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【忘れられない敗北】

「どうせ、誠なんて頼りないし」

「あんたに、何ができるの?」

「馬鹿じゃないの? 気持ち悪い」


なんだっけ。

なんで、こんなに必死だったんだろう。


ずっと我慢していた、抑え込んでいた気持ちが、浮上してしまいそうになる。


そうか。だから、アリサさんを助けたいと思ったし、アルバロノドフが許せなかったのか。


……思い出したくなかった。


でも、そうだな。もう一度会うことがあるなら、


あのときに戻れるなら、


僕でもなんとかできた。

異世界に逃げてきちゃったし、今更考えても仕方がないのだけれど……。


あいつ、元気かな?




目が覚める。

とても静かな空間で天井を見つめた。


「お、目を覚ましたか」


声の方向を見ると……えっと、あ、セレッソだ。セレッソが立っていた。


「さすがに死んだと思って焦ったぞ。痛みはあるか? 腹は減ってないか?」


「……大丈夫、みたい」


体を起こそうとすると、横腹が痛んだ。そういえば、思いっきり肉が抉れて血が出たけど……。


恐る恐るその部分を触れてみるが、包帯が巻かれているだけで、血は出ていないみたいだった。


「大変だったんだぞ。フィオナなんて部下の前なのに泣きわめきながら、必死にお前を治療して。ほら、プラーナが空になってそこで眠ったまま、今も起きやしない」


セレッソが顎で示した方向。

何とか身を起こすと、僕が眠るベッドの隅にフィオナが。


座ったまま、ベッドに顔を伏せて眠っている。


「おい、誠。今回みたいなことがあったら、ちゃんと逃げろ。勝負するな」


「……なんでだよ。勇者なんだから、戦うもんだろ」


「勇者になれとは言ったが、それはあくまで手段。過程の一つに過ぎない。命をかけて戦うな。死なれると、困るからな」


「どういうことだ?」


命をかけて戦う。

僕からしてみると、とんでもない成長なのに、それを否定するセレッソに、なんだか苛立ってしまう。


セレッソが口を開きかけたとき、フィオナがもぞもぞと動いた。


それを見たセレッソは溜め息を吐いてから、その場を立ち去ろうとする。


「どこ行くんだ?」


「二人きりで話せ。フィオナは、自分でも思った以上にお前を頼りにしているみたいだぞ」


セレッソが部屋を出ていくと、その数秒後にフィオナが目を覚ました。僕を見て驚いたのか、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに睨むような視線に変わり、あらぬ方向を見て呟くのだった。


「起きたなら、早く声をかけなさいよ」


「ごめん。疲れて眠っている、って聞いたから」


「……そう」


沈黙が続く。き、気まずい。


「あのさ」


無言の時間を嫌って、僕が先に声をかける。


「なんか、魔法で治療してくれたんだって? ほんと、ありがとう。今回、マジで死ぬと思ったからさ」


しかし、フィオナは僕の方を見ることはない。お、お気に召さなかったようで……。


「みんな無事かな? ハナちゃんも怪我してたように見えたけど」


「……ハナちゃんハナちゃんって。心配することと言ったら、そればっかりなんですね」


「あ、いえ……。そういうわけでは……」


またも沈黙タイムに突入かと思われたが、フィオナはちゃんと話してくれた。


「この戦いで、多くの命が失われた。貴方と同じ新人勇者も、半分になってしまったわ」


「は、半分……?」


愕然として言葉を失う僕。

それを見て、フィオナは溜め息を吐いた。


「まだ戦いは始まったばかりなのに、私は多くの戦士を死なせてしまった。次は貴方だって……分からない」


「僕は……大丈夫。ちゃんと、戦争が終わるまで戦い抜く。生きて帰ってくるよ」


慰め、というわけではないのだけれど、自分なりの覚悟を口にしたが、フィオナは疑うようなジト目で見つめてくる。


「今回だって約束を守れなかったくせに、何言っているのよ」


「え? ちゃんと生きて帰ってきたけど」


「大怪我もしない、って約束でした」


「そ、そうでした……」


「もう少し頼りがいのある勇者になってもらえると助かります」


そう言って、フィオナは立ち上がると、部屋を出ていこうとした。頑張ったつもりだったのにな……と肩を落とす僕だったが、部屋を出る寸前でフィオナは振り返った。


「でも、窮地に立たされた私を守り、敵の大将を討ったのは貴方です。お礼を言います。ありがとう」


「フィオナ……」


あの生意気な王女様が、頭を下げてまで僕に感謝を示している。なんだか感動的だ……。


「それから――」


もう終わりかと思ったが、部屋を出ると同時にフィオナは呟きを残していった。


「生きててよかった。ありがと」




十分後、部屋に多くの人がなだれ込んできた。


「誠、起きたか!」


「誠さーーーん! 本当に死んじゃったと思いました!」


「お前に敵の大将を討たれるとはな。意外だったわ」


ハナちゃんにニア、それに狭田まで。

その後ろに、さらに二名ほどの姿が……。


「神崎くん、無事だったんだね!」


「あ、雨宮くん!?」


驚くべきことに、アミレーンスクールのクラスメイトである雨宮くんの姿が!


「だから、言っただろう。神崎はしぶといから大丈夫だって」


もう一人は岩豪。

僕とランキング戦を争った岩豪鉄次だ!


雨宮くんはベッドの横まで移動すると、目を輝かせながら話した、


「フィオナ様の船に突っ込んできた敵と戦っていた勇者は、神崎くんだったんだね! 僕が初めて撃った魔弾、役に立った?」


「え、魔弾? 雨宮くんが?」


話に聞くと、艦橋まで飛び上がろうとするアルバロノドフが踏みとどまったのは、雨宮くんが撃った魔弾のおかげだったらしい。


絶体絶命とも言えたあの瞬間、


助けてくれていたのは、まさか僕の親友だったとは。


「誠……大丈夫か?」


ハナちゃんが僕の顔を覗き込んできた。それは、僕が急に涙を流し出したからだ。


「ご、ごめん。この前、気絶して目を覚ましたときは、アッシアの船でさ、ちょっと怖かったんだけど……今度はみんながいてくれたから、嬉しくて!」


「……そうか。目覚めたばかりなのに、押しかけて悪かったな。また、少し休んだら覗きに来るから」


そう言って、ハナちゃんはみんなを押し出すようにして、部屋の外に出て行った。


一人になると、今回の戦いのことを思い出し、余計に涙が止まらなくなってしまった。僕はみんなの役に立てただろうか。誰かの助けになれただろうか。


僕は……


アリサさんを救えただろうか。


得体のしれない敗北感は、どれだけ泣いても流れきることはなかった。

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