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【ここはどこ…?】

「やらせないよ」


冷たい声が、司令室の中に差し込む。同時に、そよ風が吹いた。かと思うと、甲高い音が響き、アルバロノドフが身を退いた。


何が起こったんだ?

いや、あの声……もしかして、あいつか??


アルバロノドフにやられて、歪んでいた僕の視界が回復する。何が起こっているのか、あたりを見回してみると、守るようにフィオナの前に立つ、白いブレイブアーマーをまとった勇者の姿が。


「皇!」


あれは、任命式のとき見た、皇のブレイブアーマーで間違いない。その足元には、アルバロノドフが手にしていた剣が。


折れているところを見ると、皇がやったのか。なんだよ、憎らしいやつだけど、仲間だと思うと心強いじゃないか。


「……ハナちゃんは?」


皇がいるってことは、無事なんだよな。


「今向かっている」


よ、よかったーーー!


「それより、早く立って戦いなよ。僕がアルバロノドフを倒すから、君はそこの女を」


「わ、分かった」


立とうとするが、足にきている。

こんな状態で、戦えるか?


「いいよいいよ。君、弱いんだから休んでなよ」


「え?」


敵とは思えない雰囲気で、アリーサが話しかけてきた。


「大丈夫。私は戦わないよ。セルゲイに、恥をかかせたくないから」


ど、どういうこと?


しかし、彼女は本気で言っているらしく、向き合う皇とアルバロノドフを眺めていた。


「強敵と連戦とは……未だかつてない窮地」


アルバロノドフは折れた剣を投げ捨て、床に置いたままの槍を手にした。


「しかし、これを乗り越えてこそ、真の益荒男。かかってこい!」


声を張り上げるアルバロノドフとは対照的に、皇は呟く。


「……ブレイブモード」


皇のブレイブアーマーが光り輝くと同時に、その手に銀色の剣、ブレイブソードが。


「皇颯斗」


フィオナが皇の背に語りかける。


「新型のブレイブアーマーの力、アッシアに見せつけるのです」


「わかりました。……正義執行」


皇の姿が一瞬でアルバロノドフの横手に移動する。間髪入れず放たれた一撃だが、アルバロノドフの槍がそれを受けた。


鋼と鋼がぶつかり合う音が、何度も繰り返される。アルバロノドフの体から、蒸気が吹き出し、皇の体を包む光も激しさが増して行った。


互角の打ち合いに見えたが、少しずつアルバロノドフの顔が血に染まっていく。


皇が押し始めているんだ!


でも、ブレイブモードの継続時間は五分。


このまま、押し切れるか……?


「おい、皇ー! お前、どんだけ速いんだ! っておい! 敵の大将、ここにいたのか!」


「さっきから言っているだろ」


緊迫した空気の中に、無理やりねじ込んでくるような声。そして、冷静にツッコミを入れる凛とした美しい声も。


これはこれはこれは!!


「ハナちゃん!!」


「誠、無事だったか?」


ハナちゃんの白い勇者の制服は、煤汚れに混じって、ところどころ赤く染まっていた。


怪我?

大丈夫?

もう色々な気持ちが入り混じって、言葉にならなかった。


「おい、皇。敵の大将は俺がやる、って言っているだろ。どけどけ!」


ハナちゃんと一緒に現れたのは、 狭田慶次だった。食って掛かる狭田に、皇は冷静に返す。


「フィオナ様の前だ。二人で確実に倒すよ」


「あああ? 男ならタイマンに決まっているだろ……と言いたいところだが」


狭田が右手でブレイブシフトをつかむ。


「仕方ねぇ。やるか! ブレイブチェンジ!」


狭田が金色のブレイブアーマーを装着し、アルバロノドフへ向かう。


「ここが死地か。覚悟は決まったわ!」


アルバロノドフは臆することなく、槍を構え直す。そんなアルバロノドフを超スピードでかく乱する皇。狭田はブレイブモードを温存しつつ、皇の攻撃でアルバロノドフが隙を見せた瞬間、ピンポイントでそれを突く。


何度も共闘の経験があるかのようなコンビネーションに、アルバロノドフは着実に疲弊していった。


僕は隣に立つアリーサを一瞥したが、彼女は動く気配がなかった。僕の視線に気付いたのか、彼女がこちらを向いて微笑みを浮かべた。


ど、どういう意味の笑顔なんだ、と動揺していると、視界の隅に何かが横切った。


「ん?」


それは、人の拳よりも一回り大きい程度の四角い物体だった。誰かが、司令室の中に放り込んだみたいだけど……。


僕が入口の方を見てみると、誰かが立ち去っていく姿があった。あれってもしかして……


裏切者のブライアじゃないか??


「あの……アリーサ、さん」


「なぁに?」


敵に話しかけるのは抵抗があったが、一番近くにいる彼女に聞くのが一番だと判断した。


「あれ、なんだと思います?」


「どれどれ?」


アリーサさんは、僕が指さす方向に、視線を集中してくれた。だが、すぐにその表情が険しいものに。そして、彼女はアルバロノドフの方へ向かって叫んだ。


「セルゲイ、魔力圧縮爆弾だよ。逃げて!」


ば、爆弾だって??


「ハナちゃん! セレッソを頼む!」


僕は瞬時に叫んだ。

ハナちゃんはセレッソの隣にいる。彼女ならブレイブチェンジして、セレッソを守ってくれるはずだ。


そして、この距離なら僕が一番フィオナに近い。


僕が守るんだ!

全力で地を蹴る。後ろからハナちゃんの声が。


「誠、危ない!」

「ダメだ、姉さん。離れろ!」


皇がハナちゃんを引き止めたみたいだ。でも「姉さん」って言ったよな?


あいつ、焦ってやがる。ちゃっかり、ハナちゃんの心配しちゃってさ。


って、僕も冷静じゃいられないぞ。

あとちょっとでフィオナに手が届きそうだ。フィオナが僕の方を見て、何かを叫んだみたいだった。


大丈夫、助けてやる!


その直後、耳をつんざくような爆発音が。そして、僕の視界がシャットダウンされた。



――― ――― ―――



「フィオナ!!」


身を起こして、右へ左へ視線を振った。

が、フィオナどころか、ハナちゃんもセレッソも……皇、狭田もいない。


っていうか、司令室じゃないぞ?


どれくらいの時間、気絶していたんだ?


そこは、狭い殺風景な部屋だった。僕はベッドの上で眠っていたらしい。


……病院か?

あのあと、どうなったんだ?


「あ、起きた起きた。どう? 痛みとかある?」


愕然としていると、誰かが部屋に入ってきた。一目で、それが何者なのか、僕は気付いた。アルバロノドフと一緒に行動していた、金髪の女性。


アリーサさんだ。


「え? あれ……?」


混乱した僕は彼女に聞く。


「ここは……どこですか?」


「んー? 私の部屋だよ?」


「……はい?」


「あ、そっか。気を失ってたもんね。ここは、私たちの船。いまはアッシアに帰っているところだよ。いやー、オクトは強かったねぇ」


ここが、アッシアの船?


ってことは……

僕、アッシアに捕まったの?


……‥‥・・・。


「ええええええぇぇぇーーー!!!」


狭い部屋に僕の叫び声が響いた。

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