表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

175/347

【迫る悪意】

「上に撤退を進言しましたが、やはり聞いてもらえませんでした……」


戻ってきた三枝木の表情は、上司に企画を一刀両断されてしまったサラリーマン、そのものだ。


瀬礼朱も肩を落とし、溜め息を吐く。そんな二人の様子を見て、詳しい状況を理解していない馬部は首を傾げた。


数秒ほど沈黙が続いたが、三枝木が穏やかな笑顔を見せた。


「二人にお願いがあります」


「なんですか?」


瀬礼朱も馬部も、三枝木に対して絶大な信頼を向けている。だから、少しくらい無理な命令であっても、それを実行したいと考えていた。三枝木は言う。


「今回、私は別行動をとります」


「えええ? 三人で戦わない、ってことですか?」


「はい。瀬礼朱さんと馬部くんは、できるだけ拠点周辺の敵をかく乱してください。私は一人で、攻撃拠点の中に潜入します」


「ひ、一人でですか?」


「はい。潜入して、攻撃拠点の中心部にこれを仕掛けます」


それは、魔力圧縮爆弾だった。


「そんなもの……どこで?」


瀬礼朱の質問に、三枝木は苦笑いを浮かべた。


「先ほど、上から渡されました。撤退を進言するくらいなら、これを使って攻撃拠点を破壊してみろ、と」


「そんな無茶な!」


「あの、さっきから撤退撤退って、何があったんですか?」


馬部が遠慮がちな表情で会話に入るが、瀬礼朱がそれを耳に入れなかった。


「一人で行くなんて危険すぎます。せめて三人で潜入しましょう!」


「人数が増えれば、その分だけ見付かるリスクも高くなる。ここは、私一人に行かせてください」


「だけど――!」


反対意見に力が入りつつある瀬礼朱だったが、三枝木は遮る。


「瀬礼朱さん、時間がありません。ここは私を信じて、任せてもらえないでしょうか?」


これまでにない真剣な表情に、瀬礼朱も言葉がなかった。


「……分かりました、三枝木さん」


ただ、これだけは約束してほしい。


「絶対無事で戻ってきてくださいよ」


「もちろんです。二人も無理はせず、怪我なく戦いを終わらせることだけに集中してくださいね」


瀬礼朱は頷く。

馬部は二人が何を話しているのか理解できず、改めて質問しようと口を開きかけたが、その腕を瀬礼朱に引っ張られてしまう。


「行くよ、馬部くん。私たちが、できるだけ多くの敵を引き付けるんだから!」


「せ、瀬礼朱さん? ちょっと待ってください。どういうことですか??」


二人の背中を見送った三枝木は、攻撃拠点の裏口の方へ駆け出すのだった。




「おい、ウスマン。あれを見ろ!」


攻めてくるオクトの戦士たちを、攻撃拠点の司令室でモニター越しに眺めるダリア。何かを発見したのか、興奮気味にモニターを指さす。


「なんですか?」


ウスマンが首を伸ばしてモニターを凝視すると、二人のオクト人が。だが、ウスマンの記憶に該当する人物はいなかった。


「誰です? 知り合いですか?」


「馬鹿!」


頭を引っぱたかれるウスマン。


「あいつだ。あの、白い勇者の仲間だ」


白い勇者?

今度は記憶と一致するものがあった。二度も姉さんを撃退した、というオクトの勇者か。それなら一瞬だけ顔を見たが、その仲間までは知らない。


「この二人が来ている、ということは、やつも来ているはずだ! 出撃する!」


「ダメですよ、姉さん! 姉さんはイワン様からここの司令官を命じられているんですよ。司令官が指揮を放棄して真っ先に飛び出しちゃ、戦いになりませんよ」


「知るか! 私はあの勇者を殺すんだ!」


完全に冷静さを失っている。どうしたものか、とウスマンは考えた。


「あ、姉さんがここで出撃したら、イワン様に言いつけますよ?」


「な、なんだと?」


「嫌なら落ち着いて。ほら、薬も飲まないといけない時間だ」


渡された薬を飲み込み、少しだけ冷静になるダリア。だが、その冷静さが悪い方向に動いてしまう。


「ウスマン。私はお前を信じている。本当は良い兵士に……いや、良い男になる、と」


「な、なんですか急に」


「ここで見せてくれ。お前が司令官として、この拠点を指揮し、守り切ってみせるところを。そしたら、私は……」


「わ、私は……?」


「これからは、お前を尊敬すべき男として接するつもりだ」


「尊敬すべき、男……」


ウスマンは数秒考える。

だが、決断に至るまでは一瞬だった。


「任せてください、姉さん! このウスマン、死んでも拠点を守り切ります!」




セレッソは既にオクトの地から離れ、海の上空を飛んでいた。思ったより、魔王は遠くにいるようだ、と少しだけ安心する。


が、それは確かにオクトを目指して進んでいた。


「いる。お前を感じるぞ、ソール!」


セレッソが普通の人間と同じ視力だったとしても、見える距離にアッシアの船が。セレッソは加速して、瞬時に船の真上へ。


「この真下なら……人間はいないな」


セレッソは安全を確認した後、一気に急降下する。そして、船の天井を踏み破り、艦橋に着陸した。


「やつは……どこだ?」


辺りを見回すセレッソ。

その視界にほとんど人はいなかった。


「ようこそ、オクトの守護女神……セレッソ様」


「ん?」


声の方に振り向くと、無表情の男が。


「私はイワン。イワン・ソロヴィエフ。魔王様に使えるものです」


「……ソールはどこだ?」


「その前に、魔王様からの伝言があります。しばらくは、そこで大人しく待っていろ。私は千年待たされた、と」


「なに?」


気付けばイワンは何かしらのスイッチを握っていた。そして、彼が親指でそれを押し込むと、セレッソの足元が輝きだす。


嫌な予感に空へ向かって飛び出すセレッソだったが、その光は彼女を追うように伸び上がった。


「これは……」


セレッソは光に包まれていた。

頭上までしっかりと光に覆われ、まるで巨大な試験管の中に捕らわれた状態だ。


「セレッソ様。私と魔王様は先にオクトへ向かいます。ここ一か月、戦い続けていたのでしょう? 少しは休むといい」


セレッソは自らを覆う光の壁を全力で殴り付ける。が、まるで手応えがない。


セレッソのパワーをもってして破壊できない光。これは禁断術と呼ばれるものに間違いなかった。


「千年前、全部破壊したつもりだったが。こんなもの、まだ残っていたのか……」


セレッソは気付く。

足元に広がる海の上を、小さな船が進む姿を。


そして、その船首に人影。


「……ソール!」


セレッソと魔王の視線が交錯する。

そして、捕らわれたセレッソを見て、魔王は嘲るように口の端を釣り上げた。


すると、小舟が加速して、オクトの最北端カザモへ向かう。守護女神が不在のオクトの地に、魔王が迫るのだった。

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ