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◆英雄の影③

首都奪還作戦が失敗に終わり、アルバロノドフが病院に運ばれたという話を聞き、アリーサはすぐ現地へ向かった。

アリーサはアルバロノドフを回収し、すぐに旧政府軍の拠点へ連れ戻すつもりだったが、アッシアの追手がそれを許してはくれない。


何とか追手を撃退し、トラックで拠点へ移動中のときのこと、アリーサは眠るアルバロノドフと二人きりになった。


あの日、彼に助けられてから、まともに会話したことは一度もない。せっかく、二人きりになれたのだから、あのときの礼を伝えるタイミングはないか、と考えていると、アルバロノドフが口を開いた。


「追手は?」


目を覚ましたらしい。


「撃退しました。もうすぐ、拠点に到着します」


「そうか。まさか、あのとき助けた少女に、助けられるとは」


「……覚えて、いたのですか?」


アルバロノドフは小さな苦笑いを浮かべた。が、傷が痛むらしく、顔を歪める。


「すまない。ワジムを……死なせた」


「ワジムも覚悟していたことです。我々にとっては、貴方が生きていることが、何よりも重要なことですから」


「ワジムに言われた。君を頼れ、と。これから迷惑をかけると思うが……すまないな」


「いえ、かまいません。私も……貴方に恩を返す日を、待っていました」




拠点近くの病院でアルバロノドフが療養するようになってから、アルバロノドフは旧政府軍に関する指示はすべてアリーサに出したし、アリーサもすべての出来事をアルバロノドフに報告した。だから、二人の距離は今までにないほど、近いものとなっていった。


アルバロノドフが歩けるようになったころ、彼はアリーサにこんな本音を漏らす。


「こんな戦いを続けてもいいのだろうか、と考えることがある」


アリーサは、瞬時にエレナの話を思い出し、ただ彼の話を黙って聞くことに決めた。


エレナのように、彼を否定することはやめよう、と。


「戦いをやめて、平穏な暮らしを始めるんだ。昼間は働いて、帰ったら飯を食べる。そして、隣には愛する人が……。例え、選択の自由が制限されていたとしても、誰かに与えられた生活だったとしても、今みたいに仲間が死に続けるよりは、マシだと思うんだ」


「そうかもしれません。私にも、分かります」


肯定するだけで、アルバロノドフは穏やかな笑顔を見せた。それは、数年前にアルバロノドフが大統領救出作戦から帰ったときに見せたものと、まったく同じものだ。


「首都奪還作戦で、私は魔王を見た。あれは恐ろしい力だ。これから、首都を奪還できたとしても、アッシアをアニアルークから追い出せたとしても、いつかはあれが私たちの前に立つ。そしたら、何もかも終わってしまう。そういうものだ」


アルバロノドフは震えていた。首都奪還作戦の際、魔王と戦闘状態になったことはアリーサも聞いている。しかし、アルバロノドフほどの豪傑が震えるほどとは……。


それでも、アルバロノドフは震えを止め、自分に言い聞かせるように話した。


「ただ、エレナはまだ諦めていない。彼女が納得するまでは、私は戦わなければ……」


「セルゲイ様がどんな道を選んだとしても、私は貴方を支えます」


「……ありがとう」




アルバロノドフが「少し歩きたい」と言うので、アリーサが肩を貸して外に出る。暑くもなく寒くもない、爽やかな風が吹く日で、緑溢れる景色はアルバロノドフの心に癒しを与えるようだった。しかし、その男が二人の前に現れる。


「こんにちは、セルゲイ」


その男は、無表情かつ平坦な口調で声をかけてきた。


何気ない知人の挨拶……のようでもあったが、温度が低い。二人がその男の顔を確かめ、言葉を失う。そんな二人に、男は無表情のまま、名乗るのだった、


「私はイワン。イワン・ソロヴィエフ。アッシア政府の首相をやっている者だ」

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