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【敵将強襲】

てっきり、アルバロノドフが出てきて、さっきみたいに降伏を呼びかけるのかと思っていたが、そんなことはなかった。


港で待機していたアッシアの兵士たちが、前触れもなく動き出したのである。フィオナがみんなに呼びかけた。


「強化兵が出てきたら、勇者が相手になるように。アルバロノドフが出てくるまで、できるだけ現状を維持してください」


アルバロノドフがいない戦場は、一進一退だった。かすかに、アッシアが押している。そんな気がした。


それが十分ほど続き、僕は次々と人が倒れていく様を眺めるしかなかった。


「怖いかい?」


そんな僕に声をかけたのは、馬部さんだった。


「い、いえ。大丈夫です」


「でも、震えているよ」


実は足がガクガクして止まらない。勇者なのに、びびっているなんて恥ずかしいけれど、実際はこの有様だ。


「私も十年前の戦いは、そんな調子だったよ」


馬部さんが笑う。


「そうだったんですか?」


馬部さんは、ここまで勇者の手本というべき立ち振る舞いしか見せてこなかった。そんな馬部さんが戦いを前に震えていたなんて、想像が付かない。


「こう見えて、第一次オクト・アッシア戦争に参加しているんだ。でも、先輩勇者の後ろに隠れてばかりだったよ。三枝木さん、元気かなぁ」


「え、三枝木さん? 三枝木さんって、三枝木・ジェノサイダー・宗次?」


「お、知っているのかい? まぁ、先輩も英雄だしね。君たちの世代でも名前くらいは聞いたことあるか」


「僕、三枝木さんの弟子なんです!」


「え、そうなの?」


うんうん、と頷くと、馬部さんは嬉しそうな笑顔を見せた。


「そうかぁ。さすが三枝木さんだなぁ。こんな立派な勇者を育て上げるなんて」


「いや……僕なんて、ぜんぜんですよ。見ての通り、こんなに足震えているし」


「私は立派だと思う。君はさっき、仲間のために危険を買って出ようとしたじゃないか。そうやって、自分の弱さを知っているのに、勇気を出して立ち上がることができる。勇者にとって、最も大事な心を持っている証拠だよ」


そうだろうか……?


だって、僕は結局引き下がって、ここでハナちゃんが帰ってくるのを待っているだけ。本当の勇者だったら、自分より強い相手に立ち向かっていくべきじゃないのか。


肩を落とす僕に、馬部さんは笑顔を向けてくれた。


「大丈夫。本当に必要なところで、必ず君が立ち上がるべき瞬間がやってくる。単純に、今はそのときではないんだ。だから、その瞬間まで、闘志を研ぎ澄ませておくと良い」


本当だろうか。

もし、そんな瞬間がやってきたとしたら、僕は震えることなく、戦えるのだろうか。


「馬部」


「なんでしょう」


フィオナが馬部さんを呼び、彼は司令室の中央に戻ってしまった。馬部さんがいなくなると、再び気持ちが心細くなってしまう。


「なんだ、誠。まだ戦ってもないのに、びびっているのか?」


「お前、いたのか……」


背後にいたセレッソに応える。


「ずっといたぞ。お前が寂しがるだろうから、離れずにいてやる」


いつもなら余計なお世話だと言ってやるところだが、正直今日はセレッソがいると思うだけでも心が落ち着いた。


「なぁ、セレッソ。本当に、僕みたいなものがこの戦争を終わらせるのか?」


「勘違いするな、誠。戦争を終わらせるのではない。この世界を救うんだ」


どう違うんだ。

あ、そうか。アッシアの魔王はファーストステージのラスボス。


じゃあ、アルバロノドフみたいに強い敵が、他にもいっぱい出てくるってことか?


だとしたら、僕なんか役に立たない気がするんだけど……。


「心配するな」


後ろから、セレッソが囁くように言う。


「お前はいてくれるだけで良い。役に立つとか立たないとか、そんなことは考えるな。怖くて震えてもいい。逃げ出したっていいんだ。最後、お前がやつの前に立つことだけが重要なんだからな」


セレッソの言葉は、僕の脳を溶かしてしまうのではないか、というほど甘くて、優しく響いた。


でも、本当にそれでいいのか?


っていうか、それだけでいいなら、お前は僕に何をさせるつもりなんだ。


振り向いて、セレッソの表情を確認しようと思ったが、フィオナたちの方が何やら騒がしくなっていた。


「このままでは、徐々に削られるだけです」


フィオナが司令室の全員に呼びかけているみたいだった。


「これから、魔王を討つことも考えると、できるだけ消耗は抑えたい。先手を打って、アルバロノドフに強襲をかけましょう。やつの居場所はどこか?」


「先ほど、旗艦に戻ってから移動した様子はありません」


「では、中央の敵旗艦へ精鋭たちを突撃させます。待機中の勇者たちに、間もなく出撃と伝えるように」


どうやら、ハナちゃんたちは敵の本拠地とも言える船に、直接突っ込むようだ。


「大丈夫なのかな……」


僕の呟きにセレッソが答える。


「多少強引だが、敵兵はカザモ基地の攻撃に意識が向いている。ここで一点突破によって不意を突くことができるなら、アルバロノドフを叩くチャンスかもしれないな」


でも、船の中にたくさん敵がいたらどうするんだ?


強化兵だって船の中にいるかもしれないじゃないか。


フィオナがマイクを取った。


「勇者を含む、すべての戦士たちへ。これから、五人の勇者による、敵旗艦に対する強襲攻撃を行います。五人の勇者たちが中央を駆け抜けられるよう、何としても道を作ってください」


それから間もなくして、ハナちゃんたちが基地から飛び出す姿が、モニターに映し出された。


戦場のど真ん中を、五人の勇者が駆け抜けていく。アッシア兵がそれを阻もうと立ちふさがるが、オクトの戦士も負けじとそれを押し返した。


でも……もっとカメラ近づけないのか??


これじゃ、ハナちゃんが本当に無事なのか、よく分からないじゃないか!


「精鋭勇者、敵旗艦まで距離五十!」


オペレーターさんの報告に、馬部さんが小さく息を吐いた。


「これなら、何とか船まで行けそうですね」


馬部さんの呟きに、横のフィオナも小さく頷く。


「精鋭勇者、敵旗艦に侵入!」


どうやら、無事にたどり着いたらしい。でも、船の中だって危険なはず。フィオナも落ち着かない様子だ。


「勇者、皇颯斗に装着したカメラは?」


「映像、きます!」


モニターに船の中の映像が映し出される。ハナちゃんの後ろ姿も!


五人はどんどん船の奥へ進む。

何度かアッシア兵が現れたが、狭田が瞬時にそれを殴り飛ばした。


どうやら、あいつの実力は口だけではないらしい。しばらくして、ハナちゃんたちの足が止まった。すると、皇の声が。


「第一艦橋に到着しました。これから突入します」


どうやら、アルバロノドフが待つ、司令室のような場所にたどり着いたらしい。


「お願いします」


フィオナの声を合図に、皇たちが第一艦橋の扉を開けた。


ドンッ、と遠くから爆発音らしい音が聞こえた。


同時に、ハナちゃんたちが映っていたモニターが、電源を落としたように、真っ暗になってしまうのだった。

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