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【練習・練習・練習】

地獄が再開された。

何度、三枝木さんが優しい顔をした悪魔に見えたことか。


それでも、僕は鬼の如くのメンタルで、立ち向かい続ける。


それを可能とする原動力は、もはや口にするまい。


「良いですか、神崎くん」


三枝木さんが僕にモニターを見せながら言った。


「ハナちゃんは、あのように見えて、ジュウドーベースの寝技が得意なグラップラーです。組んでから、真の力を発揮する。だから、タックルで倒されることがあれば終わり。掴まれて投げられても駄目です。残り一週間で倒されないこと、投げられないことを重点に練習を重ねましょう」


モニターには、

ハナちゃんの過去の対戦が映し出されていた。


ハナちゃんが暫定勇者決定戦に挑み、初めて暫定勇者の座を獲得したときのものらしい。


ハナちゃんは開始三十秒で暫定勇者の右ストレートを顎にもらい、ふらついてしまった。


しかし、何とか組み付いて、寝技に持ち込み、粘りに粘った。そして、何度も打撃の嵐を掻い潜り、最後はマットに背を付けた状態のハナちゃんが、上から拳を叩き付けてくる相手に対し、両足を絡めて首を絞め、ギブアップを勝ち取っていた。


「なんか、イメージと違いますね」と僕は呟く。


「近距離で殴り合うタイプに見えますよね。もちろん、格下相手には打撃だけで戦うこともあります。しかし、飽くまで得意技は投げと絞めです。なので、今回は彼女が本気を出して、組み付いてくる前に倒す、という作戦で行きましょう」


「でも、急にタックルできたらどうするんです? 僕、何も対処できませんよ」


「大丈夫。ハナちゃんは絶対に打撃できます」


「どうして分かるんですか?」


「うーん。それは、勝ってから本人に聞いてみてください」


何やら事情があるのか、

三枝木さんは含みのある笑みを見せるだけで、それ以上は教えてくれなかった。




練習。

とにかく練習。

燃え盛る闘志を胸に抱き、とにかく僕は練習に打ち込んだ。


その日も全力で練習に打ち込んだものだから、夜になるとマットの上に倒れ込んでしまった。それでも燃え尽きることのない闘志を胸に感じる。


ふふふ、キスってどんな味がするのだろう。


「闘志ではなく、下心の間違いではないだろうな」


おっと。

読心術を使えるらしい女神様が僕を見下ろしているではないか。


「何の話だ?」と一応は誤魔化してみる。


「お前のその異常なやる気の話だ。三日目で逃げ出したくせに、すぐに戻ったと思ったら、馬鹿みたいに練習に励んでいる。おかしいだろう。原因は何だ? 何を隠している?」


「な、何も隠してなんかない。単純に勇者となってこの世界に平和をもたらしたいだけだ。それが僕の使命だからな」


「綿谷華、本人か?」

「……ん?」


「お前が逃げ出した直後、あの女がここにやってきたんだ。そして、お前がどこにいるか、しつこく宗次に聞いていたぞ」


僕は沈黙を返したが、セレッソは迫る勢いで顔を近づけ、囁くように言った。


「お前にそこまでやる気を出させるとは、どんな手段を使ったのか、気になるな。できるなら、教えて欲しいものだ。お前は私の言うことなんて、少しも聞いてくれないからなぁ。ところで、あの女、男受けが良さそうだよな。まさか、タイプか?」


「……うるさいぞ。僕は明日も早くから練習なんだ。黙ってお前も寝ろ」


そう言って僕は顔を背け、

寝たふりをするが、疲れていたので間もなく本当に眠ってしまった。




さらに練習の日々が続き、再戦まで残り三日となった。


ここまで来ると、この前とは違った意味で逃げ出したいような気持ちが出てきた。


つまり、プレッシャーだ。本当に僕が勝てるのだろうか、という。


「調子はどうですか?」


それを察したのか、練習が終わると、三枝木さんが声をかけてきた。


「正直、めちゃくちゃ怖いです」


僕は正直に答えた。


「三枝木さんやクラムのみんなが、サポートしてくれているのに負けるようなことがあったら…」


きっと、がっかりさせてしまう。それが怖かった。


そんな平凡なプレッシャーに押しつぶされそうな自分が、勇者になれるのだろうか。


常にその不安はあるけれど、今はその気持ちが膨れ上がっていた。


「特に、セレッソは僕が勇者になるって信じて疑わないって感じだし。ここで躓くようなことがあったら、どんな罵詈雑言が飛んでくるのか……分かったものじゃないですよ」


「セレッソ様は、昔からそういう方でしたからね」


懐かしそうに目を細める三枝木さんを見て、当然とも言える疑問が浮かんだ。


「三枝木さんは、いつからセレッソと知り合いなんですか?」


「……そうですねぇ」


三枝木さんは当時に想いを馳せたのか、いつも以上に柔らかい表情を見せた。


「十年前かな。ちょうど、あの戦争が終わる頃です」


「あの戦争?」


聞き覚えのない言葉を、

ついそのまま口にしてしまった。恐らく、この世界にとって常識だったのだろう。


三枝木さんは眉を寄せた。


「第一次オクト・アッシア戦争ですよ。少し前までは、イアデネス侵攻と言われていましたが。学校で習ったでしょう?」


「……えーっと、すみません。僕、凄い馬鹿だったんです。勉強もまったくで」


こんなことなら、セレッソにこの世界の歴史くらい聞いておくべきだった。そもそも、僕が別の世界からやってきたことを秘密にすべきだったのだろうか。


こんなときに限って、セレッソはどこかに行ってしまい、見当たらない。


「そうでしたか」


納得したわけではないようだが、三枝木さんは僕の無教養には触れないことにしたらしい。


「二十年前まで、この世界は平和でした。世界は一つだった、と言えるくらい。


しかし、突然アッシア帝国が隣国であるアニアルークに攻め入りました。理由は、アニアルークがアッシアと並ぶ大国、アキレムと急接近したことです。


アニアルークはアッシアにとって友好国でした。それなのに、アキレムと親交を深めようとしたことが、アッシアにとって許せなかったのでしょう」


三枝木さんは本当に教えることが得意な人なのだろう。


自然にこの世界の歴史について説明を始めてくれた。


次回は説明回になります。


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