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【過去の時間が愛おしくて】

ニアからの通信が入る。


『誠さん! アルバロノドフが、防衛線を突破してしまいそうです! 早く来てーーー!』


「勇者は? 近くにいないの!?」


『それが、強引に突っ込んでくるんです! 勇者様たちがアルバロノドフを止めようとしても、別の強化兵が盾になって邪魔するんです!』


なるほど、仲間に道を開けさせて、自分は捨て身の特攻。総大将の首だけを狙うってわけか。


フィオナはどうしているだろう。

表情一つ変えず、迫るアルバロノドフを眺めているかもしれない。


自分の部下である勇者たちなら、アルバロノドフの特攻を止める。止められないなら、自分が死ぬだけだ、と。


「絶対に、守ってやるから!」


『!? は、はい! お願いします!』


フィオナがいる船へ向かう、アルバロノドフとアリサさんの背中を見つける。


僕は、二人のすぐ後ろを走っているが、あとわずかの距離が縮まらなかった。ただ、アルバロノドフを守る強化兵は、アリサさんを除けば既にいない。が、アルバロノドフを止める勇者もいないようだ。


つまり、僕がやつを止めなければ、フィオナの命が危ないってことだ。


『誠、まずいぞ。早く戻ってこい!』


セレッソの声。

あいつも焦っているようだ。


「アリサさん、待って!」


僕の声に気付けば、アリサさんが足を止めるかもしれない。しかし、そんな望みは届かず、アルバロノドフと二人で船の方へ走り続ける。いよいよまずい!


『あああーーー! 誠さん、応援が! 味方の応援がきました!』


ニアが言う通り、海の向こうから港に停まろうとする、オクトの船がたくさん見えた。アルバロノドフにしてみると、絶体絶命の状況に、敵の援軍。負けは確定と判断するはず。


それなのに、やつは止まらないのか!?


アルバロノドフとアリサさんが、強化兵の凄まじい跳躍力を使って船に乗り込む。おそらくは、甲板に着地しただろう。


『ぎゃあああーーー! きます! アルバロノドフが、きますーーー!』


ニアの悲鳴に近い声。

アルバロノドフのジャンプ力なら、甲板から艦橋に飛び乗ることもできるかもしれない。


ちくしょう、間に合わない!


それでも、望みを捨てるわけにはいかず、僕は足にプラーナを集中させ、全力でジャンプした。


「うわわわぁぁぁーーー!」


自分のジャンプ力に驚きながらも、甲板に着地する。


「フィオナ!」


叫ぶ僕の目の前で、腰を落として今にも飛び上がろうとするアルバロノドフが。僕はやつの背中に飛びつき、それを邪魔しようとした。だけど――


ダメだ、ほんの一瞬、遅かった!


あと半歩。そんなタッチの差で、アルバロノドフが飛び上がると思われた、そのとき。かすかに銃声が聞こえた、気がした。


「魔弾だと!?」


驚愕の声を上げるアルバロノドフの腰に、僕が後ろから飛びついた。不意なタックルに、アルバロノドフはバランスを崩し、僕ともつれるように倒れ込んだ。


何があった?

間に合わないと思ったけど、アルバロノドフが寸前で動きを止めた。


いや、考えるのは後だ。僕はすぐに起き上がって、アルバロノドフの背中に(・・・)拳を叩き込む。


アルバロノドフは小さくうめき声を上げたが、それでも強引に立ち上がり、腕を振り払って僕を弾き飛ばした。慌てて立ち上がると、僕とアルバロノドフは向き合う形に……。


僕はアルバロノドフに人差し指を向ける。


「アルバロノドフ……アリサさんを、解放しろ!」


改めてアルバロノドフを見ると、やつは僕以上にボロボロだった。鉄壁を誇った白い鎧は所々に割れ目が入り、自慢の槍も刃が欠けている。どれでけの勇者による攻撃を受けたのだろう。鎧の隙間から、血が流れていた。


「マコト、なの……?」


アリサさんが僕を見て、呟いた。僕は彼女を一瞥したが、すぐに視線をアルバロノドフに戻す。やつは大きく呼吸すると、槍を構えた。


「もうやめろよ!」


僕は叫ぶ。


「見ただろ、オクトの援軍が来たんだ。もうお前に勝ち目はない!」


「いや、ある」


アルバロノドフの声は確信に満ちていた。


「援軍の兵士たちが、この船に乗り込むまで、まだ少しばかり時間がある。その間に、お前を屠ることは容易。あとは艦橋まで攻め入り、王女を討つのみだ」


「お前のやるべきことは、そんなことじゃないだろ……!」


「……私のやるべきこと?」


アルバロノドフがかすかに首を傾げたような気がした。


「お前、僕に言ったよな。お前には女を守れない、って」


心のあたりがないのか、それとも突拍子もないことだったせいか。アルバロノドフは少し困惑しつつ答える。


「言った。お前は弱い。そんなことでは、女一人守れない」


「じゃあ、お前はどうなんだ? アリサさんのこと守れているのか?」


沈黙。アルバロノドフは自信に満ち溢れた男だ。それなのに、彼は言葉に詰まったのだ。


「守るどころか、お前は自分の女を殴りやがって! どんな大儀があって戦っているのか知らないけどさ、自分の女を守れないやつが、何を守るんだよ!」


「……セルゲイ」


アリサさんの消え入りそうな声。

それを聞いて思うことがあるのか、アルバロノドフは黙ったままだ。


気付けば、やつの足元は真っ赤に染まっている。どうやら、ここにくるまで勇者たちの攻撃を受けて、怪我を追っていたのだろう。


それは、放っておいても死ぬのではないか、と思えるほど、大量の血だった。そんなアルバロノドフが、ついに口を開いた。


「オクトの勇者。名乗れ」


「神崎誠だ」


アルバロノドフが頷き、槍を構えた。


「最後に、私ができることは、戦い抜く姿を見せることだけだ。誠、お前がアリーサの心を慮るのならば、私と戦え」


僕はアリサさんの方を見る。

彼女が何を想い、何を願うのか、少しでも知りたかった。


すると、彼女は小さく僕に頷いた後、アルバロノドフの背中に向かって言うのだった。


「セルゲイ、戦って! アニアルークのためだけじゃない。私たちのこれまでが、戦い続けた日々が、無意味じゃなかったって、証明してよ!」


「応!」


アルバロノドフを中心に凄まじい闘気の波が広がる。同時に、彼の全身から血が吹き出したのか、音を立てて足元を赤く染める。


「勇者、神崎誠。勝負だ」


アルバロノドフとアリサさんの意思は、一つに結ばれているようだった。船の中では、あれだけ険悪な関係だったのに、


この短時間で何があったって言うんだよ……!


「おかしいよ、アリサさん……。戦って、何を証明するんだ」


僕には、二人の絆が理解できなかった。


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