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【いつか平穏な日々がやってきたら】

十年後。

三枝木はセレッソと再会を果たし、彼女が連れていた少年を弟子として育てることになった。


ここはアスーカサのクラム。三枝木はその新しい弟子の練習風景を眺めていたが、何となく隣に座っているセレッソを見て、過去の戦いを思い出した。


「こうしてセレッソ様と話す日がやってくるなんて、何だか感慨深いですね」


「そうか? 感慨深くなるほど、昔の話ではないだろう」


「人間にとっては、十年は十分長いと思いますよ」


そんな会話に練習生の一人が割って入ってきた。


「ジェノさん、またカノジョさんから手紙ですよ」


練習生が差し出したのは、一枚のハガキ。それを見て、三枝木は苦笑いを浮かべる。


「ジェノはやめてね。あとカノジョって言うのもやめて」


すみません、と練習生は笑いながら立ち去り、三枝木はハガキを眺めた。穏やかな笑みを浮かべる三枝木に、セレッソは指摘する。


「カノジョって、お前……妻と子供がいるんだろ?」


「カノジョって言うのは、練習生たちが私をからかっているだけです。実際は、ただの友人ですよ。セレッソ様も会ったことある人物ですが、覚えているでしょうか?」


三枝木に渡されたハガキには、文字だけではなく、一組の男女の写真があった。


「こいつ……崩壊寸前の洞窟までお前を追いかけてきたアッシア兵じゃないか」


笑顔で頷く三枝木を見て、セレッソはハガキを返しながら溜め息を吐いた。


「どうやら、私が思っている以上に十年と言う月日は長いのだな」


「そういうことです」


そこから、しばらくは弟子の練習風景を眺める二人だったが、三枝木が何かを思いついたようだった。


「セレッソ様。そう言えば、なのですが……」


「なんだ?」


「今度、私の家にきませんか? 私の家族と一緒に食事でも」


想像以上に平凡な提案を、一蹴するように鼻を鳴らすセレッソ。


「どうして私がお前の家族に会わなければならんのだ。人見知りなんだよ、私は」


「子供は小さいので、人見知りどうこうってことはありませんよ。それに、妻もセレッソ様に会いたがると思います」


「……なんだって?」


「セレッソ様のことは国家機密でしょうから、まだ妻には伝えていないのですが。でも、ときどき二人であの頃の話をするんです。そのたびに、妻はセレッソ様の安否を気にして、祈りを捧げています。セレッソ様が無事で、再び会える日がやってくるように、と」


「待て待て。ちょっと待て。おいおい。もしかして、その妻と言うのは……?」


「あれ、言ってませんでしたか?」


首を傾げる三枝木。それに対しセレッソは顔を引き吊らせている。


「まさか、瀬礼朱か?」


「はい」


愕然の表情を見せるセレッソ。

瀬礼朱は数年前、ランキング戦で大変な活躍を見せたが、突然引退を表明。その理由は三枝木との結婚だったのだ。


「どうやら本当に、十年と言う月日は……」


セレッソは言いかけて、馬鹿らしいと思ったのか、続けることはなかった。


「でもお前、いいのか?」


セレッソは鋭い視線を三枝木に向ける。


「お前のカノジョとやらは、お前の妻にとって父親の仇だろ」


「カノジョはやめてください。……まぁ、一悶着はありましたよ。でも、今は理解してもらっています。それに、彼女も数年前に結婚していますから。しかも、自分の部下と」


それを聞いたセレッソは、口の中で呟く。


「いつだか誠が言っていた、ハーレム系主人公の素質というやつか。まさか宗次がそれを持っていたとはな……」


「なんですか?」


「いや、何でも」


会話は途切れたかと思ったが、三枝木が再び質問する。


「それで食事の件ですが、どうですか? よろしければ今週末の夜でも」


セレッソは腕を組んで黙り込んだが、その目は温かく、いつかの日々を懐かしむようだった。


「……いいや、やめておく」


しかし、彼女は誘いを断る。


「どうしてですか?」


「これを見ろ」


そう言ってセレッソは、耳にかかる自らの長髪を人差し指に絡める。


「あのときと見た目がまったく違う。声質も少し変わった。ほとんど別人だ」


十年前、セレッソの髪は攻撃的なピンク色だったが、今は深い翡翠の色だ。さらに、二十代中盤と思われた見た目も、十代後半から二十歳程度に変わっている。


「これでは、あいつは信じないだろう。貴方のような人は女神様ではない、とか言ってな」


三枝木は当時のやり取りを思い出して笑い出すが、首を横に振った。


「さすがに妻の性格も落ち着きましたよ。絶対に喜ぶと思うので、どうかお願いします」


妻を喜ばせたいのか、珍しくしつこい三枝木に眉を寄せるセレッソだったが、結論は変わることなかった。


「いや、今はやめておくよ」


「他にも、何か理由が?」


「私はまだやることがある。気は抜けない。気を抜くなんて許されない。許したくないんだよ、私自身が」


セレッソの目は、遠くを見ていた。いや、遠くを睨みつけていた。その先にある困難な道、自らの使命に挑むような、力強い視線だ。セレッソが背負う何か。その片鱗を感じた三枝木は苦笑いを浮かべつつ引き下がる。


「分かりました。では、本当に戦争が終わったときにでも、お願いします」


「戦争が終わって、その先に、本当の平和が訪れたら……約束してやってもいい」


「はい。楽しみにしています」


そこで、三枝木は弟子に呼ばれる。セレッソが連れてきた新しい弟子に。三枝木はセレッソの横を離れ、弟子に細かい技術の説明を始めた。


それを眺めながら、セレッソは一人呟くのだった。


「本当の平和か……。そんな日が本当に訪れるとしたら、な」

番外編 第一次オクト・アッシア戦争は以上となります。

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