【年上の女からペット扱い】
「どどどどど、どうして僕が、アッシアの船に??」
今にも頭が爆発してしまいそうだ。
それくらい、僕は混乱していた。
あ、ブレイブシフトも左腕にない!
これって、最悪な状況なんじゃないか!?
「っていうか、みんなは? まさか、爆弾に巻き込まれて……?」
アリーサさんが笑顔で教えてくれる。
「あー、それは大丈夫だよ。オクトのみんなはブレイブアーマー着ていたし」
「でも、フィオナとセレッソは? ほら、王女様と緑色の髪の生意気そうな女!」
「えーっと、緑色の子は女勇者がちゃんと守ってたよ。お姫様も君が壁になったおかげで、たぶん怪我はしていないかな。そのあと、白い勇者と金色の勇者が守ってたしね」
「そっかそっか……」
皇と狭田が守ってくれるなら、フィオナも大丈夫だろう。
ほっと一息吐く僕を、アリーサさんがニコニコした顔で見つめている。
「な、なんですか?」
「仲間の心配はいいけれど、自分の心配はしないの?」
そっかーーー!!
僕だけ、敵に捕まっているんだ。
ど、ど、ど、どうなるんだ??
「も、もしかして……処刑とか?」
「違う違う。そんなことのために、わざわざ気絶していた君を連れてきたりしないよ」
「わ、分かった。……拷問だ。い、痛いのは勘弁してください!」
「あはははっ! かわいいね、君は。拷問しないと引き出せないような重要なことなんて、君なんかが知っているわけないでしょ!」
……どうなんだろう。
僕が女神セレッソによってこの世界にやってきた異世界人って、どれくらい重要な秘密なんだろう。セレッソは隠したがっているみたいだったけど。
「もちろん、人質でもないよー。セルゲイなそういう卑怯なこと嫌いだからね」
「……じゃあ、どうして僕を連れてきたんですか?」
「だから、かわいいからだよ。かわいいから、連れてきちゃった」
「……はぁ?」
意味が分からなくて、顎が外れてしまいそうなくらい、口を開いてしまう。
「だってさー、イザールまで遠いんだもん。君みたいな若い子と、遊んで時間をつぶしたいのー!」
そ、そんな理由で……?
「っていうか、僕なんかかわいくないですよ! 見て! 顔見て! 微妙でしょう! 不細工ではないと思うけど……微妙でしょ??」
「まぁ、顔はねぇ」
うっ、自分で誘導しておきながら、そう言われると少しショックだ。
別に、慣れているから良いけどさ!
「だったら、解放してください。帰ります」
「でも、海の真ん中だよ。泳いで帰るの?」
「イロモアの港じゃないの??」
「そんなわけないじゃん。アッシアのイザール基地に向かっている最中でーす」
軽く言ってくれるが、なかなかショックだぜ。運よく逃げ出せたとしても、海に飛び込んで、そのあとはどうすることもできないのか……。
「大丈夫大丈夫。そんなに気を落とさないで。イザールに着くまで、私の相手してくれるだけで良いんだから!」
「その、イザールってところに着いたら、どうなるんです?」
「もちろん解放するよ。オクト軍もたぶん追いかけてきてるし」
そ、そうなんだ!
じゃあ、この美人のお姉さんと船旅を楽しんでれば、最後にみんなが迎えに来てくれるってことね!
……って、楽観的に考えられたらいいけど、
やっぱり怖いよーーー!
「か、帰りたい」
涙が出そうになる。
アミレーンのあの部屋。アスーカサのクラム。オクト城でもいい。とにかく、帰りたい。異世界で、しかも敵地に一人。なんて心細いんだ。
「落ち込んじゃって。ほんと、かわいいねぇ」
アリーサさんがベッドにあがり、僕の上にまたがると、顔を近付けてきた。
な、なんだ。
敵地で美女の誘惑。
スパイ映画みたいじゃないか。
「や、やめてください」
「ダメだよ。君、自分がどういう立場か分かってないの?」
さらに、近付いてくる。
や、やばいぞ。
こんな大人の女性に迫られたら……
やばいぞ!!
びびって顔をそむける僕を、アリーサさんは笑う。
「もしかして、キスとか未経験?」
「き、キスくらい経験ありますから!」
「へぇぇぇ。好きな子としたの?」
「かかか、関係ないでしょ!」
「あるよー。これからキスする相手のこと、知りたいでしょ?」
言い淀み、顔を真っ赤にしていると、アリーサさんは体を離しながら、おかしそうに笑った。よく笑う人だな、ほんと。
「それに、アリーサさんはアルバロノドフの……こ、恋人なんでしょ?」
あれだけ笑っていたアリーサさんの表情が曇る。
「そんなんじゃないよ」
「……じゃあ、どんな関係なんですか?」
「これからキスする相手のこと、知りたいの?」
「ち、違います! じゃあ、話さなくてもいいですから!」
暗くなったアリーサさんは少しだけ笑みをこぼしてくれたが、再び寂し気な表情に戻ってしまった。
「話したくても、話せないんだよねー。なんていうか、私がセルゲイのことをどう思っていて、セルゲイが私のことをどう思っているのか、自分でもよくわかっていないから」
複雑というか、微妙な大人の関係、みたいなこと? そ
れは確かに踏み込んだりしたら、傷付けてしまうのかもしれない……。
「そんな顔しないでよ! ごめんね、暗い空気出しちゃって」
アリーサさんは僕をバシバシと叩きながら、笑顔に戻ってくれた。
「あ、そうだ。私はアリーサ。君の名前、なんだっけ?」
「誠です。神崎誠」
「マコート?」
「まこと!」
「マコト」
「ちょっと発音が違うけど、それで大丈夫です」
アリーサさんは少しだけ頬を膨らませる。
「そんなこと言ったら、マコトだって私の名前、発音変だから! アリーサだよ、アリーサ」
「アリーサ」
「アリーサ!」
何が違うのか……ぜんぜん分からない!
「もういいや。アリサって呼んで。それなら、オクト語の発音に近いでしょ」
「アリサさん、ですね」
「オッケー、マコト」
敵の船に独りぼっち、ということを忘れ、僕はアリサさんと笑い合っていた。アッシアの人は敵。だけど、一人の人間でしかないんだ。それに気付いてしまうと、ちょっと複雑な気持ちだ。
「でも、アリサさんは僕の何を気に入ったんですか?」
アリサさんは笑顔のままだが、どこか怪しくも艶めかしさのある表情で答えた。
「それはね、マコトがセルゲイとまったくの逆だから」
「逆?」
「そうだよ。弱っちくて優しい。あいつと真逆の男の子だからだよ」
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