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【世界平和よりも大事なもの】

決戦当日。

僕はアボナダタークにある、あのクラムの前に立っていた。


右には三枝木さん。

左にはセレッソ。


二人は僕に勇気を与えるように、頷きかけた。まるで、この世界の未来を託すように。


三日前の夜、セレッソは言った。


「誠、宗次。念のため、私のことは黙っておけ。私の存在が魔王に伝わることがあれば、対策される恐れがある。やつを確実に倒すためには、最後の最後まで私のことは隠さなければならない。そして、オクトの切り札を……誠を最強の勇者に育てる必要がある。宗次、お前がこの世界を愛しているのなら、誠を育ててやってくれ」


同じ日の夜、三枝木さんは言った。


「戦争は最悪です。あれを次の世代に残してはならない。魔王を倒して、戦争を終わらせる。そのためなら、私は何でもやります。セレッソ様の言うことが本当なら、私は貴方にすべてを賭けたい。貴方にとって、それが重荷になることは承知です。しかし、どうか私にもサポートさせてほしい。この世界の平和のためにも」


二人はこの世界の行く末を心の底から心配しているみたいだった。


そして、明るい未来をもたらすためには、僕が勇者にならなければならない、らしい。そのためなら、二人はどんな手段だろうが使って見せる、という顔をしていた。


でも、そんなことは、どうでも良い。


僕がこの一ヵ月、地獄のトレーニングに励んだ目的は、


あくまでハナちゃんとデートして、ファーストキスをもらうこと……。


遠くで起こっているような戦争の話よりも、僕にとってはそれが大事なことなんだ!


「セレッソ、三枝木さん。僕、絶対に勝ちます」


心の内にある闘志を、二人に向けて口にした。


「期待しているぞ、誠」


「神崎くんなら、勝てるはずです。いえ、勝ちます」


僕たちは、心の底にある信念こそ違うようだったが、その熱意は殆ど同じようだった。この一体感があれば勝てる。僕はそう確信していた。


「道場破りだ!」


一ヵ月前、セレッソが叫んだその言葉を、今度は僕が口にして、クラムの扉を開いた。中にいる人々は、あのときよりも少し多い気がする。


「あ、あのときのウンチくん」


「うわぁー、本当に来たんだ。逆に尊敬するかも」


「なんか話に聞いた通りって言うか、弱そうな子だな」


囁き合うような笑い声が、僕を包囲しているみたいだった。どうやら、一ヵ月前にどんな間抜けがきたのか見たくて、わざわざやってきた人も少なくないらしい。


彼らの視線にどういう意味が込められているのか。


普段の僕なら、それを考えただけで赤面して、この場から逃げ出していたかもしれない。


しかし、今はそんな視線もどうでもよかった。


それよりも大事なものが、この先にあるのだから!


「待ってましたよ、神崎くんに三枝木さん。いやー、まかさ二人がタッグを組むとは」


出迎えたのは、あのときと同じ。

下畑さんだ。


対応してくれたのは三枝木さんだ。


「いやいや、私もこうなるとは思っていませんでした。成り行きとは怖いものですね」


「しかし、あのときのように止めなかったのですか? 素人が暫定勇者の相手になるわけがない。三枝木さんはそう言ってましたよね」


下畑さんは笑顔でそう聞くが、どこか圧があるように感じた。それに対し、三枝木さんはいつもと変わらぬ態度だった。


「すみません。あれは私の間違いです。素人でも少し練習すれば、暫定勇者を相手にしても、勝てる状況が作れると思い知らされました」


「それが、うちのハナちゃんでも同じことを言える、という意味で間違いないですね?」


下畑さんの笑みが消える。明らかな敵意が、そこにあった。


それでも、三枝木さんは平然と言ってのける。


「間違いありません」


なんだか見えない火花が散っているようだが、それは僕には関係がないことだ。


「ハナちゃんは、どこにいるんですか?」


質問してみると、

下畑さんは僕がいることに初めて気づいたような顔を見せた。


「もちろん、彼女は神崎くんを待っていますよ。待ち焦がれていたみたいです。ほら」


下畑さんが少し横に移動すると、

彼の背後にあったリングが見えた。


そして、その上には現役の暫定勇者の姿が。


「待ってたぞ、雑魚野郎」


赤い髪をひとまとめにして、

本屋に貼ってあったポスターからは想像できないような、暴力的な笑みを浮かべている。


どれだけ待っていたのか、腕を組む彼女の姿は、溜め込んだ怒りを放出する瞬間に、歓喜しているようにも見えた。


「今度は、朝食の喰い過ぎだなんだとか言って、逃げ出すことはないだろうな」


彼女の問いかけに、僕は答える。


「大丈夫。今日は控え目にしたし、そもそも前みたいなパンチをもらうことは、ないから」


「……上等だ」


ハナちゃんの覇気が、フロア中に広がったかのように、空気が変わった。それでも、僕は一歩も退くつもりはない。


「そんなことより、約束を守る準備はできているよね、ハナちゃん」


意外だったか、ハナちゃんの表情が少しだけ曇る。


「勇者に二言はねぇよ。だけどな、もう一度だけ言っておくぞ。私をハナちゃんって呼べるのは、私が強いって認めたやつだけだ」


「分かっているよ、ハナちゃん(・・・・・)。それじゃあ、始めようか」


ハナちゃんは笑った。

それは、喜びに満ちた笑顔である。


人を負かすこと、人を壊すことを喜びに感じている笑顔。

そして、彼女は言う。


「今度は、インターバルなんて言って逃げるなよ」

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