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【きっと会える】

ただ、二人の戦いは語り継がれるようなものではなかった。


見守り、語り継ぐ意思を持ったものが存在しなかったことはもちろんだが、その戦いには、力も技術も、戦術もなければ、読み合いもない、ただの泥臭い殴り合いだったからだ。


連戦を重ね、さらに魔王による地獄の炎の中を生き残った二人に、残されたものは気持ちだけ。もはや、まともな戦闘を続けるだけの力は残っていなかった。


「早く倒れろ、オクト人!」


ダリアの右ストレートを左腕で受けた三枝木は、すぐに拳を返す。ダリアが躱したところに組み付き、足を払って倒した。


「そっちこそ、諦めてください!」


さらに顔面に向かって肘を落としたが、ダリアは寝返りでも打つような動作で何とか躱すと、重たい動作で立ち上がる。


何度精度の悪い打ち合いを繰り返しただろうか。二人は、相手も自分もこれ以上は動けないだろう、と察した。


「次の一撃で終わりにしてやるぞ、オクト人」


「同じことを考えていました。そろそろ終わりにしましょうか」


二人は吐息のような笑顔を交わし、最後の一撃に備えた。お互い腰を落とし、少しずつ距離を詰めていく。ダリアは右左に揺れながら、三枝木は上下に動きながら。そして、距離が詰まり、どちらが先に手を出すのか、緩慢な動きではあるが、緊張感が極限まで高まった。


先に動いたのは、ダリアだった。


左の拳を軽く突き出したかと思うと、深く踏み込みつつ、右の拳が突き出される。ここまで限界近い状態で動いていたとは思えないほどのスピードだ。


その一撃は三枝木の顎を捉える。

三枝木の膝が崩れるように折れ、そのまま後ろへ倒れた。


意識を断った、と判断したダリアは、三枝木に命を絶つため、さらに踏み込む。が、そのまま倒れると思われた三枝木が、急にスピードを取り戻し、低い姿勢からタックルでダリアの腰に組み付いてきた。


「まさか、効いてなかったのか!」


ダリアは叫びながら、三枝木に倒される。そして、抵抗の弱いダリアの腕を取った。


「容赦はしません!」


そして、三枝木は最後の力を振り絞り、ダリアの腕を折る。


ダリアの絶叫。

そして、確かな手応えもあった。


三枝木はゆっくりとダリアから離れ、立ち上がる。ダリアを見下ろし、再び立ってくるのを待ったが、彼女は白目を向き、意識を失っているようだった。


息を切らしながら、三枝木は顔を上げる。そこには船の上から戦いを見守っていただろうイワンの姿が。


「貴方を捕えれば……戦争は終わる。いや、世界から争いが、なくなる」


アッシアによる各国への侵攻。それが始まるまで、戦争と言える戦争はなかった、らしい。そして、その侵攻はこの男が仕掛けた、と言う話ではないか。だとしたら……。


三枝木は船に飛び乗ろうと、腰を落とした。しかし――。


「ま、まだだ……。まだ私は……」


失神していたはずのダリアが目を覚まし、三枝木の足首を掴んでいた。ただ、力は限りなく弱い。三枝木ならば簡単に振り払えるだろう。三枝木は強引に足を引き抜こうとしたが……。


ドンッ、と音を立て、何かが……三枝木よりも先に、船に飛び乗った。それが何者か確認しようとしたが、イワンよりも奥に立っているらしく、三枝木の位置からは、見えなかった。


「ま、魔王様……?」


無感情だったイワンがやや動揺した調子の声を漏らす。


「女神セレッソが? ……分かりました。お願いします」


どんな会話があったのか。

それも分からないが、再びドンッという音が聞こえたかと思うと、イワンの姿が宙へ消えて行った。


……どうやら、撤退したらしい。姿こそ見えなかったが魔王が戻り、イワンを連れ去ったようだ。下手をすれば、殺されていたかもしれない。


「セレッソ様のおかげ……?」


わずかに聞こえたイワンと魔王の会話から考えると、それが自然だろう。




魔王とイワンが消えてしまうと、あれだけ勢いがあった炎が、すべて消えていた。

あれだけの大惨事……いや、地獄が終わりを告げるにしては、あまりにあっけないものだった。だが、生き残ったことは確かだ。それが、すべてではないか。


三枝木はダリアを担ぎ上げ、歩き出した。お互い、もう少し体を休められる場所があるはずだ。


「……何をしている?」


ダリアが目を覚ました。


「戦いは終わったようなので、少し休みましょう。この状況なら、敵も味方も……ないでしょう」


「……」


ダリアは答えなかったが、すすり泣くような音が聞こえてきた。


「私のことなど、捨てていけ」


「どうして……?」


「生きる意味を失った。イワン様に捨てられたのだから、生きている必要なんてない」


好きなものを失った。

その痛みは、三枝木にも理解できる。


それは三枝木が過去に経験した甘酸っぱい恋愛もそうだが、それだけではないだろう。追い求めていた勇者という夢。それが、自分が描いていたものとは違ったと気付いた瞬間。確かに、生きる価値などない、と思ったものだ。


「だけど、生きていた方が、絶対に得ですよ。また、好きなものに会える。もしかしたら、好きな人だって……」


「……私を生かしてくれる、誰かが現れるか?」


「はい。きっと、出会えます」


「……例えば、お前はどうだ?」


「……え?」


「私はお前と出会った。それが、生きる意味になると思うか?」


「えっと、それは……?」


困惑する三枝木だったが、ダリアは黙り込んでしまった。まさか、と思ったが、寝息を耳にして安心する。




破壊された攻撃拠点。

そこにも焼け焦げた死骸がいくつもあったが、唯一難を逃れたソファが。三枝木はダリアをそこに寝かすと、限界がきてしまったのか、意識を失ってしまう。


「三枝木さん。三枝木さん!!」


悲鳴に近い調子で、誰かが自分を呼んでいる。三枝木が何とか瞼を持ち上げると、そこには……。


「あれ、瀬礼朱さん……?」


「よかった……。よかった!!」


不安げに自分を覗き込む瀬礼朱と、安心したように息を吐く馬部の姿が。そして、瀬礼朱は三枝木を抱きしめると、子供のように泣きじゃくった。


「よかった、二人とも無事で」


そう言いながら、三枝木はダリアが横になっているはずのソファを見た。しかし、彼女の姿はどこにもなかった。

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