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【伸ばした手は誰を求めて】

強化兵になると、尻尾が生えたり、手が巨大なハサミになったり、


身体に大きな変化があるようだが、ガジの姿はそうではなかった。


灰色で硬質化した姿は他と変わらないが、一切の無駄がないように見える。


「初めて顔を見たときから、お前のことが気に食わなかった。ここで打ちのめしてやる!」


ガジが少しずつ間合いを詰めてくる。小細工なしの格闘戦を仕掛けてくるようだ。


「勇者の僕に、格闘戦で勝てると思うなよ」


「思いあがるな!」


ガジは踏み込みながら右の拳を突き出してきた。


よく伸びるパンチ。

だが、見えないわけではない。


僕は軽く身を逸らして躱してから、左の拳を返した。


ガジは顔面でそれを受けたが、怯むことなく、左右と連続で拳を放ってくる。


それも距離を取ってやり過ごし、僕は反撃のため踏み込もうとしたが、ガジはタックルで腰に組み付いてきた。


足をかけてくるが、ハナちゃんの柔道技に鍛えられている僕が、この程度で倒されるわけがない。


僕は足を捌いてやり過ごしてから、ガジの体を突き放して、右ストレートを放った。


しかし、ガジは腰を落としてそれを避けつつ、再びタックルで組み付いてくる。組み合う状態が続き、僕は何とか粘ったが、


ついにもつれるように倒れてしまった。


「貴様みたいなやつが、アリーサ様の部屋で寝るなんて、絶対に許さん!」


ガジは素早く馬乗りの状態を取り、僕の顔面に拳を落とす。頭部はブレイブアーマーで守られているが、その衝撃を打ち消すわけではない。何度も食らったら、意識を失ってしまうだろう。


「羨ましいなら、そう言えよ!凄い良い匂いだったぞ!」


「ぐぬぬぬっ!」


怒りに動きが止まるガジ。

僕はその隙にめちゃくちゃに暴れて、上に乗るガジを振り下ろした。


だが、先に立ち上がったのはガジだ。同じく立ち上がろうとする僕に蹴りを放ってくる。


パカーンッ!と顔面に蹴りがヒットし、


僕は背中から倒れそうになったが、よろめきながらも何とか踏ん張って立ち上がる。


そこにガジが再びタックルで組み付こうとしてきた。


「何度もやらせるか!」


僕はガジの頭を抑え込み、

タックルを止めると、膝を突き上げてやる。


額に二発、三発と続けて入れてやったが、ガジは両手で僕を突き放す。そのタイミングで、


ハイキックで側頭部を狙ったが、ガジは腕でガードしてみせた。


「まさか、貴様……寝たのか!」


ガジのやつ、集中しているのかしていないのか、その辺りが気になって仕方ないらしい。


「勝手に想像してろよ。童貞野郎!」


実際、僕もバキバキの童貞野郎なわけだが、その煽りはガジに効いたらしい。


「……絶対に! 許さーーーん!」


不用意な踏み込みに、大ぶりのパンチ。僕は潜るようにそれを避けつつ、ガジの腹部へ拳を突き刺した。


うっ、とガジのうめき声が。


だが、まだ気持ちが折れたわけではないらしい。


反撃の左ジャブから右フック。

それは問題なく避けてみせたが、しつこく組み付いてきた。


突き放してやるつもりだったが、ガジはするすると移動し、後ろから抱き着かれるような形になってしまう。


僕は腰に回されたガジの両腕を引き剝がそうとしたが、突然の浮遊感が。ガジが僕の体を持ち上げたのだ。そして、急に天地がひっくり返ったかと思うと、頭に強い衝撃が走り、痛みが上から下へと突き抜けた。これは……


プロレスなんかで見るスープレックスってやつか!


視界がチカチカするが、僕は体を反転させ、何とか拘束から逃れると、先に立ち上がってガジの頭を掴んでやった。


「そんなにあの人のことが好きなら、お前が守れよ! あの人の手を引っ張って、アッシアから抜け出せばいいだろ!」


僕は膝をガジの頭に叩き込む。

三発目を入れてやろうとしたが、ガジに太股辺りを掴まれ、押し倒されてしまった。


「何度も言わせるな! あの方は、俺を求めてなんかいないんだよ!」


仰向けで倒れた僕を見下ろし、ガジが拳を落としてくる。一発、二発と続けて落とされる拳に、僕の意識は少しずつ削られてしまいそうだった。


「あの方は、俺と一緒にいるよりも、殴られて、粗末に扱われる道を選んだ。それが、どういうことか分かるか!」


殴りつけてくるガジの手首をつかみ、拳を止めると同時に、両足を持ち上げる。そして、それをガジの首に三角の形に絡めた。


もやはお馴染み、ハナちゃん直伝の三角締めだ!


強化兵に変形したガジの顔は、人間らしさを失っているが、それでも首を絞められて苦悶の表情を浮かべているのが分かる。


「関係ないだろ! 何度だって、しつこく手を差し伸べればよかったじゃないか!」


このまま、絞め落としてやるつもりだったが、ガジが凄まじい力で僕を高々と持ち上げると、地面に叩きつける。千冬に同じことをやられたときは耐えられたが、ガジのパワーは少しレベルが違い、拘束をゆるめてしまった。


それでも、ほぼ同時に立ち上がり、パンチが交錯した。


お互いの拳が、お互いの顔面を捉える。これから、アルバロノドフと戦うつもりなのに、今の一撃はかなり効いて、思わず膝を付いてしまった。


が、それはガジも同じだ。


ここは、少しでも弱気になった方が負ける。そんな考えも同じだったのか、ガジも膝を震わせながら立ち上がろうとしていた。


「うおりゃあああぁぁぁーーー!」


ガジが渾身の一撃を放ってきた。

だけど、それは僕も同じだ。整っていない姿勢で、無理やりハイキックを放つ。


が、それはガジの一撃よりも速かった。

ガジのパンチが届くよりも先に、僕のハイキックがヒットしたのだ。


崩れるように跪くガジ。

再び立ち上がってくると思われたが……


彼は拳を地面に叩きつけた。


「何度もやったさ!」


ガジの叫ぶように嘆いた。


「何度も、一緒に逃げようって言ったんだ! だけど、アリーサ様は、俺じゃダメだったんだ……。お前の言う通り、アリーサ様は助けを求めていたよ。そうだ、ずっと誰かの助けを求めていた。だけど――」


ガジは頭を抱えると、額を地面に付けて嗚咽を漏らす。


「だけど、俺の助けは求めていなかった……。俺は、永遠にあの人を助けることはできない。俺じゃ、ダメなんだよ!」


「ガジ……」


子供のように泣き出すガジに、僕は何と声をかけるべきなのだろうか。


「何も知らないくせに偉そうに言うなよ、オクト人! 何も知らないくせに、ぽっと出てきただけなのに、アリーサ様に気に入られやがって! だから、気に食わないんだ。俺は、お前が気に食わない!」


何か言葉をかけてやれるかもしれない。そんな風に考え、立ち尽くす僕だったが、適切と思えるものは何一つ出てこなかった。


「……ガジ、僕は行くよ」


これだけ言って、立ち去ることにした。


「お前は僕を嫌いかもしれない。だけど、僕はお前のこと、良いやつだって思ってるよ。お前の気持ち、よく分かるし、僕だってお前と同じだから」


背後でガジが頭を上げる気配があったが、僕はアリサさんがいるだろう方向へ歩き出した。


アルバロノドフは言った。僕では女の人を守れない、と。


確かにそうだった。

あいつと出会った、あの日のあの瞬間までは。


だけど、今は違う。

絶対に守ってみせる。

フィオナも、アリサさんだって。


僕は走り出す。アルバロノドフの背中は、そう遠くはないはず。そう信じて走った。

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