」



僕は怪しく蛇行して走る車を見かける。そして、それはガードレールに衝突して停止し、多くの人だかりを作っていた。が、セレッソは関心がないらしく、横断歩道を渡って歓楽街へ入った。



「さっきの事故、原因はなんだったんだろう。酔っ払い運転かな」


「いや、そうじゃない」



セレッソは日常を語るように否定した。



「この街で、あのような事故は頻繁に起こる。人の意識に悪影響を及ぼす、とんでもない物体があるからな」


「人の意識に…?」


「そうだ。どうせ、あの運転手は安い護符を使っていたのだろう。とは言え、まともな護符は庶民に行き渡らないから、仕方のないことだがな」


「護符ってお守りみたいなものか?」



セレッソは答えず、ただ歓楽街の奥へ向かっていく。



「それにしても、派手な歓楽街だと思ったのに、かなり廃れているんだな」



僕は辺りを見ながら感想を漏らす。ここは新宿のような歓楽街で、たくさんの娯楽店が並んでいるようだったが、奥へ進むと建物があるばかりで人影がない。まるで、人々が逃げ出してしまった後のようだ。



「当然だ。あれがあるからな。ほら、目の前を見てみろ」



女神が指先を正面に向ける。それに従って視線を上げると、信じられない景色……いや、すべての景色が遮られていた。


それは巨大な壁た。



まるで、世界を区切るようにどこまでも続く壁。高さは、見上げると立ちくらみに襲われそうなほどだった。



「な、なんだこれ」


僕の声は少し震えていた。壁の存在に驚いたから、だけではない。この壁は、どこか不気味だった。壁が放つ異様な圧迫感に僕は委縮しているのだと思う。


「……いや、都会は大掛かりな工事が頻繁にあるんだよな?」



恐怖心を誤魔化すつもりで、自然とそんな冗談を口にしたが、声が震えてしまう。そんな僕を鼻で笑う女神は得意げに言うのだった。



「見せたかったのは、これじゃない」


「これより、やばいものが…あるのか?」



女神は何も言わず、悪魔のような微笑みを浮かべながら、また歩き出した。少しばかり壁沿いに移動すると、内部に入るためと思われる、ゲートらしい場所が現れる。何者かの侵入を防ぐためなのか、武装した迷彩服の男たちが何名か立っていた。



「おい、ここは立ち入り禁止だ。アトラの壁のことくらい、知っているだろう」



女神様が一緒なのだから顔パスだろう、と思っていたが、迷彩服の男に止められてしまう。しかし、女神が身分証らしきものを提示すると、彼らは困惑した様子で、僕たちを通すのだった。


やはり、女神の特権があるのか、と聞いてみたかったが、壁の内部は、そんな気持ちも失せてしまうほど、強烈な緊張感に包まれていた。


何度か階段を上り下りした後、一つの扉の前に辿り着く。その分厚い壁を、女神は体重を乗せて何とか開くと、と転がり込むように風が入り込んできた。どうやら、外に繋がっていたらしい。



「ここは……」



そこは、あの壁の上だった。落下防止と思われるフェンスの向こうに、新宿にそっくりな街が広がっている。僕がこの世界にやってきたときに目を覚ました駅前も、見下ろすことができた。



「そっちじゃない。こっちを見ろ」


「う、うん」



女神が見せたいものは、僕たちがさっき歩いてきた風景ではないことは、分かっていた。それでも、僕はそちら側を見ることを無意識に避けていた。


きっと、壁を見たとき感じたあの圧迫感の正体が、そこにあるような気がしていたからだと思う。



「なんだ、この馬鹿でかい穴は……」



そこに広がる風景は、まるで世界中の虚無を集めたような、巨大な穴だった。底は見えず、どこまで広がっているのか分からないほど、巨大な穴。僕はそれに得体のしれない恐怖心を抱くのだった。



「なんか気持ち悪い……」



僕は謎の大穴を見て、嫌な耳鳴りと吐き気、眩暈すら感じた。そんな僕の横でセレッソは大穴について説明する。



「アトラ隕石。千年前、この地に落ちた巨大隕石の跡だ。この大穴の下にやつはまだ眠っている」


「やつ……?」



混乱する僕にセレッソが振り向く。



「魔王を倒せ、と私は言ったな」



頷くと女神がわずかに微笑んだ。



「魔王は今のお前にとって、最初の目標でしかない。そうだな、お前が大好きなゲームで言うところの、ファーストステージのラスボスだ」


「ら、ラスボスじゃないのか?? 魔王って言ったら普通はラスボスだろ!?」



動揺する僕を見て、セレッソは楽しむようだった。



「違う。ラスボスはあれだ。このアトラ隕石こそ、お前が倒すべきラスボスなんだよ」


「ウソだろ、こんなのどうにもできない……」



何が恐ろしいのか。自分でも分からない。だけど、目の前の大穴はただ見ているだけで、そんな気持ちにさせる不気味かつ圧倒的な存在なのだ。



「あれを見て怯えるのは分かる。だが、安心しろ。お前は無敵の勇者になる男だ。地獄の入り口としか思えない、あの巨大な穴もいずれは解決し、英雄として人々に称えられるだろう。いや、それをできるのは、この私に選ばれたお前だけだ。神崎誠」



セレッソはそういうが、僕は改めて大穴を見て強い吐き気に襲われる。



「……本当にこんなものをどうにかできるのか? この僕が??」



とんでもない世界にやってきてしまった。しかし、そんな後悔はこの大穴とは関係なく、何度も何度も抱く感情だったなんて……まだ僕は知らないのだった。

「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、

ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。


好評だったら続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ